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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
ブリーの結婚
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エミリーとデビッドが家に帰ると、なんだかバタバタしていた。
クリスマス休暇でお休みのはずのタナー夫人が、なぜかそこにいた。
「あれ? お休みで娘さんのところへ行ったんじゃなかったの?」
「いえ、出かけようとしていた時に奥様から電話がありまして。ブリジットさまの一大事ですもの、私がお手伝いできなくて誰がするんですか!」
「へっ? ブリーの一大事って、何の事?」
「まぁ、エミリーさま。結婚ですよ、結婚。」
「「結婚?!!」」
デビ兄と二人でびっくり仰天だ。
聞いてないよー。
いつ決まったの?そんな話。
「今日、お相手の方が来られるそうなんですよ。男のジボアだけに任せとけませんからね。やっぱりこういう場は女でなくっちゃ。」
いや、ジボアだけでもなんとかなると思うけど…たぶん母様が精神的な支えとしてタナー夫人を呼んだんだろうな。
そのブリーのお相手とやらは、お茶の時間にやって来た。
もちろんブリーも一緒だ。
やっぱりなと、デビ兄と目を見かわす。
学校の帰りに街で見かけたあの男の人だ。
近くで見ると、痩せてひょろりした体型が余計に目立つ感じがする。
側に座っているブリーがムチムチとした健康的な身体つきなので、なんだか頼りなさそうに見える。
大丈夫なんだろうかこの人で…。
お茶の時は、みんな穏やかで表面的な会話を交わしていた。
やはり腐っても貴族。
サマー家の面々は衝撃を受けている心の中を隠して、初めてのお客様を家に迎えた時のようなさりげなさで、平然とお茶を飲んでいた。
今までの会話でわかったことは、その男の人がガブリエル・キャンベルと言う名前だということ。
大天使ガブリエルの名を冠する雰囲気は全然ない人だけど、まぁ名前は自分で選べるわけがないからしかたがないね。
でも、キャンベル家?
どこの系列の人だろう。
ブリーは伯爵位以上の人でないと嫁に行かないと日頃から豪語していたので、いずれそれに連なる名家の人なのだろう。
キャンベルさんは、ブリーとは旅行先で知り合ったらしい。
へぇー、ハイスクール時代のボーイフレンドじゃないのね。
道理でキャスが知らないはずだ。
キャスがだから言ったでしょ、というようにエミリーとデビ兄を睨む。
すいませんね。
しつこく思い出せと迫ったりして…。
アル兄さまが、どこの大学を卒業したのか聞いている。
大学は出ていないそうだ。
キャンベルさんは出身校として、北部にある職業高校の名前を出していた。
その時に初めて、家族皆の顔色が変わった。
…ということは、キャンベルさんは貴族ではないということだ。
皆、一斉にブリーの方を見る。
ブリーは素知らぬ顔をしてお茶を飲んでいる。
どーいうこと?!
「えーっ、僕は、僕はブリジットさんと結婚を前提にお付き合いをさせて頂きたいと思っていますっ。どうかその事をお許しいただきたいっ。」
キャンベルさんにとっては、一世一代の大舞台だろう。
瘦せた身体から力を振り絞って、そう言い切った。
父様と母様は顔を見合わせて途方に暮れている。
まさか、ブリーが貴族以外の人と結婚することになるとは思っていなかったのだろう。
キャスは、貴族とは絶対に結婚しないと日頃から言っていたが、ブリーは貴族階級に嫁に出すつもりでミズ・クレマーに家事全般を習わせていたのだ。
母様のほうが我に返るのが早かった。
「あなたがそういうお気持ちなら、もう少し詳しくお話を聞かせて頂きたいですわ。なにせこちらは今日初めてこの事をお聞きしたので、どういう経緯でそんなお話になったのか、何も知らないんですの。ブリジット、このお話を進めてもいいのね。」
母様がブリーに念を押す。
「ええ、母様。私、この人と結婚したいと思っています。」
ブリーがはっきりと言い切った。
他人がいるときのいつもの如才ないブリーではない。
家族といる時の気の強い男らしいブリーだ。
「お前は決断が速いからな。たぶんここまで早く話を進めるつもりはなかったんだろ? 何があってそう話を急がせているんだ?」
父様がそうブリーに聞く。
「昨日、おじい様から電話があって…。」
「ああ、あれか。お前の希望の伯爵位以上の結婚相手がなかなか見つからないから、男爵の嫡男でもいいか?と言ってきたあれだな。」
「ええ、そうです。今、お付き合いしている人がいることをおじい様に言ってなかったから…。」
「おじい様どころか、ここにいる皆も何一つ聞いてないぞ。いったいいつからキャンベルさんとお付き合いしてたんだ。」
「…そのう、二か月前から…。」
「「「2か月?!!」」」
男性陣の声が揃う。
…いやブリーならあるから。
なんせ現実的で男らしい決断を下すからね。
でも2か月前からの付き合いで、なんで私が知らないんだろう?
2か月前って言ったらあれよね。
…えっ?
ブリーは滝宮さまにきゃいきゃい言ってた時じゃなかった?
一緒にお弁当作って………待てよ。
旅行先で知り合ったって言ってたよね。
「…まさかっ! その人B&Bの息子さん?!」
エミリーは、思わず大声を上げてしまった。
「エミリー、何か知ってるの?」
「母様、ほらブリーが友達と旅行に行った先で、変な男に絡まれていた時に、夫の振りをして助けてくれたって言ってた宿屋の息子さんがいたじゃない!」
「エミリーさま、そのことは奥様はご存知ないですよ。あの時聞いていたのはミズ・クレマーと私とエミリーさまだけでしたから。」
タナー夫人がいつの間に来ていたのか、お茶を入れ直しながらそう言った。
「ブリー、そうなの?」
皆でブリーを見ると、ブリーも観念してしぶしぶ話しだした。
エミリーをちらりと睨むことは忘れなかったが。
ごめん。
つい興奮して…。
でも何も言わなかったブリーが悪い。
◇◇◇
エミリーの予想は当たっていた。
ガブリエル・キャンベル氏は、B&B、ベッドアンドブレックファーストというイギリスの簡易民宿の長男さんだった。
ブリーは学生時代の友達と3人でアイルランドのスクル村に観光に行ったのだが、村の高台にある14世紀の頃のお城の遺跡を見学していた時に、変な男の人と出会ってしまい、その人が宿の方まで付きまとってきて苦労したらしい。
このままだと家に帰るまでつきまとわれるかもしれないと案じて、友達2人と芝居を打つことにしたようだ。
その男はどうやらブリーが目当てらしいから、ブリーがこの宿の息子と結婚していて、友達2人がここに遊びに来たという設定を作ったらしい。
その顛末のドタバタが面白かったので、料理の合間にその話を聞いてみんなで大笑いしたことを思い出す。
その後何がどうなったか知らないが、それをきっかけにメールをしたり電話で話したりしながら、徐々に仲良くなっていったようだ。
母様が「ここ何週間も水曜日に出かけていたのは、キャンベルさんと会っていたからなの?」と聞くと、そうだと言っていた。
なんということでしょう。
私は試験勉強をしていたせいか、ちっとも気づかなかったよ。
「B&Bをご家族で経営しているということだが、経済的には大丈夫なのかね?」
父様、それは男親としては気になるよね。
アル兄さまもキャンベルさんの返答に注目している。
「はい。B&Bと言ってもプチホテルぐらいの規模はあります。うちは、あの辺り一帯でも歴史のある老舗の宿でして、御贔屓筋も大勢いらっしゃいます。ブリーさんに貧乏させるということはありません。」
いやいやキャンベルさん、ブリーだよ。
貧乏させないぐらいで足りるわけないじゃん。
私なら本だけ与えてほっといてくれたらそれでいい、安上がりの女だけどね。
ブリーはかかるよ、養い賃。
父様とアル兄さまも同じことを思ったのだろう、顔をしかめている。
「とにかく、急なお話だからね。今すぐ付き合いを許す許さないという返事はできないよ。なんといっても、うちの子供たちの中でも初めての結婚の話だからね。」
父様はそういうふうに旨い事を言って、話を終わらせた。
父様もおじい様の外交筋の血を受け継いで、こういう言い方はうまい。
たぶんこれからおじい様に連絡を取って、キャンベル家のことを調べてもらうのだろう。
なんとかなってブリーの希望が叶うといいけど。
あの貴族だの王子様だのと言っていたブリーが、普通の男の人を連れて来たのだ。
よほど気に入っているのだろう。
キャスとデビ兄と一緒に、ブリーたちの今後の事を予測しながら、エミリーはそう思っていた。
クリスマス休暇でお休みのはずのタナー夫人が、なぜかそこにいた。
「あれ? お休みで娘さんのところへ行ったんじゃなかったの?」
「いえ、出かけようとしていた時に奥様から電話がありまして。ブリジットさまの一大事ですもの、私がお手伝いできなくて誰がするんですか!」
「へっ? ブリーの一大事って、何の事?」
「まぁ、エミリーさま。結婚ですよ、結婚。」
「「結婚?!!」」
デビ兄と二人でびっくり仰天だ。
聞いてないよー。
