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#11 佑奈視点
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秋が深まり、学校ではもう目前に迫ってきた文化祭のことで話がもちきりになっていた。
そんな中で私は最近、佳子ちゃんのことを避けてしまっているのを自覚していた。
佳子ちゃんの家に招かれるたびに、豪華なお菓子に、美味しい紅茶、最近はお洋服まで――いつの間にか私は、それらを受け取ることが当たり前になっている気がして怖くなった。
もっと一緒にいたい――前に佳子ちゃんが言ってくれた言葉を思い出す。ただ求められることは嬉しいけれど、それ以上に怖い。私には何も返してあげられないから。一度だけ、佳子ちゃんのために料理をしたことがあるけれど、私は料理のプロでもないし、確かに佳子ちゃんが用意してくれた素材がいいから普段より美味しく作れたとは思う。でも、佳子ちゃんがいつも食べている料理の方が美味しかった……。だからそれ以来、料理はしてない。
「はぁ……」
つい、溜息が出てしまう。教室で話はするけど、家にはしばらく行っていない。胸がぎゅっと痛んだけれど、このまま一緒にいる方が、もっと辛くなる気がして――。
それに、美咲ちゃんから嫌な噂も聞いてしまった。
「佑奈、最近どうして私を避けるの?」
昇降口で待ち構えていた佳子ちゃんに声をかけられた。予想外の場所で突然聞かれて、心臓が飛び上がるような気持ちだった。
「ぶ、文化祭の準備が忙しいから、ね?」
言い訳じみた言葉しか出てこない私に、佳子ちゃんは一歩近づく。鞄を握る指が少し震えているのがわかった。
「それだけじゃないよね。ねぇ、佑奈……私、何か嫌なことした?」
佳子ちゃんの声は少し震えていた。
「そんなんじゃないよ!」
慌てて否定したけれど、彼女の目が揺れるのを見て、私は言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、なんで……?」
佳子ちゃんは問い詰めるように言う。その声は強がっているけれど、どこか脆かった。
「私は……怖いの。もらうことに慣れて、我儘になっちゃったらどうしようって……」
「だから何なの?」
佳子ちゃんの声が強くなった。私を黙らせるような、切羽詰まった響きだった。
「私は、佑奈がいないとダメなのに。私が一番我儘だよ……佑奈は、どうしたら一緒にいてくれるの? 私ね、怖いんだ。佑奈がいなくなるのが。だから、せめて私があげられるもので引き留めたいのに……それもダメなら、私に何が残るの?」
その言葉が、胸に刺さった。佳子ちゃんがこんな風に思っていたなんて、考えもしなかった。だけど、それでも私は……。
「で、でも……私、何もしてあげられない」
「一緒にいてくれればいいの。本当よ。だって……ずっと一緒にいるなんて、一番難しいことだもの……」
潤んだ佳子ちゃんの瞳から目が離せない。私は、お父さんがいなくなってからずっと寂しかった。お母さんが必死に働いて、私は一人で過ごすことが多かった。お母さんが私のために仕事も抑えてくれたから、寂しくなくなったけど……。佳子ちゃんは……両親が海外に行ってしまって、きっと今も寂しいままなんだ。
「ケーキやお洋服をあげたいわけじゃないの」
佳子ちゃんの声は震えていた。涙を浮かべたまま、私を真っ直ぐ見つめる。
「私が、ただ貴女と一緒にケーキを食べたり、お揃いの服を着たりしたいだけなの。全部私の我儘だよ。だから、だから……友達でいてよ」
そう言いながら、佳子は私の手に何かを握らせた。それは、きれいに折りたたまれた一万円札だった。
「ちょ、ちょっと佳子ちゃ、これ……!」
慌てて突き返そうとする私を、佳子ちゃんは力強く抱きしめた。
「お願い……受け取って」
佳子の声は震えていて、どこか必死だった。
「佳子ちゃん……でも、こんなのダメだよ。お金なんて受け取れない。私たちの関係はお金に代えられるものなの!?」
突き返したいのに、抱きしめられているせいでどうしていいのか分からない。
「……違う。違うの。でも、何でもいいから、私の気持ちを受け取ってほしいの」
「佳子ちゃん……」
その言葉に、私は返す言葉を失った。
佳子の腕の中で、私は動けずにいた。佳子の細い体が、小さく震えているのが伝わってくる。
「ありがとう……」
お金はどうしていいか分からないけど、とにかく気持ちは受け取りたいと、本心からそう思った。
そんな中で私は最近、佳子ちゃんのことを避けてしまっているのを自覚していた。
佳子ちゃんの家に招かれるたびに、豪華なお菓子に、美味しい紅茶、最近はお洋服まで――いつの間にか私は、それらを受け取ることが当たり前になっている気がして怖くなった。
もっと一緒にいたい――前に佳子ちゃんが言ってくれた言葉を思い出す。ただ求められることは嬉しいけれど、それ以上に怖い。私には何も返してあげられないから。一度だけ、佳子ちゃんのために料理をしたことがあるけれど、私は料理のプロでもないし、確かに佳子ちゃんが用意してくれた素材がいいから普段より美味しく作れたとは思う。でも、佳子ちゃんがいつも食べている料理の方が美味しかった……。だからそれ以来、料理はしてない。
「はぁ……」
つい、溜息が出てしまう。教室で話はするけど、家にはしばらく行っていない。胸がぎゅっと痛んだけれど、このまま一緒にいる方が、もっと辛くなる気がして――。
それに、美咲ちゃんから嫌な噂も聞いてしまった。
「佑奈、最近どうして私を避けるの?」
昇降口で待ち構えていた佳子ちゃんに声をかけられた。予想外の場所で突然聞かれて、心臓が飛び上がるような気持ちだった。
「ぶ、文化祭の準備が忙しいから、ね?」
言い訳じみた言葉しか出てこない私に、佳子ちゃんは一歩近づく。鞄を握る指が少し震えているのがわかった。
「それだけじゃないよね。ねぇ、佑奈……私、何か嫌なことした?」
佳子ちゃんの声は少し震えていた。
「そんなんじゃないよ!」
慌てて否定したけれど、彼女の目が揺れるのを見て、私は言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、なんで……?」
佳子ちゃんは問い詰めるように言う。その声は強がっているけれど、どこか脆かった。
「私は……怖いの。もらうことに慣れて、我儘になっちゃったらどうしようって……」
「だから何なの?」
佳子ちゃんの声が強くなった。私を黙らせるような、切羽詰まった響きだった。
「私は、佑奈がいないとダメなのに。私が一番我儘だよ……佑奈は、どうしたら一緒にいてくれるの? 私ね、怖いんだ。佑奈がいなくなるのが。だから、せめて私があげられるもので引き留めたいのに……それもダメなら、私に何が残るの?」
その言葉が、胸に刺さった。佳子ちゃんがこんな風に思っていたなんて、考えもしなかった。だけど、それでも私は……。
「で、でも……私、何もしてあげられない」
「一緒にいてくれればいいの。本当よ。だって……ずっと一緒にいるなんて、一番難しいことだもの……」
潤んだ佳子ちゃんの瞳から目が離せない。私は、お父さんがいなくなってからずっと寂しかった。お母さんが必死に働いて、私は一人で過ごすことが多かった。お母さんが私のために仕事も抑えてくれたから、寂しくなくなったけど……。佳子ちゃんは……両親が海外に行ってしまって、きっと今も寂しいままなんだ。
「ケーキやお洋服をあげたいわけじゃないの」
佳子ちゃんの声は震えていた。涙を浮かべたまま、私を真っ直ぐ見つめる。
「私が、ただ貴女と一緒にケーキを食べたり、お揃いの服を着たりしたいだけなの。全部私の我儘だよ。だから、だから……友達でいてよ」
そう言いながら、佳子は私の手に何かを握らせた。それは、きれいに折りたたまれた一万円札だった。
「ちょ、ちょっと佳子ちゃ、これ……!」
慌てて突き返そうとする私を、佳子ちゃんは力強く抱きしめた。
「お願い……受け取って」
佳子の声は震えていて、どこか必死だった。
「佳子ちゃん……でも、こんなのダメだよ。お金なんて受け取れない。私たちの関係はお金に代えられるものなの!?」
突き返したいのに、抱きしめられているせいでどうしていいのか分からない。
「……違う。違うの。でも、何でもいいから、私の気持ちを受け取ってほしいの」
「佳子ちゃん……」
その言葉に、私は返す言葉を失った。
佳子の腕の中で、私は動けずにいた。佳子の細い体が、小さく震えているのが伝わってくる。
「ありがとう……」
お金はどうしていいか分からないけど、とにかく気持ちは受け取りたいと、本心からそう思った。
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