差し伸べられなかった手で空を覆った

楠富 つかさ

文字の大きさ
10 / 13

人生は、彼女には解決すべき問題で、わたしには経験すべき現実である

しおりを挟む
 年も明けた一月二日、いくら彩瑛さんのために日常的に料理をするようになったと言えど、おせちやお雑煮の準備まではできない。ということで、おせちは通販で済ませたが、お雑煮の出汁をもらいに一度帰宅し出直してきた。
 母からは、せっかくだからと”あるもの”を預かってきたが、はたして彩瑛さんがこれと同じものを持っているだろうか。

「彩瑛さーん、ただいま」
「おかえりなさい、愛弥。……ふふ、この挨拶が当たり前になっているのも妙な話よね」

 いつしか当たり前になっていた挨拶に、彩瑛さんが微笑む。ここもわたしにとっては帰るべき場所の一つになったということなのだ。

「大荷物ね。そっちは着物かしら?」
「うん。初詣に行くなら着ていきなさいって。彩瑛さんは着物、持ってる?」
「えぇ。何着かあるわよ。着付けも一人でできるし、淑女のたしなみってやつね。愛弥も、持ってきたくらいだから、着られるんでしょう?」

 実は……と前置きしてから素直に打ち明ける。

「去年は受験で気が気じゃなくて初詣行ってなくて、だから着物も着てなくて……あんまり自信なかったんだぁ」
「じゃあ、私が着付けてあげるわ」

 言うや否やでわたしを脱がそうとする彩瑛さん。そんなひと悶着はあったけど、お互い着物に着替えて近くの神社へと向かった。
 わたしは緑系の配色で彩瑛さんは赤い華やかな着物、お嬢様然として堂に入ったその姿は、初詣の混雑の中でも一際に輝いていた。
 お賽銭を入れて願い事をする。わたしは彩瑛さんとずっと一緒にいられますように、と。

「彩瑛さんは何て願ったの?」
「ふふ、こういうものは言わぬが花よ」

 まぁそうかと頷く。秘密があった方が彩瑛さんはより美しい気がするし。
 行列が長くてお参りだけでそれなりに時間はかかったが、せっかくなのでおみくじも引くことに。彩瑛さんは小吉でわたしは凶……まあ、特筆すべきこともなしっていうわけで速やかに帰宅。
 普段着に着替え終わると、彩瑛さんがわたしにあるものを手渡してきた。

「そうだ、これ。お年玉」

 受け取ったのは分厚い封筒。普通はポチ袋で渡すお年玉だが、これじゃ怪しい取引で受け取ったお金のようだ。これをお年玉と言い張るのは流石に無理があるだろう。一体いくら入っているというのだ。

「取り敢えず100万入ってるから、今年はこれ以上お金を受け取らない方がいいわよ。税金かかるし」
「いや、ちょ……普通に考えて同級生から100万も受け取れないし!!」

 あまりの衝撃に封筒を落としそうになり、慌てる。落としたところで、どうというわけでもないのだが突然封筒が重要なものに変貌してしまったので、思考が追いつけなかったのだ。
 にしても……彩瑛さんだから100万円ぽんと出せてしまいそうなのが、これまた恐ろしいのだが。

「冗談よ。実際は100枚全部千円札だから10万円ね。あと、お手紙が入れてあるから分厚く見えるかも。……その手紙、誕生日まで開けちゃダメよ」

 このタイミングで誕生日まで読めない手紙を渡されるというのも意味分からないが、依然としてお年玉で10万円というのも理解が追いつかない。

「受け取りなさいよ。私なりにこれまでの感謝を込めた10万なんだから。それこそ、四月から毎月一万円もらったと思えばちょうどいいでしょう?」
「……うーん、まぁそう言われればそうだけど、友達から普通にお金受け取れないっていうか。……じゃあ、このお金は使わずにおくから、いつか二人で旅行に行く時に使おう。ね?」
「ふふ、愛弥がそうしたいならそうしなさい」

 クリスマスから、思い返せばもう少し前それこそ文化祭が終わったころから、彩瑛さんは時折寂しげな表情を浮かべることが多かった。もとから彩瑛さんはそういうアンニュイというか、けだるげな表情が似合う人だったから気付くのが遅くなってしまったけれど、もしもっと早く彼女の変化に気付けていたら……結末は変わっていたのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

世界に、私たちだけ

結城らい
恋愛
バニーガールのレイカとミヤコ。いつものナイトクラブの夜――のはずが、ふたり以外の“全員”が消えてしまった。誰もいない店内、誰も走っていない街。怖いのに、どこか解放されてしまう。見られない自由の中で、ふたりは静かに、確かめ合うように抱きしめ合う。けれど未来は空白のまま。それでも今夜だけは、ネオンの下で、この愛の時間を味わっていたい。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

処理中です...