いつ決まったの?そんな話。
「今日、お相手の方が来られるそうなんですよ。男のジボアだけに任せとけませんからね。やっぱりこういう場は女でなくっちゃ。」
いや、ジボアだけでもなんとかなると思うけど…たぶん母様が精神的な支えとしてタナー夫人を呼んだんだろうな。
そのブリーのお相手とやらは、お茶の時間にやって来た。
もちろんブリーも一緒だ。
やっぱりなと、デビ兄と目を見かわす。
学校の帰りに街で見かけたあの男の人だ。
近くで見ると、痩せてひょろりした体型が余計に目立つ感じがする。
側に座っているブリーがムチムチとした健康的な身体つきなので、なんだか頼りなさそうに見える。
大丈夫なんだろうかこの人で…。
お茶の時は、みんな穏やかで表面的な会話を交わしていた。
やはり腐っても貴族。
サマー家の面々は衝撃を受けている心の中を隠して、初めてのお客様を家に迎えた時のようなさりげなさで、平然とお茶を飲んでいた。
今までの会話でわかったことは、その男の人がガブリエル・キャンベルと言う名前だということ。
大天使ガブリエルの名を冠する雰囲気は全然ない人だけど、まぁ名前は自分で選べるわけがないからしかたがないね。
でも、キャンベル家?
どこの系列の人だろう。
ブリーは伯爵位以上の人でないと嫁に行かないと日頃から豪語していたので、いずれそれに連なる名家の人なのだろう。
キャンベルさんは、ブリーとは旅行先で知り合ったらしい。
へぇー、ハイスクール時代のボーイフレンドじゃないのね。
道理でキャスが知らないはずだ。
キャスがだから言ったでしょ、というようにエミリーとデビ兄を睨む。
すいませんね。
しつこく思い出せと迫ったりして…。
アル兄さまが、どこの大学を卒業したのか聞いている。
大学は出ていないそうだ。
キャンベルさんは出身校として、北部にある職業高校の名前を出していた。
その時に初めて、家族皆の顔色が変わった。
…ということは、キャンベルさんは貴族ではないということだ。
皆、一斉にブリーの方を見る。
ブリーは素知らぬ顔をしてお茶を飲んでいる。
どーいうこと?!
「えーっ、僕は、僕はブリジットさんと結婚を前提にお付き合いをさせて頂きたいと思っていますっ。どうかその事をお許しいただきたいっ。」
キャンベルさんにとっては、一世一代の大舞台だろう。
瘦せた身体から力を振り絞って、そう言い切った。
父様と母様は顔を見合わせて途方に暮れている。
まさか、ブリーが貴族以外の人と結婚することになるとは思っていなかったのだろう。
キャスは、貴族とは絶対に結婚しないと日頃から言っていたが、ブリーは貴族階級に嫁に出すつもりでミズ・クレマーに家事全般を習わせていたのだ。
母様のほうが我に返るのが早かった。
「あなたがそういうお気持ちなら、もう少し詳しくお話を聞かせて頂きたいですわ。なにせこちらは今日初めてこの事をお聞きしたので、どういう経緯でそんなお話になったのか、何も知らないんですの。ブリジット、このお話を進めてもいいのね。」
母様がブリーに念を押す。
「ええ、母様。私、この人と結婚したいと思っています。」
ブリーがはっきりと言い切った。
他人がいるときのいつもの如才ないブリーではない。
家族といる時の気の強い男らしいブリーだ。
「お前は決断が速いからな。たぶんここまで早く話を進めるつもりはなかったんだろ? 何があってそう話を急がせているんだ?」
父様がそうブリーに聞く。
「昨日、おじい様から電話があって…。」
「ああ、あれか。お前の希望の伯爵位以上の結婚相手がなかなか見つからないから、男爵の嫡男でもいいか?と言ってきたあれだな。」
「ええ、そうです。今、お付き合いしている人がいることをおじい様に言ってなかったから…。」
「おじい様どころか、ここにいる皆も何一つ聞いてないぞ。いったいいつからキャンベルさんとお付き合いしてたんだ。」
「…そのう、二か月前から…。」
「「「2か月?!!」」」
男性陣の声が揃う。
…いやブリーならあるから。
なんせ現実的で男らしい決断を下すからね。
でも2か月前からの付き合いで、なんで私が知らないんだろう?
