キスから始まる異世界ハーレム冒険譚

楠富 つかさ

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第九話 商業都市

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「ここが……商業都市トルキガ……」

コーゼスの村から転移してやってきたのは、石造りの家と道と橋による統一感が美しい商業都市。トルキガは水運も頻繁に使うため、水路が整備されており、その水路で売り買いをする者もいれば、渡し舟の船頭として生計を立てる者もいるらしい。

「まずは武具屋へ行きましょうか」

私たちが転移したのはトルキガの南部。ここは商人達の屋敷が多い地区だそうだ。目指すは西部。ニシェクとは街道一本で直通のため、工業製品を主に販売している地区となっている。

「短槍がいいかな? 両手槍がいいかな?」

隣を歩くレリエと少し後方にいるステラに問いかける。

「両手槍だと術の印を組むのが難しいと思います」

生活魔術ならまだしも、戦闘で行使するような術は印を組んだり詠唱をしたりしないと、発動することは出来ない。……まだ印を組むような術を習得していないのだが。

「いや、両手の方がいいな。バランスも取りやすく振り回しの威力もある。前衛はあたしが出る。ナイフくらい買ってくれるんだろう?」
「え? あ、はい。もちろんです!」

私が少し悩んでいる間に、ステラが意見をくれた。珍しく積極的な姿にレリエも少し驚きを隠せていない。その後、数件の武器屋を回り槍一振りとナイフ三本購入した。一本は私の接近戦用であり、ステラの予備を含めて三本購入だ。まぁ、少し安くなるというのもあったが。

「いやぁ……私もいよいよ武器持ちだね」
「あんたら、よくここまで旅してきたな」
「お姉ちゃんを護るのは妹の役目なのです」

そんな私たちは今、トルキガの東部へ移動している。東部には宿屋や商人向けの娯楽施設がある。レリエの知識にはその娯楽が何かはなかったが、ひょっとしたら私の欲しいものかもしれない。ちなみに、北部は農業製品が売っているのだが、需要と供給の関係上、コーゼスの村の方がかなり安い。

「部屋、ベッドは1つでいいですか?」
「……あたしはソファで寝るからな」

ということで、ダブルベッドの置かれた部屋を取った。お値段は3人で銀貨6枚。コーゼスでの宿泊費が二人で銀貨3枚だったことを考えると、割高な気がする。

「まぁ、部屋は広いけどさ」

コーゼスの宿屋のように質素という印象は受けないトルキガの宿。これでもスタンダードな部屋のはず。ランクを上げたらベッドに天蓋とかあったりして。

「二人とも、これからのことで相談があるの」
「なんでしょう?」
「んだ?」

部屋に設えてあるテーブルで向かい合う。少し口が渇く。

「私の力は、女の子にキスしてもらわないと発揮しない」
「そうですね」
「難儀だよな」
「そこで、だよ……」

後ろめたいからか、どうしても声にならない。

「そこで、だ」

ごほんと咳払いをし、覚悟を決める。

「手っ取り早く力をつけるための手段が一つだけある。……お金を払って、してもらう事だ」
「お金……ですか?」

頭に?を浮かべたレリエに鸚鵡返しをくらう。彼女が風俗の事を知らない事はわかっている。私の頭に風俗嬢という表現がないからだ。言葉を知らないなら、概念も同様に、だろう。

「職業として、お金を貰ってそういう事をする人達がいるはずなの。そういう人達なら、事情を話さなくてもお金でなんとかできると思うの」
「それって、キスで終わるのか?」

少し顔を赤らめたステラが問いかける。彼女なら裏事情も少し知っているのかもしれない。確かに、キスで終わる……終わらせるつもりはない。男だった頃から風俗には一度行ってみたいと思っていた、なんて絶対に言えない。

「お金を払えば、お姉ちゃんと私がしているようなことが出来るんですね。それはいいです!」

緊張した私を、レリエの言葉がほぐす。レリエはキスをすごく尊いものだと思っている節がある。だからこそ、抵抗はないのか? でもまぁ、何の抵抗も示さないのは逆に悲しいものがある。

「えっと、お金はどのくらい必要なのでしょうか? 金貨を持つべきなのでしょうか」

……相場が分からない。目線でステラに訴えかけるが。

「金貨を持ったほうがいいんじゃないかな?」

と、ひどく適当な答えをくれた。まぁ、純情な彼女がいくら盗賊稼業に手を染めていたからとはいえ、そこまで裏な世界を知っているわけではないか。

「えっと、金貨10枚入れておきました。どうぞ」

そう言って財布を渡すレリエ。

「レリエは……抵抗がないのか? お金で女の子をどうこうしようっていうのに」
「違法……なんですか?」
「そうでもないさ。コーゼスみたいな村ならまだしも、この規模の街ならあって当然さ」

レリエの問いに答えたのはステラだった。コーゼスに居つく前はあちこちの街を回っていたらしい彼女。風俗に身を落す少女を見てきたのかもしれない。

「じゃ、じゃあ。ちょっといってくるね」
「はい、お気をつけて」
「はしゃぎすぎんなよ」

二人に見送られて部屋を出る私。そういえば、レリエとステラを二人きりにするのは初めて? ちょっと心配だけど……しょうがないよね。連れて行くわけにもいかないし。ドアが閉める音を聞きながら、私は道を尋ねるべく宿の一階へ移動するのだった。
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