差し伸べられなかった手で空を覆った

楠富 つかさ

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花は太陽なしでは花を咲かせられず、私は君なしでは生きられない

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 十月にもなると、部活終わりで下校する頃にはかなり日が暮れている。
 夏休みが明けた頃から、わたしと彩瑛さんは美術部の活動に参加するようになった。もっとも、彩瑛さんは四月の時点で書類上は美術部員だったのだけれど。
 驚いたのは彩瑛さんが学校を休んだ日に声をかけてくれて、それ以降も時折話す横山さんが美術部にいたことだ。家がお花屋さんで手伝いもあって忙しいだろうと思っていたけど、店内のポップを描いたり、花の紹介をしたりするのに、美術部で絵の技術を伸ばすのが楽しいらしい。
 そんなこんなで横山さんのことを考えていたせいか、道端に咲いているある花に目がついた。

「ヒガンバナだ」
「そうね、もうけっこう咲いているわ。私、花ならヒガンバナが一番好きなのよね」

 あまり好きなものについて語らない彩瑛さんが自発的に好きなものを話すのは本当に珍しかった。

「ヒガンバナが好きって珍しいというか、家で飾ったりお花屋さんにあるようなお花じゃない?」
「そうね。道端でしか見ないっていうのがいいのかもしれないわね。愛弥、今度なんだけど私とヒガンバナを一緒に描いてくれない?」

 その提案にわたしは脳内にキャンバスを広げる。真っ黒なドレスで着飾った彩瑛さんが豪奢な椅子に座り、その周辺にはヒガンバナが赤く、赤く咲き誇る。もともと大人っぽいというか、妖しい魅力を秘め……てないや、放ちまくっている彩瑛さんと、これまた妖しいヒガンバナというのはモチーフとしてのシナジーがいい。

「なるほど……いいわね。文化祭の目玉になるかも」
「あら、私が画題なら当然なのだけれど、愛弥に文化祭の目玉が描けるかしら?」
「ちょ、彩瑛さんわたしの画力認めてくれてるんだよね!?」

 思わず聞いてしまうが、美術の授業に始まり今は美術部として、彩瑛さんが描く絵はたしかに美麗で写実的だけど、情感に訴えるものが多くはない。彩瑛さん曰く魂がこもっていないから、とのこと。そういう意味では、彩瑛さんはわたしの絵をきちんと感情が込められていると褒めてくれる。技術も申し分ないって。

「七月に描いてもらった裸婦画は微妙だったけど」
「あの頃はまだ彩瑛さんの裸に耐性がなかっただけだもん。いまならもっとちゃんと描けるよ!」
「なら、またの機会に描いてもらおうかしら。ところで、愛弥は花なら何が好き?」

 もうじき学校の最寄り駅というところで、彩瑛さんがわたしに問いかける。今日は一緒に帰らないので改札で彩瑛さんを見送ってお別れだ。
 わたしの好きな花、か……。花は全般的に好きなのだけれど、一番といったらあれかな。

「ヒヤシンスかなぁ。特にピンクの」

 ヒヤシンスは小さな花が集まって咲く可愛らしいお花なんだけど、ある神話がきっかけで勝負とかゲームっていう花言葉もある。
 ギリシャ神話でヒュアキントスという美少年が太陽の神と風の神という二柱と仲良くしていたんだけど、そんな彼が太陽の神と円盤を投げて遊んでいたのに嫉妬した風の神が吹かせた風のせいで、ヒュアキントスは円盤を頭にぶつけて亡くなってしまったという。その時に流れた血から咲いたのがヒヤシンス……らしい。
 かわいらしい見た目をしているわりに、血なまぐさいエピソードがあるヒヤシンスは、死人花なんて言われるヒガンバナと少しだけ似ているのかもしれない。ひょっとしたら、わたしと彩瑛さんにも似た気質があったりして。

「じゃあ、春になったらヒヤシンスを見に行きましょう」
「うん。その時はお弁当作るよ。約束!」
「えぇ、約束よ。じゃあ愛弥、また明日」

 耳打ちをするかのように頬へキスして去っていく彩瑛さん。ほんと、そういうところばかりスマートなんだから。
 足取り軽く、家路を急いだ。
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