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「お待たせいたしました、ギッファのひれ肉~フォアグラとクラウン茸を添えて~でございます」
やってきた肉料理は厚切りの肉にこれまた厚切りのフォアグラと薄切りにされた黒いキノコを添えたもの。……これは間違いなく牛ヒレ肉のロッシーニ風だ!!
流石に食べるのは初めてだが音楽家ジョアキーノ・ロッシーニにインスパイアされた料理、ナイフとフォークで肉を切り分け口に入れる。これは間違いなく牛のうまみ、フォアグラとソースのコクが口いっぱいに広がる。
「ハルヒもウヅキもあちらの世界では庶民だと言っていましたが……食事の作法は貴族が見ても完璧です。どういうことなんでしょうか?」
肉料理アントレを半分ほど食べたあたりで、エレノアがそんなことを口にした。これをうまく説明するには日本という国の体制について話さねばならないような……別にそこまで詳しく話す必要もないような。
「まぁ……趣味と実益を兼ねて?」
「私や雨月が暮らしている国は貴族らしい貴族がいないから、平民なりに教養を磨けばこういう時に重宝するってわけ。一応、私たちが住んでいる国とは別の国の食事に形式が似ているから、合わせられるってわけね」
「なるほど……やはり異世界は進んでいますね」
「どうかな? 魔法があるこっちの世界の方がすごい部分もあると思うけどね」
食べ進めつつ話題は少しずつ双方の世界の技術や価値観についてシフトしていった。ドラゴンも討伐したことだし、数日中には地球に帰るのだろう。そう思うと、少しだけ寂しさがこみあげてきた。
「ご歓談中に失礼いたします。デザートをお持ちしてもよろしいですか?」
給仕さんがそう声をかけてきたのは、メインディッシュを食べ終えた頃だった。このタイミングで、どうしても食べたければパスタか何かしらのおかわりがもらえるようだが、メインディッシュと一緒にパンも食べているしと思い、私も雨月もデザートに進むことにした。
「えぇ、お願いします」
とエレノアが答えると、給仕さんはワゴンを押しながら近づいてくる。
「こちら、本日のドルチェになります。ベリータルトでございます」
テーブルに置かれたそれはまさしく、宝石のような輝きを放つベリー類たっぷりのケーキだった。形で言えばブルーベリーとかクランベリーみたいな感じの小さいものが多いのだけれど、色味で言えば金柑くらいオレンジ色のものやシャインマスカットみたいな緑色のものまである。
タルト生地もフォークで切って心地いい固さだ。いざ、実食。
「美味しい!」
「おいしい」
一口食べて思わず叫んでしまった。なんだこれ、今までにない食感だ! 甘酸っぱい味がまず口の中に広がって、そのあとすぐにほろ苦さが追いかけてくる。まるで果実そのものを噛んでいるかのようなみずみずしい味わいだ。
にしても、こっちの世界にもこれだけ美味しいお菓子があるんだなと感心してしまった、砂糖やクリームの質がいい。おそらく卵も。明日、自分たちでする料理がだんだんと楽しみになっていた。知らない食材ばかりで料理をするのは不安だが、美味しいものは確実に作れそうだ。
「本当に美味しかったです。ありがとうございます」
デザートを食べ終えた頃、王様の側に高いコック帽をかぶったダンディなおじさんが現れた。
「紹介しよう、この城の料理長をしているマゼラ・ディルクじゃ」
「初めまして、若き英雄殿。ドラゴンを討伐していただき、誠にありがとうございます。……まさか食べようとされるとは思いもよりませんでしたが」
ディルク料理長が帽子を脱いで頭を下げる。私と雨月は慌てて立ち上がり、頭を上げるよう促す。
「いえ、こちらこそ。こんなに素晴らしい料理を作ってくださって、感謝しています。それに、こちらの世界で料理を作る機会を与えて下さって……ありがとうございます」
それから少しだけ料理について語り合った後、
「明日は大人数に料理を振る舞うことになると思います。だから、料理長にもお力を貸してもらえませんか?」
「むしろ光栄です。ドラゴン討伐を成し遂げた英雄殿とともに料理ができるのですから。しかも食材は討伐したドラゴンなんて、そうそう体験できることじゃありませんよ」
明日の調理での協力を取り次いでこの日は解散となった。
やってきた肉料理は厚切りの肉にこれまた厚切りのフォアグラと薄切りにされた黒いキノコを添えたもの。……これは間違いなく牛ヒレ肉のロッシーニ風だ!!
流石に食べるのは初めてだが音楽家ジョアキーノ・ロッシーニにインスパイアされた料理、ナイフとフォークで肉を切り分け口に入れる。これは間違いなく牛のうまみ、フォアグラとソースのコクが口いっぱいに広がる。
「ハルヒもウヅキもあちらの世界では庶民だと言っていましたが……食事の作法は貴族が見ても完璧です。どういうことなんでしょうか?」
肉料理アントレを半分ほど食べたあたりで、エレノアがそんなことを口にした。これをうまく説明するには日本という国の体制について話さねばならないような……別にそこまで詳しく話す必要もないような。
「まぁ……趣味と実益を兼ねて?」
「私や雨月が暮らしている国は貴族らしい貴族がいないから、平民なりに教養を磨けばこういう時に重宝するってわけ。一応、私たちが住んでいる国とは別の国の食事に形式が似ているから、合わせられるってわけね」
「なるほど……やはり異世界は進んでいますね」
「どうかな? 魔法があるこっちの世界の方がすごい部分もあると思うけどね」
食べ進めつつ話題は少しずつ双方の世界の技術や価値観についてシフトしていった。ドラゴンも討伐したことだし、数日中には地球に帰るのだろう。そう思うと、少しだけ寂しさがこみあげてきた。
「ご歓談中に失礼いたします。デザートをお持ちしてもよろしいですか?」
給仕さんがそう声をかけてきたのは、メインディッシュを食べ終えた頃だった。このタイミングで、どうしても食べたければパスタか何かしらのおかわりがもらえるようだが、メインディッシュと一緒にパンも食べているしと思い、私も雨月もデザートに進むことにした。
「えぇ、お願いします」
とエレノアが答えると、給仕さんはワゴンを押しながら近づいてくる。
「こちら、本日のドルチェになります。ベリータルトでございます」
テーブルに置かれたそれはまさしく、宝石のような輝きを放つベリー類たっぷりのケーキだった。形で言えばブルーベリーとかクランベリーみたいな感じの小さいものが多いのだけれど、色味で言えば金柑くらいオレンジ色のものやシャインマスカットみたいな緑色のものまである。
タルト生地もフォークで切って心地いい固さだ。いざ、実食。
「美味しい!」
「おいしい」
一口食べて思わず叫んでしまった。なんだこれ、今までにない食感だ! 甘酸っぱい味がまず口の中に広がって、そのあとすぐにほろ苦さが追いかけてくる。まるで果実そのものを噛んでいるかのようなみずみずしい味わいだ。
にしても、こっちの世界にもこれだけ美味しいお菓子があるんだなと感心してしまった、砂糖やクリームの質がいい。おそらく卵も。明日、自分たちでする料理がだんだんと楽しみになっていた。知らない食材ばかりで料理をするのは不安だが、美味しいものは確実に作れそうだ。
「本当に美味しかったです。ありがとうございます」
デザートを食べ終えた頃、王様の側に高いコック帽をかぶったダンディなおじさんが現れた。
「紹介しよう、この城の料理長をしているマゼラ・ディルクじゃ」
「初めまして、若き英雄殿。ドラゴンを討伐していただき、誠にありがとうございます。……まさか食べようとされるとは思いもよりませんでしたが」
ディルク料理長が帽子を脱いで頭を下げる。私と雨月は慌てて立ち上がり、頭を上げるよう促す。
「いえ、こちらこそ。こんなに素晴らしい料理を作ってくださって、感謝しています。それに、こちらの世界で料理を作る機会を与えて下さって……ありがとうございます」
それから少しだけ料理について語り合った後、
「明日は大人数に料理を振る舞うことになると思います。だから、料理長にもお力を貸してもらえませんか?」
「むしろ光栄です。ドラゴン討伐を成し遂げた英雄殿とともに料理ができるのですから。しかも食材は討伐したドラゴンなんて、そうそう体験できることじゃありませんよ」
明日の調理での協力を取り次いでこの日は解散となった。
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