6 / 13
6.
しおりを挟む◆
午後六時。
隣での物音は止んだのに、女はまだいるらしい。台所で何やらはしゃいだ声がする。
いい加減夕飯を作らないといけないのに。
眉を寄せながらリビングのドアを開けると、何かを煮ているような匂いがただよって来た。
「……あ! ああ! あなたが妹さんね! お邪魔しています。初めまして!」
まるでこの家の住人みたいな顔をして。
コンロにかけた鍋の中身をかき混ぜる女が美也子に気づいて振り返る。
濃いめのアイメイク。パーマのかかった茶髪。ブリブリとしたピンクのエプロン。……前回の黒髪の女とは別の女だ。
指先には派手なネイルが施されていて、その爪でうちの調理器具に触られたのかと思うと目眩がする。
(私が嫌いなタイプ……っ)
しかし、その女の目尻にはホクロがあった。
「私、お兄さんとお付き合いしている茉莉花って言います……あら!」
何かに気付いたように女が嬉しげに手を叩く。
「すごい! 妹さんにも泣きボクロが有るのねっ? 充也にも有るし、私たち三人、ホクロの位置がおそろいね!」
「……初めまして。充也の妹の美也子です」
本当は今すぐにでも出て行って欲しかったが、そうもいかずに挨拶を返した。
「美也子ちゃんの話はいつも充也から聞いてるのよ。……と言うか充也は口を開けば美也子ちゃんの話ばっかりで。それが原因で別れた彼女もいるっていう噂も有るくらいなんだから。お兄さんのためにも少しは兄離れしてあげてね。ね?」
じろじろと値踏みをする様な女の視線が全身を這う。
ねぇ、この女は、今なんて言った?
「――ストップ。茉莉花、美也子がビックリしてる」
ふわり。と後ろから兄の手が周り抱き込まれる。
慣れた体臭と体温に警戒心が和らぐ。
きっと兄がいなければ、自分はこの女をひっぱたいていた。
「あらごめんなさい? ふふ、本当に妹が可愛くて仕方ないのね。でもこんなに自分に似てる美少女じゃその気持ち分かるわぁ。あなた達、一対のお人形……お雛様みたいね。お父さんとお母さんどちらに似てるのかしら?」
「……両親が、従兄妹同士だったので両親の顔もなんとなく似てるんです」
「そう。だから俺たちはどっちにも似てるってこと。母親にはもう何年も会って無いけどね」
繊細な話題に触れたというのに女の表情は変わらない。
一体どこまでこちらに踏み込んでくれば気が済むのだろう!
「あ、そうそう美也子ちゃん! お母さんがいないって聞いてたから、夜ごはんに食べてもらおうと思って私シチューを作ったの。ぜひ食べてね!」
「バイトの前にわざわざ作らなくても良いって言ったのに……。茉莉花、もう出なきゃ間に合わない時間だろ? 送れなくて悪いけど……」
「駅すぐ近くだから平気よ。それより冷めないうちに食べて。じゃあね美也子ちゃん。お邪魔しました」
誇らしげな笑顔に、喉の奥がざらついた。
0
あなたにおすすめの小説
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―
甘塩ます☆
恋愛
「君を金貨三十枚で買ったのは、安すぎたかな」
酒浸りの父と病弱な母に売られた少女・ユナを救ったのは、国中から「放蕩王子」と蔑まれる第二王子・エルフレードだった。
「虫除けの婚約者になってほしい」というエルの言葉を受け、彼の別邸で暮らすことになったユナ。しかし、彼女には無自覚の天才調合師だった。
ユナがその才能を現すたび、エルの瞳は暗く濁り、独占欲を剥き出しにしていく。
「誰にも見せないで。君の価値に、世界が気づいてしまうから」
これは、あまりに純粋な天才少女と、彼女を救うふりをして世界から隠し、自分の檻に閉じ込めようとする「猛禽」な王子の物語。
憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる