久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ

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 宮城県大崎市、温泉郷として知られるこの街に私――早坂みなもの実家はある。仙台で教師として働く私にとって3年ぶりの帰省である。早坂家は温泉宿を営んでいるわけではないのだが、この辺りでは名士として昔からずっと続いている家らしい。やけに大きな家と広い敷地、その一角に私の愛車であるヤリスを駐車する。仙台で賃貸マンションに住んでいる私にとって、一時間で帰れる実家というのはかえって足が遠のくというか、別に今帰らずとも……みたいな気持ちになるのだが、今年は気が向いたので帰ってきたわけだ。

「みなも、お帰り」

 車庫から家へ戻ると、母親である恵が出迎えてくれた。五十代半ばには見えない若々しい風貌で、背もすらりと高い。

「ただいま。お父さんは?」
「庭で薪割りしてる」

 恵が玄関から外に出て行くので私もそれについていくと、厚手の作務衣を着て頭に手ぬぐいを巻いた父が斧で薪を割っていた。相変わらず渋くて格好いい男性である。年を重ねてより貫禄が増したというか、大人のダンディズムみたいなのが溢れている気がするんだ。父もまた教師なのだが、小学校教師だ。
 私が帰ってくることは分かっていただろうに、父が私のほうに向き直って、

「お帰り」
「ただいま。教頭先生になったんだっけ?」
「あぁ、今年度からな。これまでとは違った大変さがあるものだな」

 父は苦笑しながら言った。その笑い方はとても渋くて格好いい。私は父と母がどうやって知り合ったのかよく知らないのだが、結婚前から父はこんな感じだったらしいので、付き合い始めたばかりの時はさぞや母は苦労したのではないかと思っている。
 しばらく母と歓談していると、廊下からぱたぱたと足音が聞こえてくる。そして、ドアが勢い良く開かれると、そこに一人の女の子が現れた。私が中学生の頃のセーラー服を着ており、胸も腰回りもまだまだ子供っぽい印象だ。長い黒髪にぱっちりとした目を持つ彼女は、私を見て飛びついてくる。

「お姉ちゃんお帰りー!」
「うわっと、危ないでしょ」

 私は彼女を受け止めつつ注意する。

「だってお姉ちゃん帰ってきたもん」
「だからって突進してこなくても」

 私の兄の娘である早坂柚希だ。つまるところ姪で私は叔母なのだが、おばさんと呼ばれたくはないのでお姉ちゃんと呼ばせている。まぁ、私も年が明ければ二十八歳……いや、まだお姉さんだし。

「そっかぁ、柚希ももう中学生かぁ」
「みなもさん、お帰りなさい」
「唯菜さん、ただいま帰りました」

 私に張り付いた柚希を剥がしながらにこやかに微笑むのは早坂唯菜さん。兄の妻でつまり義姉さんだ。兄は甥っ子を連れて食材の買い出しで出かけているようだ。

「みなもさんは本当に年下に好かれますよね。今年は帰ってきてくれたので、私も少し楽ができそうです」
「これでも本家筋の長女ですからね。ていうか……三人目ですか?」

 わりと華奢な唯菜さんの腹部が明らかに膨らんでいる。これで違ったらびっくりしてしまう。

「ふふ、私ももう三十三だから産めるうちにもう一人欲しいなぁって。頑張ってもらっちゃった」

 語尾にハートがついてそうな笑みに、生娘である私は照れてしまう。二人は中学で出会ったというから二十年くらいラブラブしているのか。そこまでいくと普通に尊敬だなぁ。

「みなもさんも、いい人みつかるといいね。みなもさんの子供なら、きっと賢い子になるでしょうね」

 唯菜さんは善人だ。これは大前提だ。けれど、自身が当然に結婚して出産して子育てしているから、他人にもナチュラルにそうあるよう求めてしまう。田舎生まれ田舎育ちだからかというか、いや……私も普通に異性が好きで結婚願望があれば気にしなかっただろう。
 私は曖昧に笑って柚希の頭を撫でてその場を離れた。兄夫婦に子供が二人……いや、三人目もいるのか。そのおかげもあってか、孫をせがまれることもないし、本家の長女といえど見合い話もない。母は私をファザコンだと思っているのか、一度だけ父より少し若いダンディなおじさんを紹介されたが、それを断って以降一度もない。
 家の大広間には既に大勢の親戚が集まっていた。叔父の家族と父の従兄弟の家族だ。ここだけで早坂姓の人間がどれだけ集まっているのか。

「うおぉ、みなも姉ちゃんだ! 久しぶり!!」

 いとこ、はとこがわいわいがやがやと集まってくる。昔から年下の相手を任されて来たから今の私は教員をしているのかもしれない。いっそ、それすら父の思い描いていたことなのかもしれない。そういえばいとこの子供もこの中にいるのか。

「ほらほら、取り敢えずおじい様に挨拶させてあげて」

 年少組をひっぺがしてくれたのはブルーグレーのブレザーを着た女の子。この辺の制服とは一線を画す都会的で洗練された姿……。そうか。

「ありがとうね、浅葱ちゃん」
「いえいえ、お久しぶりです。みなもさん」

 早坂浅葱ちゃんは父の弟の娘で私の従妹。すごく遠くの学校で寮生活をしていると聞いた。親戚筋で未婚女性となると私に次いでの年長ということもあって子供たちの世話を焼いてくれている。二十代前半の従妹もいるが、既婚だ。行き遅れ扱いをされているわけではないが、時代の隔絶すら感じる。

「おじい様、みなもです。ご無沙汰してます」
「おう、みなもか。よく来たね。また一層賑やかになっただろう?」
「えぇ、二年空いただけなのに。もうお年玉を用意しきれませんよ」
「ふぉっふぉっふぉ、なら儂から少しだけやろう」

 そう言ってポチ袋を差し出すおじいちゃんに大人だから大丈夫だとなんとか断る。流石にアラサーに片足突っ込んでいるのにお年玉をもらうわけにはいかない。
 とはいえ、久しぶりに孫に会えたのが嬉しいのかおじいちゃんは上機嫌である。ひ孫より私の方が会う機会が少ないからかな。喜んでもらえるならなによりだ。
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