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序章
#01
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「はぁ、寒冷化って感じ。さむ……」
2221年の3月末。やっと梅が咲こうかという気温だ。二百年ほど昔は温暖化が叫ばれ、この時期には桜が散っていたらしい。太陽の活動が衰えているのか、それとも単純に人類が減ったせいなのか、その結論はまだ出ていない。
この春に入学する学校は全寮制で、新入生は昨日から明々後日までに寮へ荷物を運びこむ。私は昨日、いの一番に寮にやってきた。まだルームメイトはだれも来ていなかったから、五人で使う部屋なのに一人で夜を明かしてしまった。
同じ棟には新三年生ばかりだから、外をうろついて、新入生と出会えればいいなと思って散歩し始めたけれど、やっぱり寒いしやめておけばよかったかな。なんて思っていたら……。
「ねぇ、君。新入生?」
歩いている人より立ち止まっている人の方が声をかけやすい。正門の前で立ち尽くす女の子がいたから声をかけてみる。声をかけてから気づいたが、ななかなにナイスバディ。ひょっとしたら上級生? いや上級生が正門の前で立ち尽くしているはずがないし、なにより彼女は大荷物を引いている。
「あ、えっと……はい。新入生です」
「じゃあ入ってきたらいいじゃない。あ、私も新入生。東恵鈴、よろしくね」
「えりん、ちゃん。よろしくね。わたし、仲藤伊澄。伊澄でいいよ」
伊澄は私より背が高く髪も長い。そんな長髪をハーフアップに結っていて、髪型とたれ目が上品で優しそうな印象を強くしている。
そんな伊澄に、こんなところで何をしているのかと改めて問う。
「いや、その……改めてこの学校の生徒になったんだなぁと思うと緊張というか、少しだけ怖くもあって……」
「もしかして迷ってる? 覚悟が決まってないならやめておいた方がいいんじゃない?」
「あはは、優しい顔して厳しいこと言うね」
苦笑いしながら頬をかく伊澄。そんな動作でさえ、ちょっと儚げで美しいとさえ思える可憐さが伊澄にはある。けれどその手に、たしかに“たこ”があった。私は思わず首を横に振った。
「私も怖いだけだよ。自分が死ぬのも。誰かが目の前で死ぬのも」
そう言いながら伊澄の真横に並ぶ。
「でもここって、そういう学校じゃない?」
伊澄にというか、自分自身に言い聞かせるようにしながら、校門の横にそびえる石柱に刻まれた学校名を見やる。
「……うん。そうだよね。ねぇ恵鈴ちゃん。手をつないで、せーので校内に入ってもいい?」
「まぁそれで伊澄の勇気がわくならいいよ」
差し出された手をそっと握る。柔らかいけど指の根本は少し硬い。この過酷な世界で確かに武器を取った人の手だ。
「「せーのっ!」」
ジャンプで校内に飛び込んだ。こんなやり取りをしている間にも着々と新入生が到着しているわけで、何人かに見られながらで少し恥ずかしかったが、まぁいいとしよう。
「あ、荷物!!」
「天然か!!」
せっかく勇気を出して入った敷地からすぐに出て行ってしまう伊澄。今度はちゃんと一人で戻ってきた。
「あはは、ごめんね」
「別にいいけど。じゃ、同じ新入生の私が言うのも変だけど。あらためて……」
伊澄と握手をしながら告げる。
「ようこそ、私立征華女子魔導高等専門学校へ!」
2221年の3月末。やっと梅が咲こうかという気温だ。二百年ほど昔は温暖化が叫ばれ、この時期には桜が散っていたらしい。太陽の活動が衰えているのか、それとも単純に人類が減ったせいなのか、その結論はまだ出ていない。
この春に入学する学校は全寮制で、新入生は昨日から明々後日までに寮へ荷物を運びこむ。私は昨日、いの一番に寮にやってきた。まだルームメイトはだれも来ていなかったから、五人で使う部屋なのに一人で夜を明かしてしまった。
同じ棟には新三年生ばかりだから、外をうろついて、新入生と出会えればいいなと思って散歩し始めたけれど、やっぱり寒いしやめておけばよかったかな。なんて思っていたら……。
「ねぇ、君。新入生?」
歩いている人より立ち止まっている人の方が声をかけやすい。正門の前で立ち尽くす女の子がいたから声をかけてみる。声をかけてから気づいたが、ななかなにナイスバディ。ひょっとしたら上級生? いや上級生が正門の前で立ち尽くしているはずがないし、なにより彼女は大荷物を引いている。
「あ、えっと……はい。新入生です」
「じゃあ入ってきたらいいじゃない。あ、私も新入生。東恵鈴、よろしくね」
「えりん、ちゃん。よろしくね。わたし、仲藤伊澄。伊澄でいいよ」
伊澄は私より背が高く髪も長い。そんな長髪をハーフアップに結っていて、髪型とたれ目が上品で優しそうな印象を強くしている。
そんな伊澄に、こんなところで何をしているのかと改めて問う。
「いや、その……改めてこの学校の生徒になったんだなぁと思うと緊張というか、少しだけ怖くもあって……」
「もしかして迷ってる? 覚悟が決まってないならやめておいた方がいいんじゃない?」
「あはは、優しい顔して厳しいこと言うね」
苦笑いしながら頬をかく伊澄。そんな動作でさえ、ちょっと儚げで美しいとさえ思える可憐さが伊澄にはある。けれどその手に、たしかに“たこ”があった。私は思わず首を横に振った。
「私も怖いだけだよ。自分が死ぬのも。誰かが目の前で死ぬのも」
そう言いながら伊澄の真横に並ぶ。
「でもここって、そういう学校じゃない?」
伊澄にというか、自分自身に言い聞かせるようにしながら、校門の横にそびえる石柱に刻まれた学校名を見やる。
「……うん。そうだよね。ねぇ恵鈴ちゃん。手をつないで、せーので校内に入ってもいい?」
「まぁそれで伊澄の勇気がわくならいいよ」
差し出された手をそっと握る。柔らかいけど指の根本は少し硬い。この過酷な世界で確かに武器を取った人の手だ。
「「せーのっ!」」
ジャンプで校内に飛び込んだ。こんなやり取りをしている間にも着々と新入生が到着しているわけで、何人かに見られながらで少し恥ずかしかったが、まぁいいとしよう。
「あ、荷物!!」
「天然か!!」
せっかく勇気を出して入った敷地からすぐに出て行ってしまう伊澄。今度はちゃんと一人で戻ってきた。
「あはは、ごめんね」
「別にいいけど。じゃ、同じ新入生の私が言うのも変だけど。あらためて……」
伊澄と握手をしながら告げる。
「ようこそ、私立征華女子魔導高等専門学校へ!」
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