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本編
頭突き食らわせました
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ふわふわ。ふわふわ。
まるで夢の中の出来事のようにアリシアの身体はアリシアの意思に反して神殿の中を進んで行く。
甘かった。
食事の時の神官の対応から逃げ出すことなど簡単だと思っていたが甘い考えだった。
神との婚礼の儀は王も承認している儀式なのだからアリシアが逃げられるはずなどなかったのだ。
部屋から出た直後に嗅がされた香のせいで指の一本ですら自分の意思で動かせない。
目の前を憎き大神官が悠々と歩いているのにただ後をついて行くことしかできない。
(おのれ大神官んんん毛根根腐れろぉぉぉぉぉぉ! ってもう大神官髪の毛無かったくそぉぉぉぉぉぉ!)
せめてもの頭髪永久脱毛の呪いをかけることすら叶わない。
それにしてもいくら春先とはいえ夜はまだ冷えるのにこの肩の出たドレスで少しも肌寒さを感じないのも香の影響だろうか。
それともこの神殿内の異様な空気が原因か。
シャーン、シャーンと何重もの鈴の音が響き、神官たちの低く歌うような声が熱気となり天井にまでうねっている。月光を取り入れるため灯りの数は抑えられているが蠢く人の気配はまるで夜とは思えない。
長いドレスの裾を踏むこともなくアリシアは祭壇にたどり着いた。
そこに置かれた銀の杯は壁一面の窓からの月光を受けて青く煌きらめいている。
中に注がれた液体がきっと毒なのだろう。
「アリシア、跪いて神に祈りを捧げるのです」
どうして。どうしてこんなことに。
涙を流しながらもアリシアは従順に跪く。
「神よ! 花嫁をお連れしました! ユーンブルグに栄光あれ!!」
「「「ユーンブルグに栄光あれ!!」」」
ぞわり……と神官たちの声に応えるように空気が揺れた気がした。
ぞろりぞろりと足下から闇が集まって行く。
この、全身の毛穴が開くような気配はなんだ。
この、骨の芯まで凍るような冷気はなんだ。
この、祭壇の上に広がる闇の塊はなんだ。
こんなものが、神だと言うのか?
鈴の音も神官たちの声も止みアリシアには早鐘のような自分の心臓の音しか聞こえない。
誰もが時を止めたように広がり続ける闇を見つめることしかできない。
すっ……と闇がアリシアの頬を撫でた。
違う。手だ。白く、美しい手だ。
闇の中から現れた手がアリシアの頬を撫でているのだ。
闇に呑まれているから肘から先しか見えないが、人間と同じ形をした美しい手だった。
しかしこんな闇の中から現れるものが果たして人間だろうか?
ゆるゆると視線を動かすと青い眼が見下ろしていた。
闇の中に青い眼だけが浮かんでいる。それはまるであの空の月のようだった。
(あの月と同じ……)
そう思った途端、
なんだかとても、イラっとした。
だってこの断りもなくアリシアの頬を撫でている手の持ち主は、アリシアがこんな目に合っている原因の月と同じ色の眼なのだ。
どう頑張っても月に手は届かないが、この青い眼は射程距離内。
そして相手は花嫁を迎えに来た神の使いだかそれ以外の禍々しい存在だか知らないが(気配からして後者の線が濃厚)このまま黙っていたらアリシアの命は確実に消えるだろう。
だったらせめて一矢報いてやる。
(食らえ巫女巫女アリシアあたっくぅぅぅぅぅぅうぅううぅぅ!!!!!)
ド根性で香の影響を振り切ったアリシアは、反動をつけて青い眼めがけて自分の頭を打ち付けた。
ガッチイィィィィィン!!
何か硬いものがぶつかるような音と同時に額がジンジンと痛む。
(人外にも頭突きってできるんだ……)
なんだか妙な達成感を感じた瞬間、そこで世界は暗転した──。
まるで夢の中の出来事のようにアリシアの身体はアリシアの意思に反して神殿の中を進んで行く。
甘かった。
食事の時の神官の対応から逃げ出すことなど簡単だと思っていたが甘い考えだった。
神との婚礼の儀は王も承認している儀式なのだからアリシアが逃げられるはずなどなかったのだ。
部屋から出た直後に嗅がされた香のせいで指の一本ですら自分の意思で動かせない。
目の前を憎き大神官が悠々と歩いているのにただ後をついて行くことしかできない。
(おのれ大神官んんん毛根根腐れろぉぉぉぉぉぉ! ってもう大神官髪の毛無かったくそぉぉぉぉぉぉ!)
せめてもの頭髪永久脱毛の呪いをかけることすら叶わない。
それにしてもいくら春先とはいえ夜はまだ冷えるのにこの肩の出たドレスで少しも肌寒さを感じないのも香の影響だろうか。
それともこの神殿内の異様な空気が原因か。
シャーン、シャーンと何重もの鈴の音が響き、神官たちの低く歌うような声が熱気となり天井にまでうねっている。月光を取り入れるため灯りの数は抑えられているが蠢く人の気配はまるで夜とは思えない。
長いドレスの裾を踏むこともなくアリシアは祭壇にたどり着いた。
そこに置かれた銀の杯は壁一面の窓からの月光を受けて青く煌きらめいている。
中に注がれた液体がきっと毒なのだろう。
「アリシア、跪いて神に祈りを捧げるのです」
どうして。どうしてこんなことに。
涙を流しながらもアリシアは従順に跪く。
「神よ! 花嫁をお連れしました! ユーンブルグに栄光あれ!!」
「「「ユーンブルグに栄光あれ!!」」」
ぞわり……と神官たちの声に応えるように空気が揺れた気がした。
ぞろりぞろりと足下から闇が集まって行く。
この、全身の毛穴が開くような気配はなんだ。
この、骨の芯まで凍るような冷気はなんだ。
この、祭壇の上に広がる闇の塊はなんだ。
こんなものが、神だと言うのか?
鈴の音も神官たちの声も止みアリシアには早鐘のような自分の心臓の音しか聞こえない。
誰もが時を止めたように広がり続ける闇を見つめることしかできない。
すっ……と闇がアリシアの頬を撫でた。
違う。手だ。白く、美しい手だ。
闇の中から現れた手がアリシアの頬を撫でているのだ。
闇に呑まれているから肘から先しか見えないが、人間と同じ形をした美しい手だった。
しかしこんな闇の中から現れるものが果たして人間だろうか?
ゆるゆると視線を動かすと青い眼が見下ろしていた。
闇の中に青い眼だけが浮かんでいる。それはまるであの空の月のようだった。
(あの月と同じ……)
そう思った途端、
なんだかとても、イラっとした。
だってこの断りもなくアリシアの頬を撫でている手の持ち主は、アリシアがこんな目に合っている原因の月と同じ色の眼なのだ。
どう頑張っても月に手は届かないが、この青い眼は射程距離内。
そして相手は花嫁を迎えに来た神の使いだかそれ以外の禍々しい存在だか知らないが(気配からして後者の線が濃厚)このまま黙っていたらアリシアの命は確実に消えるだろう。
だったらせめて一矢報いてやる。
(食らえ巫女巫女アリシアあたっくぅぅぅぅぅぅうぅううぅぅ!!!!!)
ド根性で香の影響を振り切ったアリシアは、反動をつけて青い眼めがけて自分の頭を打ち付けた。
ガッチイィィィィィン!!
何か硬いものがぶつかるような音と同時に額がジンジンと痛む。
(人外にも頭突きってできるんだ……)
なんだか妙な達成感を感じた瞬間、そこで世界は暗転した──。
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