真紅の想いを重ねて

楠富 つかさ

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おきつしらなみ

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 期末試験も終わった年末。わたしはどういうわけかロゼ先輩と一緒にお風呂につかっていた。

「う~ん、寮のお風呂も大きいけど、こういうJapanese traditional なお風呂もいいものねぇ」

 ここは学校からもほど近い銭湯「そら」だ。試験が終わった翌日に、先輩から個別メッセージが送られてきて、ゆっくり話をしようと誘われて、じゃあどこでってなった時に思い浮かんだのがここだったのだ。銭湯を指定したのはわたしだけど、先輩と二人きりで話をしようなんていわれるとは思ってなくて驚いた。

「こうして大きなお風呂に身をゆだねていると、悩みなんて溶けていっちゃうよね」
「先輩にも悩み、あるんですか?」
「これでもけっこう悩みはあるんだよ。例えば背が低くて子供っぽいところとか」
「え?」

 確かに先輩の背は低い。中学二年のわたしより小柄だ。それでも顔は小さく腰の位置は高いし胸だって大きい……子供っぽいなんて思ったことは一度もない。

「先輩は子供っぽくなんてないですよ。自分ってものを明確に持っているっていうか、じゃなきゃ気配りってできないと思うんです」
「そう思ってくれてるなら嬉しいなあ。でもね、私……自分とお姉ちゃんを比べちゃいがちでね。紅凪ちゃんにもお姉ちゃんいるよね。どんな人?」

 うちの姉はロゼ先輩より一学年上。風紀委員の副会長だったけど、どちらかというと規律には背く側というか。

「ちゃらんぽらんな人ですよ。でも、要領がいいというか、タイミングがいいというか、星花を卒業したら父の知り合いがやってる会社に事務員として就職するんです。だから大学受験とも無縁で、遊びたおしてます」
「仲、そんなによくないの?」
「別に……そうでもないんですよね。ただ、自分の将来くらいは自分で決めたいっていうか。姉の流れに委ねるところだけは、反面教師っていうか。そんな風に思ってます」

 ぼんやりと天井を見ながら、隣の先輩に告げる。お姉ちゃんにはお姉ちゃんの考えがあってのことなんだろうし、お父さんの知り合いの社長さんも、本当に事務員が足りなくて困っているらしい。だから、すごく遠い大学へ行ってしまうよりは嬉しいことかもしれないけど、少しモヤモヤが残るのだ。本当にそれが姉のやりたいことなんだろうか、と。

「そっかぁ。紅凪ちゃんは真面目だ」
「でも、まだ将来どうしたいっていうのが思い浮かばなくて。周りはけっこう、ちゃんと夢持ってて……」
「うんうん。それで悩んじゃうんだよね。でもね、まぁ何かを始めるのに早すぎるも遅すぎるもないけど……そうだねぇ。私も中二の時ってあんまり真面目に将来のこととか考えてなかった。ただ日本の面白い文化を享受するだけで、それを自分から発信するなんて考えてなかったよ」

 そこまで話すと、先輩は不意に両手を広げるように水面をかいた。ゆったりとした水面に白波が立つ。

「お湯ってさ、今みたいに手を外側に動かすと自分の方によってくるよね。逆に、手を自分の方に動かしたらお湯は遠のいちゃう。発信するためには自分がもっと知識を蓄える必要があるし、知識が積み重なっていくと誰かに発信したくなる」

 試しにお湯を抱きかかえるように手を動かすと、波は自分と逆方向へ進んでいく。

「紅凪ちゃん、きっといろいろ考えるあまり見えなくなっちゃってるものがあるんだよ。だからもっと素直になったらいいんじゃないかな。自分の好きなものやこと、場所や人に。まぁ、ひょっとしたら今がそういうのを一番苦手としている時期なのかもしれないけど」

 わたしはまだまだ蕾なのかな。どうしたら先輩みたいに……。
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