差し伸べられなかった手で空を覆った

楠富 つかさ

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友にそうあるよりも、家庭内で素直であることのほうがむずかしい

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 十一月のとある金曜日、十二月にひかえた後期の中間テストに向けて彩瑛さんの家で勉強すべく出かけようとした矢先、父が声をかけてきた。

「なあ愛弥、お前が頻繫に遊びに行ったり泊まったりしている女の子の友達の家でいいんだよな?」
「まさかお父さん、わたしが男の子の家に泊まっているとか思ったわけ?」
「いや、そうじゃないが……流石にこんなにお世話になっているんだから、今更ながらその方のご両親とも挨拶をした方がいいのではなと思っただけさ」

 言われてみればそれもそうではあるが、彩瑛さんのご両親は海外にいる。ただ、両親に対しては夏休みだけ海外にいるなんて説明をしてしまったから……嘘に嘘を重ねる形になってしまうが、

「ご両親、夏に海外に行ったままそっちでお仕事してるから、日本にはいないよ」

 そう言わなければ、うちの両親はまめったい人だから、きっと彩瑛さんの両親に挨拶したがるだろう。流石に高校生になって友達の親と自分の親が交流を持つっていうのはなんだか恥ずかしさがある。

「ならそのお友達は一人暮らしなのかい? ……むぅ、本当に、その……」
「彩瑛さんは女の子で、普通の親友だよ。高校入って一番のお友達、悪い?」

 普通の範疇には収まらないかもしれないし、夏休みの間とかクラスは違うけど同じ宮高に入った中学時代の友達から、出かけないかと誘われたこともあるけど、それも蹴ってしまった。それくらいわたしの中で彩瑛さんが最優先になっているということだ。

「いや、男同士とか女同士とかじゃなくてだな……その、人と人だから何かあってもおかしくないというか……。父さんには長い付き合いの親友がいるんだが、その親友から彼女ができたって言われた時、口ではおめでとうとか言ったけど……一人になったら急に寂しいというか悲しいというかむかつくというか、複雑な感情になってだな……ひょっとして好きだったんじゃないかって思ったわけだ」
「いや、急にそんな話されても……」

 父親の唐突なそういうエピソードを聞くのはなかなか精神に堪えるというか、できれば勘弁してほしいのだけれど。

「まぁ、そんな落ち込む俺を慰めたあげく結婚してくれたのが、母さんなんだけどな」
「まって、じゃあさっきの親友って伯父さんのこと!?」

 思った以上に狭い範囲での話だった。父と伯父がかつてただならない関係になりかけていたなんて、本当に知りたくなかった。

「出がけに悪かったな」
「ほんとだよ!!」
「まぁ、そのなんだ……何事もほどほどに、な?」
「だからどういう意味よ!! もう、行ってくるから」



 所変わって彩瑛さんのマンション。

「っていうことがあってね……」

 今日も今日とて着いてすぐ襲われそうだったのを無理くり収めて、出がけの父との会話を伝えた。まぁ、再来週に行われる文化祭で会ってもらう可能性もあるので、その事前説明を兼ねて、だ。正直高校生の親が文化祭に来るというのはなかなか恥ずかしいことだと思うのだが、両親ともに宮高のOBだから片目くらいはつぶってもいいかもしれない。

「ふふ、愛弥は家族と仲がいいのね」
「そうかな? 普通よ、普通」
「だって愛弥の家庭で普通だったら、私の家庭は異常よ異常。もう何か月も会ってないし、そもそも日本にいた頃だって仲は冷え込んでいたわね。……まぁ、今のお母さんは実の母じゃないし」
「……え?」

 彩瑛さんが家族のことを口にするのも珍しいことだったし、実母じゃないって言いだすあたり、あっけにとられてしまった。

「今のは忘れてちょうだい」

 冷え切った声にわたしは頷きつつも、いい感じの話題が思い浮かばず、前々から聞こうと思っていた質問を投げかけた。

「う、うん。じゃあ……彩瑛さんの誕生日っていつ?」
「クリスマスよ。もっとも、昔からプレゼントなんて無縁だったけど」
「話が転換しきれてなかった。もう、なんか用意しておくから勉強に集中!!」
「プレゼントなんて愛弥だけで充分なのに」
「もう、すぐそうやってハレンチなこと言うんだから! 集中!!」

 ……彩瑛さんが求めているだけの愛情を、わたしは彩瑛さんに注いであげられているんだろうか……。
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