剣の閃く天命の物語

楠富 つかさ

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剣の道を進むから

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 時は少し遡り校舎内、かなり広々とした一室に四人の人影が。

「さて、理紗はいないが剣道部の特別会議を始めようか」

 そう切り出したのは、剣道部次期部長の石宮いしみや正人まさと。温厚な印象を与える彼は、二年生で唯一の三段保持者だ。その剣道に対する真摯な態度が彼の強みでもある。この場にいるのは、背の高いセミロングの少女――海野うんのなぎさと、小柄で色白の少女――大川おおかわ真冬まふゆ、そして林原はやしばら戒政かいせいだ。

「この状況では、対人の武道である剣道は、さして力にはならないと思う。そこでだ、我々は刀を最大限に活用するべきなんだ」

 そう熱心に語る石宮は、他の剣士達とは異なり、鞘に収まった状態の刀を取り出した。

「剣道で有効打突は魔物には効かない。そこで、俺は鞘に目を付けた。戒政の二刀流と似たモーションが可能になっている。できるなら、技の共有を図りたい」
「なるほど、同じ技を発動することはできなくても。攻撃のバリエーションに幅を持たせられるのか。女子二人はいいか?」
 
 一振りの長刀を突き出すなぎさと、脇差を逆手に構えた真冬が頷いたのは同時だった。

「だったら、やるしかないでしょ」


 対角線上に構える四人、踏み込むと同時に鳴り響く金属音。交わる四の刃を各々が横薙ぎに払い、それを躱すために跳躍する。再び踏み込むと、鳴り響く剣戟の音は二度。石宮と林、渚と大川の刀がそれぞれ交わる。

「やぁっ!」
「部長、クセ出てるぞ」

 鍔迫り合いで気合の声を出す正人に戒政が呆れる。いかなる時でも剣道の所作が見て取れるからだろう。

「しかたないだろ、引き篭手とかな!」

 一歩下がると同時に戒政の手首を斬る正人に対して戒政は、術の詠唱を始めた。正人は心のどこかで、この現実を飲み込めていないのではないかと、戒政は思い始めていた。現に正人の構えは片手ではあるものの、刀を正中線に持っている。そんな彼に、戒政はどこかイラついているように見える。

「サンダーライトっ!」

 正人の脳天に直撃する筈だった雷は鞘によって弾かれた。その勢いで刀を鞘に収めた正人に、戒政は肉薄し月昇閃を放った。だが、

氷澪閃ひょうれいせん!」

 正人はそれを弾き、刀を戒政の首筋に当てている。正人は右に刀、左に鞘を持っていた。術を弾くために振り上げられた鞘は刀を飲み込み、右手に握っていた納刀状態の刀で戒政の技を逸らし居合いの動きで反撃したのだ。

「やるじゃん…。これには反撃できない」
「さて、どうかな?」

 投了の意を示す戒政の目の前で、なぎさが正人に斬りかかった。

烈風閃れっぷうせん!」

 渦巻く風を伴う一撃を正人は鞘で受け流し、刀は隙を窺っていた真冬に向けられている。この状況は、戒政も無暗に行動できなくしていた。訪れる静寂、それを破ったのが体育館から発せられた爆音だった。

「い、今のは?」

 不安そうな真冬を見て、正人は教室へ一度戻るという提案をした。

「このまま体育館に向かうには情報が少なさ過ぎる。なにか、教室に行けば分かるかもしれない。さ、行こう!」

 彼らが真に活躍するのは、もう暫し先のことだ。
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