11 / 13
彼女の全生涯は死に対する準備なり
しおりを挟む
バレンタインに向けて理想のチョコに思いを馳せる二月初旬、当たり前のように彩瑛さんの部屋へ一緒に帰ってきたわたしに、彩瑛さんから衝撃の一言を突き付けられる。
「来月、両親が一時帰国するから私物を全部撤去してくれる?」
「……そっか」
あまりに当然のこととして告げられたので、わたしも当然のこととして受け入れるより他なかった。食器類や調理器具、彩瑛さんが買ったコスプレ衣装や下着類、お揃いのアクセサリー……一度に持ち帰れないから少しずつ、まるで時を巻き戻すかのようにわたしがいた痕跡がなくなっていく。
短い二月が終盤に差し掛かる頃には、初めて訪れた頃と相違ないほどに寂しい部屋になってしまった。
「残ったのはこのこたつだけね」
「それは、彩瑛さんのために買ったものだし……」
「愛弥がプレゼントしたかったのは、こたつの温もりであってこれそのものじゃないでしょう? それに、私の通販アカウントで決済しているのだもの。所有者として私が、愛弥に持っていて欲しいと思ったの」
思い出を切り離すようにしていく彩瑛さんに、わたしは離れ離れになってしまうことをうっすらと察していた。けれど、この時のわたしは今生の別れになるなんて……そこまでのことは考えていなかったんだ。
二月最後の土曜日、わたしは彩瑛さんから呼び出されて彩瑛さんの部屋を訪ねた。私物が減っていくにつれ、彩瑛さんの部屋はわたしの帰るべき場所ではなくなっていき、足が向く頻度は減っていた。その分、チョコレート作りに専念でき、彩瑛さんも納得するできのチョコレートを渡せたのだが……。
「彩瑛さーん?」
合鍵で部屋に入ると、部屋は冷え込んでいてコートを脱がずにリビングへ向かった。
「……愛弥」
彩瑛さんは土曜だというのに制服をきちっと着込み、バルコニーの手すりに背中を預けながらわたしの名前を呼んだ。
「どうしたの? なんで制服? ていうか、風邪ひいちゃうよ。七月のあの時みたいに」
「そうね……初めて愛弥にキスしたのも風邪をひいていた時だった。あの後、愛弥が風邪をひくから私、学校サボったのよね」
わたしが風邪で休んでいた時、彩瑛さんも学校を休んでいたなんてそれは初耳だった。彩瑛さんなら一人でも平気だと思っていたけれど……そうじゃなかったんだ。
「貴女の顔を見たら躊躇うかと思ったけど、むしろ覚悟決まったわね。……気づいたのよ、人は死ぬために生きているって。……私は美しいまま死にたい」
「何を言ってるの!! 彩瑛さんならいつまで経っても美しいわ! ヒヤシンス……ヒヤシンスを見に行こうって約束したじゃない! わたしの誕生日だってある、二年生になれば修学旅行だってあるのよ!! まだ死ぬことないわよ!! ……なんで、そんな優しい顔してるの」
冬の低い空は雲が覆っていて、それでも彼女の儚く美しい姿は輝いて見えて……その表情に思わずつばを飲み込んだ。
「文化祭で展示した貴女の絵、本当に素敵だったわ。遺影は写真よりあの絵がいいわね」
「本当にやめて、彩瑛さん……彩瑛さんがわたしのすべてなの。行かないで……!!」
わたしが何か言うたびに、彩瑛さんは飛び降りの準備を進める。もう、手すりに腰かけて、こちらを見下ろしている。
「愛弥……ばいばい」
「彩瑛さぁぁん!!!!」
駆け出す。
手を伸ばす。
この手は届かない。
木の葉のように彩瑛さんが落ちていく。
見下ろす先に赤が滲む。
一輪の真っ赤な美しい花。
その毒でわたしを蝕み苦しめる。
ヒガンバナ。
愛しい彼女の最期は彼女の愛した花のようだった。
「来月、両親が一時帰国するから私物を全部撤去してくれる?」
「……そっか」
あまりに当然のこととして告げられたので、わたしも当然のこととして受け入れるより他なかった。食器類や調理器具、彩瑛さんが買ったコスプレ衣装や下着類、お揃いのアクセサリー……一度に持ち帰れないから少しずつ、まるで時を巻き戻すかのようにわたしがいた痕跡がなくなっていく。
短い二月が終盤に差し掛かる頃には、初めて訪れた頃と相違ないほどに寂しい部屋になってしまった。
「残ったのはこのこたつだけね」
「それは、彩瑛さんのために買ったものだし……」
「愛弥がプレゼントしたかったのは、こたつの温もりであってこれそのものじゃないでしょう? それに、私の通販アカウントで決済しているのだもの。所有者として私が、愛弥に持っていて欲しいと思ったの」
思い出を切り離すようにしていく彩瑛さんに、わたしは離れ離れになってしまうことをうっすらと察していた。けれど、この時のわたしは今生の別れになるなんて……そこまでのことは考えていなかったんだ。
二月最後の土曜日、わたしは彩瑛さんから呼び出されて彩瑛さんの部屋を訪ねた。私物が減っていくにつれ、彩瑛さんの部屋はわたしの帰るべき場所ではなくなっていき、足が向く頻度は減っていた。その分、チョコレート作りに専念でき、彩瑛さんも納得するできのチョコレートを渡せたのだが……。
「彩瑛さーん?」
合鍵で部屋に入ると、部屋は冷え込んでいてコートを脱がずにリビングへ向かった。
「……愛弥」
彩瑛さんは土曜だというのに制服をきちっと着込み、バルコニーの手すりに背中を預けながらわたしの名前を呼んだ。
「どうしたの? なんで制服? ていうか、風邪ひいちゃうよ。七月のあの時みたいに」
「そうね……初めて愛弥にキスしたのも風邪をひいていた時だった。あの後、愛弥が風邪をひくから私、学校サボったのよね」
わたしが風邪で休んでいた時、彩瑛さんも学校を休んでいたなんてそれは初耳だった。彩瑛さんなら一人でも平気だと思っていたけれど……そうじゃなかったんだ。
「貴女の顔を見たら躊躇うかと思ったけど、むしろ覚悟決まったわね。……気づいたのよ、人は死ぬために生きているって。……私は美しいまま死にたい」
「何を言ってるの!! 彩瑛さんならいつまで経っても美しいわ! ヒヤシンス……ヒヤシンスを見に行こうって約束したじゃない! わたしの誕生日だってある、二年生になれば修学旅行だってあるのよ!! まだ死ぬことないわよ!! ……なんで、そんな優しい顔してるの」
冬の低い空は雲が覆っていて、それでも彼女の儚く美しい姿は輝いて見えて……その表情に思わずつばを飲み込んだ。
「文化祭で展示した貴女の絵、本当に素敵だったわ。遺影は写真よりあの絵がいいわね」
「本当にやめて、彩瑛さん……彩瑛さんがわたしのすべてなの。行かないで……!!」
わたしが何か言うたびに、彩瑛さんは飛び降りの準備を進める。もう、手すりに腰かけて、こちらを見下ろしている。
「愛弥……ばいばい」
「彩瑛さぁぁん!!!!」
駆け出す。
手を伸ばす。
この手は届かない。
木の葉のように彩瑛さんが落ちていく。
見下ろす先に赤が滲む。
一輪の真っ赤な美しい花。
その毒でわたしを蝕み苦しめる。
ヒガンバナ。
愛しい彼女の最期は彼女の愛した花のようだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ゆりいろリレーション
楠富 つかさ
青春
中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。
てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。
二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる