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入浴後、クロワッサンにサラダ、コーンポタージュ、カットフルーツという朝食を済ませた二人は近くの駅から電車に乗り、スターパレスショッピングモールという大型商業施設へとやってきた。
「えへへ、友達とここに来るの、初めてなんだぁ。相手が佑奈で私、ほんとに嬉しいよ」
「そ、そんな、照れるよ。ごめんね、電車代まで……」
手を繋ぐどころか腕をくむほど密着した二人はモールの二階にあるピーチフィールというテナントに向かっていた。
「あ、ねぇ知ってる? ピーチフィールも天寿のブランドの一つなんだよ」
「そうなんだ。えっと、星花女子のオーナー企業だよね?」
「うん。いろんなことやってる会社だよねぇ」
佑奈と佳子が受験しようとしている星花女子学園は当然学校法人であるが、その母体には天寿という、二人が住む空の宮市に本社を置く企業がある。アパレルや化粧品などの製造・小売りをしている企業が、なぜ学校の経営に携わっているかというと、かつて経営の傾いた星花女子学園を母校だからと創業社長が手を差し伸べたことに起因する。
「天寿が星花女子の経営に加わってから、全体的におしゃれな雰囲気になったらしいね。それが今の人気にもつながっているのかも。ほら、芸能人の入学にも積極的だし」
天寿は自社のファッションモデルを皮切りに芸能事業部を立ち上げている。東京まで新幹線なら二時間程度という立地が、地元を大事にしつつも華やかな環境に挑みたい少女たちを後押ししているのだろう。
「さて、とうちゃーく。えへへ、佑奈にはどんなのが似合うかなぁ」
そんな話をしているうちに、ピーチフィールのテナントに到着した二人。
「なんでかなあ、専門店ってなるとちょっと緊張するよ……」
「そういうものかな? ここ、サイズ展開がけっこうあるから、ひょっとしたらお揃いとかもできちゃったりして」
楽しそうに色どりゆたかな下着たちを眺める佳子の後ろについてまわる佑奈。高そうなものばかりに見えるが、いざ値札を見てみると――
「たか……い? あれ、そうでもないかも?」
そこに書かれていた金額は二千円程度から高くてもその倍くらいのものだった。店内の雰囲気やおしゃれなデザインそれになりより佳子に連れてこられたということから、一着で一万円くらいするのではないかと怯えていた佑奈だが、常識の範囲内の金額にほっと胸をなでおろすのだった。
「この際だから十着くらい欲しいわね。普段使いするやつに体育のある日に使うやつとか、あとはそうね、寝る時用があってもいいし、ある程度アジャスターで調整できるものがいいわね。取り敢えず採寸からかしら。店員さーん」
ブツブツと呟いていた佳子が唐突に店員を呼ぶものだから、佑奈はビクっとしてしまった。ほどなくして現れた若い女性スタッフにより、正確なサイズを測定された佑奈は、そのサイズがあるコーナーへと案内された。
「……」
想像よりもうワンサイズ大きかったことに、佳子は同い年だというのにと、愕然とした気持ちになった。脳裏をよぎった言葉はシンプルに『遺伝』であった。
「さぁ、選ぼうか。もちろん佑奈も気に入ったものがあれば教えてね」
「う、うん……でもいいの? こんなにおしゃれなもの……別に、誰かが見るわけじゃないし」
「私が見るの。というか、佑奈はもっと自信を持ちなよ。可愛いよ、佑奈は。私が保証する」
佑奈は顔を赤らめながら、佳子の言葉に戸惑いを見せた。
こんなに可愛らしくて、華やかなデザインの下着を身につけることに、正直なところ少し抵抗がある。
「何を照れてるのよ。こういうのって、可愛いものを身につけることで気分が上がるんだから。むしろ誰かに見せるかどうかは関係ないのよ?」
佳子は当然のように言いながら、手に取った下着をじっくりと吟味している。レースやリボンが施された繊細なデザインのもの、シンプルだけれど上品なもの、ちょっと大胆なデザインのものまで、どれも目移りするほど可愛らしい。
「それに、佑奈に似合うものを選ぶのって楽しいのよね」
「……そういうもの?」
「そういうものよ!」
断言しながら佳子は何着かの下着を手に取り、佑奈に軽くあてがう。中でも一着に目を付けると、ちょっと待っててと言って佳子自身のサイズがあるコーナーへと向かった。その様子を見ながら店員に声をかけられた佑奈。
「お友達ですか?」
「はい。……とても大切な」
ほのかに頬を染めての返答に、店員は目を瞬かせるのだった。ほどなくして佳子が戻ってきた。
「これ、サイズ違いで見つけたからお揃いにしようね。これ、ぜったい佑奈に似合うから。店員さん、この子を試着に案内して」
「はい、かしこまりました」
試着室にて実際に身に着けた佑奈を、カーテンの隙間から佳子が覗く。
「すっごく似合ってるね。どう、着けた心地は?」
「う、うん。なんか、普段より楽かも。窮屈さがないっていうか……」
「よかったぁ。なら、もうそのまま着てく?」
佳子が軽く提案するように言うと、店員がすかさず制した。
「お客様、いけませんよ。新品のランジェリーって、工場で作られるときにいろんな人の手を経ていますし、輸送中のホコリや微細な繊維がついていることもあるんです。それに、一度洗うことで生地がなじんで、肌触りも良くなります。直接肌に触れるものですから、お洗濯してからにしてくださいね」
「そ、それもそうね……。佑奈、お洗濯……できる?」
「え? あっと、家ではやるけど……どうかな、洗濯機を見てみないと……」
「じゃあ、帰ったら早速洗おうね。着替えたらまた声かけて」
そう言って試着室に突っ込んでいた首をひっこめた佳子は、佑奈に合うサイズの下着が売られたコーナーに戻ると、
「この色もいいし、こっちの柄も素敵、これはノンワイヤーだし、あぁこれもいいなぁ」
次々に商品を手に取り、あっという間に二週間分くらいの着数になっていた。店員が気を利かせてカゴを手渡し、さらにおすすめされた洗濯ネットもカゴに入れた。
「ちょっ、ちょっと待って! そんなにたくさん!?」
着替え終えた佑奈が合流すると、カゴに入った商品の多さに驚く。さすがにすべてが佑奈のものではないが、比率で言えば七割ほどがそうだった。
「いいのいいの。これくらいは必要よ」
佳子が楽しそうに選んでいく様子を見て、佑奈は圧倒されながらも、胸の奥にじんわりと温かいものを感じていた。
(……佳子が、私のためにこんなに一生懸命になってくれるなんて)
そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。結局、佳子に押し切られる形で、佑奈はお揃いの下着を含め、佳子の選んだ商品をすべて受け入れることにした。
「えへへ、友達とここに来るの、初めてなんだぁ。相手が佑奈で私、ほんとに嬉しいよ」
「そ、そんな、照れるよ。ごめんね、電車代まで……」
手を繋ぐどころか腕をくむほど密着した二人はモールの二階にあるピーチフィールというテナントに向かっていた。
「あ、ねぇ知ってる? ピーチフィールも天寿のブランドの一つなんだよ」
「そうなんだ。えっと、星花女子のオーナー企業だよね?」
「うん。いろんなことやってる会社だよねぇ」
佑奈と佳子が受験しようとしている星花女子学園は当然学校法人であるが、その母体には天寿という、二人が住む空の宮市に本社を置く企業がある。アパレルや化粧品などの製造・小売りをしている企業が、なぜ学校の経営に携わっているかというと、かつて経営の傾いた星花女子学園を母校だからと創業社長が手を差し伸べたことに起因する。
「天寿が星花女子の経営に加わってから、全体的におしゃれな雰囲気になったらしいね。それが今の人気にもつながっているのかも。ほら、芸能人の入学にも積極的だし」
天寿は自社のファッションモデルを皮切りに芸能事業部を立ち上げている。東京まで新幹線なら二時間程度という立地が、地元を大事にしつつも華やかな環境に挑みたい少女たちを後押ししているのだろう。
「さて、とうちゃーく。えへへ、佑奈にはどんなのが似合うかなぁ」
そんな話をしているうちに、ピーチフィールのテナントに到着した二人。
「なんでかなあ、専門店ってなるとちょっと緊張するよ……」
「そういうものかな? ここ、サイズ展開がけっこうあるから、ひょっとしたらお揃いとかもできちゃったりして」
楽しそうに色どりゆたかな下着たちを眺める佳子の後ろについてまわる佑奈。高そうなものばかりに見えるが、いざ値札を見てみると――
「たか……い? あれ、そうでもないかも?」
そこに書かれていた金額は二千円程度から高くてもその倍くらいのものだった。店内の雰囲気やおしゃれなデザインそれになりより佳子に連れてこられたということから、一着で一万円くらいするのではないかと怯えていた佑奈だが、常識の範囲内の金額にほっと胸をなでおろすのだった。
「この際だから十着くらい欲しいわね。普段使いするやつに体育のある日に使うやつとか、あとはそうね、寝る時用があってもいいし、ある程度アジャスターで調整できるものがいいわね。取り敢えず採寸からかしら。店員さーん」
ブツブツと呟いていた佳子が唐突に店員を呼ぶものだから、佑奈はビクっとしてしまった。ほどなくして現れた若い女性スタッフにより、正確なサイズを測定された佑奈は、そのサイズがあるコーナーへと案内された。
「……」
想像よりもうワンサイズ大きかったことに、佳子は同い年だというのにと、愕然とした気持ちになった。脳裏をよぎった言葉はシンプルに『遺伝』であった。
「さぁ、選ぼうか。もちろん佑奈も気に入ったものがあれば教えてね」
「う、うん……でもいいの? こんなにおしゃれなもの……別に、誰かが見るわけじゃないし」
「私が見るの。というか、佑奈はもっと自信を持ちなよ。可愛いよ、佑奈は。私が保証する」
佑奈は顔を赤らめながら、佳子の言葉に戸惑いを見せた。
こんなに可愛らしくて、華やかなデザインの下着を身につけることに、正直なところ少し抵抗がある。
「何を照れてるのよ。こういうのって、可愛いものを身につけることで気分が上がるんだから。むしろ誰かに見せるかどうかは関係ないのよ?」
佳子は当然のように言いながら、手に取った下着をじっくりと吟味している。レースやリボンが施された繊細なデザインのもの、シンプルだけれど上品なもの、ちょっと大胆なデザインのものまで、どれも目移りするほど可愛らしい。
「それに、佑奈に似合うものを選ぶのって楽しいのよね」
「……そういうもの?」
「そういうものよ!」
断言しながら佳子は何着かの下着を手に取り、佑奈に軽くあてがう。中でも一着に目を付けると、ちょっと待っててと言って佳子自身のサイズがあるコーナーへと向かった。その様子を見ながら店員に声をかけられた佑奈。
「お友達ですか?」
「はい。……とても大切な」
ほのかに頬を染めての返答に、店員は目を瞬かせるのだった。ほどなくして佳子が戻ってきた。
「これ、サイズ違いで見つけたからお揃いにしようね。これ、ぜったい佑奈に似合うから。店員さん、この子を試着に案内して」
「はい、かしこまりました」
試着室にて実際に身に着けた佑奈を、カーテンの隙間から佳子が覗く。
「すっごく似合ってるね。どう、着けた心地は?」
「う、うん。なんか、普段より楽かも。窮屈さがないっていうか……」
「よかったぁ。なら、もうそのまま着てく?」
佳子が軽く提案するように言うと、店員がすかさず制した。
「お客様、いけませんよ。新品のランジェリーって、工場で作られるときにいろんな人の手を経ていますし、輸送中のホコリや微細な繊維がついていることもあるんです。それに、一度洗うことで生地がなじんで、肌触りも良くなります。直接肌に触れるものですから、お洗濯してからにしてくださいね」
「そ、それもそうね……。佑奈、お洗濯……できる?」
「え? あっと、家ではやるけど……どうかな、洗濯機を見てみないと……」
「じゃあ、帰ったら早速洗おうね。着替えたらまた声かけて」
そう言って試着室に突っ込んでいた首をひっこめた佳子は、佑奈に合うサイズの下着が売られたコーナーに戻ると、
「この色もいいし、こっちの柄も素敵、これはノンワイヤーだし、あぁこれもいいなぁ」
次々に商品を手に取り、あっという間に二週間分くらいの着数になっていた。店員が気を利かせてカゴを手渡し、さらにおすすめされた洗濯ネットもカゴに入れた。
「ちょっ、ちょっと待って! そんなにたくさん!?」
着替え終えた佑奈が合流すると、カゴに入った商品の多さに驚く。さすがにすべてが佑奈のものではないが、比率で言えば七割ほどがそうだった。
「いいのいいの。これくらいは必要よ」
佳子が楽しそうに選んでいく様子を見て、佑奈は圧倒されながらも、胸の奥にじんわりと温かいものを感じていた。
(……佳子が、私のためにこんなに一生懸命になってくれるなんて)
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