2か月前って言ったらあれよね。
…えっ?
ブリーは滝宮さまにきゃいきゃい言ってた時じゃなかった?
一緒にお弁当作って………待てよ。
旅行先で知り合ったって言ってたよね。
「…まさかっ! その人B&Bの息子さん?!」
エミリーは、思わず大声を上げてしまった。
「エミリー、何か知ってるの?」
「母様、ほらブリーが友達と旅行に行った先で、変な男に絡まれていた時に、夫の振りをして助けてくれたって言ってた宿屋の息子さんがいたじゃない!」
「エミリーさま、そのことは奥様はご存知ないですよ。あの時聞いていたのはミズ・クレマーと私とエミリーさまだけでしたから。」
タナー夫人がいつの間に来ていたのか、お茶を入れ直しながらそう言った。
「ブリー、そうなの?」
皆でブリーを見ると、ブリーも観念してしぶしぶ話しだした。
エミリーをちらりと睨むことは忘れなかったが。
ごめん。
つい興奮して…。
でも何も言わなかったブリーが悪い。
◇◇◇
エミリーの予想は当たっていた。
ガブリエル・キャンベル氏は、B&B、ベッドアンドブレックファーストというイギリスの簡易民宿の長男さんだった。
ブリーは学生時代の友達と3人でアイルランドのスクル村に観光に行ったのだが、村の高台にある14世紀の頃のお城の遺跡を見学していた時に、変な男の人と出会ってしまい、その人が宿の方まで付きまとってきて苦労したらしい。
このままだと家に帰るまでつきまとわれるかもしれないと案じて、友達2人と芝居を打つことにしたようだ。
その男はどうやらブリーが目当てらしいから、ブリーがこの宿の息子と結婚していて、友達2人がここに遊びに来たという設定を作ったらしい。
その顛末のドタバタが面白かったので、料理の合間にその話を聞いてみんなで大笑いしたことを思い出す。
その後何がどうなったか知らないが、それをきっかけにメールをしたり電話で話したりしながら、徐々に仲良くなっていったようだ。
母様が「ここ何週間も水曜日に出かけていたのは、キャンベルさんと会っていたからなの?」と聞くと、そうだと言っていた。
なんということでしょう。
私は試験勉強をしていたせいか、ちっとも気づかなかったよ。
「B&Bをご家族で経営しているということだが、経済的には大丈夫なのかね?」
父様、それは男親としては気になるよね。
アル兄さまもキャンベルさんの返答に注目している。
「はい。B&Bと言ってもプチホテルぐらいの規模はあります。うちは、あの辺り一帯でも歴史のある老舗の宿でして、御贔屓筋も大勢いらっしゃいます。ブリーさんに貧乏させるということはありません。」
いやいやキャンベルさん、ブリーだよ。
貧乏させないぐらいで足りるわけないじゃん。
私なら本だけ与えてほっといてくれたらそれでいい、安上がりの女だけどね。
ブリーはかかるよ、養い賃。
父様とアル兄さまも同じことを思ったのだろう、顔をしかめている。
「とにかく、急なお話だからね。今すぐ付き合いを許す許さないという返事はできないよ。なんといっても、うちの子供たちの中でも初めての結婚の話だからね。」
父様はそういうふうに旨い事を言って、話を終わらせた。
父様もおじい様の外交筋の血を受け継いで、こういう言い方はうまい。
たぶんこれからおじい様に連絡を取って、キャンベル家のことを調べてもらうのだろう。
なんとかなってブリーの希望が叶うといいけど。
あの貴族だの王子様だのと言っていたブリーが、普通の男の人を連れて来たのだ。
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