7 / 13
花は太陽なしでは花を咲かせられず、私は君なしでは生きられない
しおりを挟む
十月にもなると、部活終わりで下校する頃にはかなり日が暮れている。
夏休みが明けた頃から、わたしと彩瑛さんは美術部の活動に参加するようになった。もっとも、彩瑛さんは四月の時点で書類上は美術部員だったのだけれど。
驚いたのは彩瑛さんが学校を休んだ日に声をかけてくれて、それ以降も時折話す横山さんが美術部にいたことだ。家がお花屋さんで手伝いもあって忙しいだろうと思っていたけど、店内のポップを描いたり、花の紹介をしたりするのに、美術部で絵の技術を伸ばすのが楽しいらしい。
そんなこんなで横山さんのことを考えていたせいか、道端に咲いているある花に目がついた。
「ヒガンバナだ」
「そうね、もうけっこう咲いているわ。私、花ならヒガンバナが一番好きなのよね」
あまり好きなものについて語らない彩瑛さんが自発的に好きなものを話すのは本当に珍しかった。
「ヒガンバナが好きって珍しいというか、家で飾ったりお花屋さんにあるようなお花じゃない?」
「そうね。道端でしか見ないっていうのがいいのかもしれないわね。愛弥、今度なんだけど私とヒガンバナを一緒に描いてくれない?」
その提案にわたしは脳内にキャンバスを広げる。真っ黒なドレスで着飾った彩瑛さんが豪奢な椅子に座り、その周辺にはヒガンバナが赤く、赤く咲き誇る。もともと大人っぽいというか、妖しい魅力を秘め……てないや、放ちまくっている彩瑛さんと、これまた妖しいヒガンバナというのはモチーフとしてのシナジーがいい。
「なるほど……いいわね。文化祭の目玉になるかも」
「あら、私が画題なら当然なのだけれど、愛弥に文化祭の目玉が描けるかしら?」
「ちょ、彩瑛さんわたしの画力認めてくれてるんだよね!?」
思わず聞いてしまうが、美術の授業に始まり今は美術部として、彩瑛さんが描く絵はたしかに美麗で写実的だけど、情感に訴えるものが多くはない。彩瑛さん曰く魂がこもっていないから、とのこと。そういう意味では、彩瑛さんはわたしの絵をきちんと感情が込められていると褒めてくれる。技術も申し分ないって。
「七月に描いてもらった裸婦画は微妙だったけど」
「あの頃はまだ彩瑛さんの裸に耐性がなかっただけだもん。いまならもっとちゃんと描けるよ!」
「なら、またの機会に描いてもらおうかしら。ところで、愛弥は花なら何が好き?」
もうじき学校の最寄り駅というところで、彩瑛さんがわたしに問いかける。今日は一緒に帰らないので改札で彩瑛さんを見送ってお別れだ。
わたしの好きな花、か……。花は全般的に好きなのだけれど、一番といったらあれかな。
「ヒヤシンスかなぁ。特にピンクの」
ヒヤシンスは小さな花が集まって咲く可愛らしいお花なんだけど、ある神話がきっかけで勝負とかゲームっていう花言葉もある。
ギリシャ神話でヒュアキントスという美少年が太陽の神と風の神という二柱と仲良くしていたんだけど、そんな彼が太陽の神と円盤を投げて遊んでいたのに嫉妬した風の神が吹かせた風のせいで、ヒュアキントスは円盤を頭にぶつけて亡くなってしまったという。その時に流れた血から咲いたのがヒヤシンス……らしい。
かわいらしい見た目をしているわりに、血なまぐさいエピソードがあるヒヤシンスは、死人花なんて言われるヒガンバナと少しだけ似ているのかもしれない。ひょっとしたら、わたしと彩瑛さんにも似た気質があったりして。
「じゃあ、春になったらヒヤシンスを見に行きましょう」
「うん。その時はお弁当作るよ。約束!」
「えぇ、約束よ。じゃあ愛弥、また明日」
耳打ちをするかのように頬へキスして去っていく彩瑛さん。ほんと、そういうところばかりスマートなんだから。
足取り軽く、家路を急いだ。
夏休みが明けた頃から、わたしと彩瑛さんは美術部の活動に参加するようになった。もっとも、彩瑛さんは四月の時点で書類上は美術部員だったのだけれど。
驚いたのは彩瑛さんが学校を休んだ日に声をかけてくれて、それ以降も時折話す横山さんが美術部にいたことだ。家がお花屋さんで手伝いもあって忙しいだろうと思っていたけど、店内のポップを描いたり、花の紹介をしたりするのに、美術部で絵の技術を伸ばすのが楽しいらしい。
そんなこんなで横山さんのことを考えていたせいか、道端に咲いているある花に目がついた。
「ヒガンバナだ」
「そうね、もうけっこう咲いているわ。私、花ならヒガンバナが一番好きなのよね」
あまり好きなものについて語らない彩瑛さんが自発的に好きなものを話すのは本当に珍しかった。
「ヒガンバナが好きって珍しいというか、家で飾ったりお花屋さんにあるようなお花じゃない?」
「そうね。道端でしか見ないっていうのがいいのかもしれないわね。愛弥、今度なんだけど私とヒガンバナを一緒に描いてくれない?」
その提案にわたしは脳内にキャンバスを広げる。真っ黒なドレスで着飾った彩瑛さんが豪奢な椅子に座り、その周辺にはヒガンバナが赤く、赤く咲き誇る。もともと大人っぽいというか、妖しい魅力を秘め……てないや、放ちまくっている彩瑛さんと、これまた妖しいヒガンバナというのはモチーフとしてのシナジーがいい。
「なるほど……いいわね。文化祭の目玉になるかも」
「あら、私が画題なら当然なのだけれど、愛弥に文化祭の目玉が描けるかしら?」
「ちょ、彩瑛さんわたしの画力認めてくれてるんだよね!?」
思わず聞いてしまうが、美術の授業に始まり今は美術部として、彩瑛さんが描く絵はたしかに美麗で写実的だけど、情感に訴えるものが多くはない。彩瑛さん曰く魂がこもっていないから、とのこと。そういう意味では、彩瑛さんはわたしの絵をきちんと感情が込められていると褒めてくれる。技術も申し分ないって。
「七月に描いてもらった裸婦画は微妙だったけど」
「あの頃はまだ彩瑛さんの裸に耐性がなかっただけだもん。いまならもっとちゃんと描けるよ!」
「なら、またの機会に描いてもらおうかしら。ところで、愛弥は花なら何が好き?」
もうじき学校の最寄り駅というところで、彩瑛さんがわたしに問いかける。今日は一緒に帰らないので改札で彩瑛さんを見送ってお別れだ。
わたしの好きな花、か……。花は全般的に好きなのだけれど、一番といったらあれかな。
「ヒヤシンスかなぁ。特にピンクの」
ヒヤシンスは小さな花が集まって咲く可愛らしいお花なんだけど、ある神話がきっかけで勝負とかゲームっていう花言葉もある。
ギリシャ神話でヒュアキントスという美少年が太陽の神と風の神という二柱と仲良くしていたんだけど、そんな彼が太陽の神と円盤を投げて遊んでいたのに嫉妬した風の神が吹かせた風のせいで、ヒュアキントスは円盤を頭にぶつけて亡くなってしまったという。その時に流れた血から咲いたのがヒヤシンス……らしい。
かわいらしい見た目をしているわりに、血なまぐさいエピソードがあるヒヤシンスは、死人花なんて言われるヒガンバナと少しだけ似ているのかもしれない。ひょっとしたら、わたしと彩瑛さんにも似た気質があったりして。
「じゃあ、春になったらヒヤシンスを見に行きましょう」
「うん。その時はお弁当作るよ。約束!」
「えぇ、約束よ。じゃあ愛弥、また明日」
耳打ちをするかのように頬へキスして去っていく彩瑛さん。ほんと、そういうところばかりスマートなんだから。
足取り軽く、家路を急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
世界に、私たちだけ
結城らい
恋愛
バニーガールのレイカとミヤコ。いつものナイトクラブの夜――のはずが、ふたり以外の“全員”が消えてしまった。誰もいない店内、誰も走っていない街。怖いのに、どこか解放されてしまう。見られない自由の中で、ふたりは静かに、確かめ合うように抱きしめ合う。けれど未来は空白のまま。それでも今夜だけは、ネオンの下で、この愛の時間を味わっていたい。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる