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第十四話 森へ向けて

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 トルキガに戻った私は、クレアを買った奴隷商人から奴隷所有の証明書を貰いにいった。奴隷を持っているということは、奴隷でないことを証明できる。異世界人である私には身分を証明できる物がないため、一先ずはこれを貰うことにしたのだ。ギルド結成が出来れば、会員証で身分を証明できる。

「じゃあ、アリジャスに行こうか」

 北門から街道に出ると、遠くに大きな森が見えた。あれがホーランセ大森林らしい。ホーランセが聖なる森と呼ばれるにはいくつかの理由があるらしいが、最大の理由は大気中の魔力濃度らしい。人が持つ魔力以外にも、大気中にも存在する魔力。それが濃くなると、光を反射して様々な色を持つらしい。森ということもあって、回復関係の木属性魔力が主に存在しているらしい。だから聖職者のいるアリジャスにとって重要な森になっているということだ。

「せりゃあ!」

 とはいえ、長い街道を魔物と戦いながら進むとなると、それなりに時間はかかる。

「えい!」

 クレアも意外に戦闘慣れしていて、狼型の魔物の弱点である鼻先にハンドメイスを的確に当てている。槍を風属性で加速させることを覚えた私も、素早い一撃で魔物を突き刺している。

「よっと、それ!」

 そして、見惚れるくらい美しい戦い方をするのはステラだ。優雅にターンを繰り返し、返り血を最小限に抑える彼女の戦い方はまるで舞踏のよう。普段のがさつな感じとは正反対だ。とはいえ、それを本人に直接言うと怒られるのだが。没落貴族のお嬢様だったりして、ステラ。

「今日はここで野営にしましょう、お姉ちゃん」

 整備されているとはいえ、それはあくまで道だけ。岩や大木で死角が多いため、レリエは専ら索敵に従事してもらっている。陽もそろそろ傾き始め、危険が増すため今日はもう進まない。レリエが張った結界の中で夕食を済ませる。
 食材はトルキガで買い込んであり、肉類や香辛料なんかも入手できた。この世界には魔物以外にも普通の獣や家畜が存在し、魔物による被害なんかもあるらしいが、肉や魚、乳製品なんかも手に入れることができる。レリエ程ではないが、ある程度空術が使える人によって物流も発展しており、世界中で商品のやり取りがあるようだ。
 異世界でサバイバルな生活をさせられるかと思っていた私からすれば、けっこう安心安全だし快適な旅路だ。

「そろそろ寝ましょう」

 レリエの転移術は多大なる魔力量を消費するため、使える回数もかなり少ない。本当なら入浴の為に街にいたいという気持ちもあるが、最終的に目指す魔属領でそんなことは言ってはいられない。だから、というのもあるが、夜営時は簡単な水浴びしかしない。それが終わってしまうとすることはほとんどないのだ。おやすみのキスを交わして、私たち四人は眠りにつくのだった。
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