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#07 佑奈視点
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連休が明けた火曜日、放課後の図書室で、佳子ちゃんはいつも以上に饒舌だった。
「この前は来てくれてありがとう。えへへ、もう何度も見た映画だったのに、すごく新鮮な気持ちで見られたよ」
私は少し驚いた顔をしながら佳子ちゃんを見つめた。
「そ、そうなんだ。嬉しいよ。私こそ、誘ってくれてありがとう」
正直なところ、映画の内容についてはあまり記憶がはっきりしない。画面を眺めながら、私はずっと佳子ちゃんの横顔を意識していた。彼女はどんな気持ちでこの映画を選んだんだろう。何を思って、私を誘ったんだろう。そんなことばかり考えていたから、話の細かい部分はほとんど抜け落ちていた。
「うん。佑奈が来てくれると、家が急に明るくなる気がするんだ」
佳子ちゃんはそう言って、ふわりと微笑んだ。その笑顔はいつものどこか余裕のあるものではなく、どことなく嬉しさがにじんでいて、私の胸の奥をふっと温めた。
「佑奈って不思議だよね。そんなに特別なことしてないのに、いるだけでホッとする」
「そんなこと……」
そう言いながら、私は思わず俯いてしまった。こんな風にストレートに言われると、なんだかくすぐったい。それに、私は本当に何もしていない。ただ佳子ちゃんに誘われて、一緒にいただけだというのに。
そんな私の気持ちを察したのか、佳子ちゃんがそっと寄り添うようにくっついてきた。驚いて顔を上げると、佳子ちゃんの髪がふわりと揺れ、甘い香りがほんのりと漂ってくる。近い。最近、私たちの距離はどんどん縮まってきた気がする。
「ほんとだよ。だから、もっと一緒にいたいんだ」
その言葉は真っ直ぐで、強引なようでいて、どこか必死にも聞こえた。
一瞬、私は言葉を失った。佳子ちゃんの瞳は真剣で、まるで私が何かを否定する前に、その気持ちを伝えようとするかのようだった。
……どうしよう。胸がどきどきする。
「私なんかで、本当にいいの?」
気づけば、その言葉がこぼれていた。自分で言っておきながら、驚いた。でも、それはずっと心の中にあった思いだった。佳子ちゃんは華やかで、頭も良くて、家だってすごく立派で。私はただ流されるように、佳子ちゃんと過ごしているだけ。私は何も返せていないのに、こんな風に求められてしまっていいんだろうか。
佳子ちゃんは私の言葉に、少しだけ目を丸くした。そして、困ったように笑う。
「そういうの、やめてほしいな。私がいいって思ってるんだから、それで十分でしょ?」
その言葉は優しくて、けれどどこか焦りが滲んでいるようにも聞こえた。佳子ちゃんが、こういうふうに感情をあらわにするのは珍しい。
「ねぇ、明日からさ……私の部屋で勉強しない?」
「え?」
私は思わず聞き返してしまった。佳子ちゃんは、少し照れたように視線を落としながら続ける。
「ここじゃなくてもさ、私は寂しくなくなるし、佑奈は家の電気代を抑えられる。ダメかな?」
寂しくなくなる。佳子ちゃんは、さらりとそう言った。でも、それは本音なんだろう。佳子ちゃんはひとりで広い家に住んでいる。どんなに豪華な部屋でも、帰ってきて誰もいなければ、寂しさが募るのは当然かもしれない。
「け、佳子ちゃんさえよければ……」
私がそう答えると、佳子ちゃんはぱっと表情を明るくした。
「じゃあ決まりね」
そう言って、満足そうに微笑む佳子ちゃんの顔を見ながら、私は自分の胸の奥にじんわりと温かい何かが広がっていくのを感じていた。
図書室を出る頃には、すっかり外が夕焼け色に染まっていた。廊下の窓から差し込む光が、佳子ちゃんの横顔をやわらかく照らしている。それがなんだかとても綺麗に思えて、つい……またねって言いたくなくなってしまった。
「佑奈?」
「あ、ううん。なんでもない。またね、佳子ちゃん」
「うん。また明日」
明日から、佳子ちゃんの家で勉強をする。それが、なんだかとても嬉しかった。
「この前は来てくれてありがとう。えへへ、もう何度も見た映画だったのに、すごく新鮮な気持ちで見られたよ」
私は少し驚いた顔をしながら佳子ちゃんを見つめた。
「そ、そうなんだ。嬉しいよ。私こそ、誘ってくれてありがとう」
正直なところ、映画の内容についてはあまり記憶がはっきりしない。画面を眺めながら、私はずっと佳子ちゃんの横顔を意識していた。彼女はどんな気持ちでこの映画を選んだんだろう。何を思って、私を誘ったんだろう。そんなことばかり考えていたから、話の細かい部分はほとんど抜け落ちていた。
「うん。佑奈が来てくれると、家が急に明るくなる気がするんだ」
佳子ちゃんはそう言って、ふわりと微笑んだ。その笑顔はいつものどこか余裕のあるものではなく、どことなく嬉しさがにじんでいて、私の胸の奥をふっと温めた。
「佑奈って不思議だよね。そんなに特別なことしてないのに、いるだけでホッとする」
「そんなこと……」
そう言いながら、私は思わず俯いてしまった。こんな風にストレートに言われると、なんだかくすぐったい。それに、私は本当に何もしていない。ただ佳子ちゃんに誘われて、一緒にいただけだというのに。
そんな私の気持ちを察したのか、佳子ちゃんがそっと寄り添うようにくっついてきた。驚いて顔を上げると、佳子ちゃんの髪がふわりと揺れ、甘い香りがほんのりと漂ってくる。近い。最近、私たちの距離はどんどん縮まってきた気がする。
「ほんとだよ。だから、もっと一緒にいたいんだ」
その言葉は真っ直ぐで、強引なようでいて、どこか必死にも聞こえた。
一瞬、私は言葉を失った。佳子ちゃんの瞳は真剣で、まるで私が何かを否定する前に、その気持ちを伝えようとするかのようだった。
……どうしよう。胸がどきどきする。
「私なんかで、本当にいいの?」
気づけば、その言葉がこぼれていた。自分で言っておきながら、驚いた。でも、それはずっと心の中にあった思いだった。佳子ちゃんは華やかで、頭も良くて、家だってすごく立派で。私はただ流されるように、佳子ちゃんと過ごしているだけ。私は何も返せていないのに、こんな風に求められてしまっていいんだろうか。
佳子ちゃんは私の言葉に、少しだけ目を丸くした。そして、困ったように笑う。
「そういうの、やめてほしいな。私がいいって思ってるんだから、それで十分でしょ?」
その言葉は優しくて、けれどどこか焦りが滲んでいるようにも聞こえた。佳子ちゃんが、こういうふうに感情をあらわにするのは珍しい。
「ねぇ、明日からさ……私の部屋で勉強しない?」
「え?」
私は思わず聞き返してしまった。佳子ちゃんは、少し照れたように視線を落としながら続ける。
「ここじゃなくてもさ、私は寂しくなくなるし、佑奈は家の電気代を抑えられる。ダメかな?」
寂しくなくなる。佳子ちゃんは、さらりとそう言った。でも、それは本音なんだろう。佳子ちゃんはひとりで広い家に住んでいる。どんなに豪華な部屋でも、帰ってきて誰もいなければ、寂しさが募るのは当然かもしれない。
「け、佳子ちゃんさえよければ……」
私がそう答えると、佳子ちゃんはぱっと表情を明るくした。
「じゃあ決まりね」
そう言って、満足そうに微笑む佳子ちゃんの顔を見ながら、私は自分の胸の奥にじんわりと温かい何かが広がっていくのを感じていた。
図書室を出る頃には、すっかり外が夕焼け色に染まっていた。廊下の窓から差し込む光が、佳子ちゃんの横顔をやわらかく照らしている。それがなんだかとても綺麗に思えて、つい……またねって言いたくなくなってしまった。
「佑奈?」
「あ、ううん。なんでもない。またね、佳子ちゃん」
「うん。また明日」
明日から、佳子ちゃんの家で勉強をする。それが、なんだかとても嬉しかった。
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