【R18】ちっぱい発育大作戦

茅野ガク

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小さい時ジウちゃんは金髪だった。
先祖返り?というものをしたらしくジウちゃんのお父さんもお母さんも純日本人なのに、ジウちゃんの髪は絵本の中の外国の王子様みたいにキラキラしていた。
高校三年生になった今では髪の色は焦げ茶に落ち着いたけれど、緑の光彩が散る薄茶の瞳は昔のままだ。

そんなジウちゃんの髪がまだ金色だった頃。
独り暮らしの地主のおばあさんが高齢になったために息子夫婦が引っ越して来たことで私たちは出会った。
斜め向かいの広いお庭のお家。そのお家に有名人一家が引っ越してきたと大騒ぎになったことは今でもご近所のおばさんたちがよく話している。
だけど5才だった私にはエンシュツカとかモトジョユウと言われてもピンとこなくて。引っ越しの挨拶に来た光の天使のような男の子をただただ夢中で見つめていた。

この綺麗な男の子とお友だちになりたい!
そう思った私は勢いよく手を差し出した。
「わたしメイ! お友達になろう?!」
だけど生まれ育ったお家も通っていた幼稚園も変わらなければいけなかった王子様はとてもとてもフキゲンで。
「……嫌だ」
と私の言葉をバッサリと切り捨てたのだった。


*


ジウちゃんが引っ越してきてから4回目の金曜日。
幼稚園で同じうさぎ組さんになった私は今日もジウちゃんの隣にいた。
「ジウちゃんなにしてるの?」
「……宇宙の図鑑読んでる」
「うちゅー? よくわかんないけど、この写真ジウちゃんのお目めみたいでキレイだね!」
「……そんなこと言うの芽愛ちゃんだけだよ」
「そうかなぁ?」
ぐるりと教室を見回すと目があったキヨちゃんがパッと横を向いてカオリちゃんとひそひそ話を始めた。

最近のうさぎ組さんはなにか変だ。
女の子たちはないしょ話ばかりするようになったし、男の子たちは戦いごっこに絶対ジウちゃんを入れない。
先生たちも「なんでうちみたいな公立に……」とムズカシイことを言って困った顔をしていた。

その空気がイヤで図鑑のページをめくるジウちゃんの腕にギュっとしがみつく。
「芽愛ちゃん? それじゃあ読めないよ」
そう言われても腕を掴む力は緩めない。
そんな私を見てため息をついたジウちゃんは私を腕にぶら下げたまま片手で続きを読み始める。
初めて会った時は握手をしてくれなかったジウちゃんだけれど、最近は私が近くにいても変な顔をしなくなった。
それが嬉しくてぐりぐりとジウちゃんの肩に頭を押し付ける。
「くすぐったいよ……」
「えへへー」
ジウちゃんからはいつもお月さまの夜みたいな匂いがした。

「慈雨くーん、芽愛ちゃーん! お母さんのお迎えですよー」

「あっママたち一緒に来たんだ! ジウちゃん行こう!」
先生の声に手を繋いで立ち上がる。
強く握り返してくれたその手をずっと繋いでいたいと思った。


事件が起きたのはそれからすぐ後のこと。
ジウちゃんの家の庭で2人で大きな黒い蝶々を追いかけている時だった。

「芽愛ちゃんどうしたの?」
「ん……なんでもない……」
本当はなんでもなくなかった。実は今、すごくおしっこがしたい。答えながらもじもじと太ももを擦り合わせる。
だけど今おトイレに行ったらあの蝶々はいなくなってしまうかもしれない。そう思うとおトイレのことを言い出せなかった。だってジウちゃんの家のお庭は広いから、行って戻ってくるだけでもたくさん時間がかかってしまう。

「そう? ……ねえ、何か聞こえない?」
「……本当だっミーミーって聞こえる!」
音のする方向に走って行くと、大きな桜の木の上でぬいぐるみみたいな白い仔猫がプルプルと震えていた。

「ネコちゃん!」
「最近うちの庭で野良が産んだ仔猫だ。きっと降りられなくなったんだ」
待ってて。そう言うとジウちゃんは器用に木のゴツゴツした部分に足をかけて登り始める。
「ジウちゃんあぶないよぅ」
「この木はおばあちゃんちに来るたびに登ってた木だから大丈夫!」

だけどなれない人間に近づかれた仔猫がパニックになってシャーシャーと威嚇の声をあげる。引っ掻かれそうになりながらも手を伸ばしたジウちゃんを──恩知らずな仔猫は踏み台にしてさっさっと飛び降り逃げてしまった。

「わっ!」
不意に頭を踏まれたジウちゃんがぐらりとバランスを崩す。
「ジウちゃんっ!!」
大好きなお友だちを助けなければ!
その一心で落下する彼の下へと走り思い切り飛び込む。
ズザザザーッ! と受け止める気満々でスライディングした私をよそにジウちゃんは片手で枝を掴みヒラリと華麗に着地した。
「えっなんで芽愛ちゃんが転んでるの?!」
泥と草にまみれた私と違いジウちゃんは無傷だ。

「えへへ良かったぁ」
その姿にホッとして気が弛んだのがいけなかったのか。
生温い感触が私のパンツを濡らした。チョロチョロと、忘れていた尿意が地面へと染み込んでいく。
水音が止むまでジウちゃんはお人形みたいな瞳で私から流れ出る液体を眺め続けた。

5才にもなってお漏らしをしているところを大好きな男の子に見られてしまっていること。ズキリと痛む血の滲んだ膝小僧の擦り傷。ジウちゃんが無事だったことの安堵。
色んな感情がごちゃまぜになって私の頭を沸騰させる。

「ふぇっ、ぅっ、ぅう~~」
「泣かないで芽愛ちゃん」
ジウちゃんの指が涙をすくう。
「ぼくが綺麗にしてあげるから」
ポケットから取り出したチェックのハンカチでジウちゃんが私の太ももを拭った。
「ジ、ジウちゃんのハンカチが汚れちゃうよぉ」
「全然汚くなんかないから大丈夫」
本当に汚いなんて思っていないかのように、ハンカチを持った右手が私の足首を掴んで持ち上げる。
「本当はおばあちゃんのことが落ち着いたらさっさっと元の家に戻るつもりだったけど……」
呟きながら金色のまつ毛を伏せた顔が膝に近づきチロリと傷口を舐めた。
「──っ!」

「芽愛ちゃん。ぼくはこれからずっと君のそばにいるよ」

そう笑ったジウちゃんのくちびるがドキドキするくらい紅くて、目眩がしたのを昨日のことみたいに覚えている。


*


「ずっと君のそばにいる」
そう言ってからのジウちゃんはそれまでの周囲への無関心さがウソみたいに積極的になった。
女の子にはとびきりの笑顔で笑いかけるようになったし、先生には「慈雨くんがいれば安心ね」と言われるクラスのリーダーになった。
頑なにジウちゃんを仲間に入れなかった男の子たちも、気がつけばいつもジウちゃんを中心に集まっていた。

幼稚園、小学校、中学。高校生になってもジウちゃんは言葉通りずっとそばにいてくれた。
優しくて賢い彼が教えてくれるおかげで勉強が苦手な私でもそこそこの成績が取れたし、運動も得意で人気者の彼は私の自慢の幼なじみだった。
思春期になってからは誰かに告白されない週がないくらいモテるジウちゃんと違って、私には恋人どころか異性の友達もいなかったけれど、それはただ単に私のスペックの問題だろう。私自身今の今まで恋愛や彼氏というものに興味など一切無かった。

だけど。
だけど私は知ってしまったのだ。


彼氏ができればおっぱいが 大 き く な るということをっ!!


なんで彼氏とおっぱいが関係あるのかとか、なんで合コンに行くと彼氏ができるのかとか。今まで恋愛に無知だった私にはサッパリわからないけれど、ジウちゃんに聞きさえすればきっとどんなことも解決するだろう。

自分の家の玄関にカバンを放り投げて、私は制服姿のままルンルンと棟方家の扉を開いた。
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