サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー

クリスマス準備

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 試され続けた秋試験が済んで、やっと安寧な日々が戻ってきた。

エミリーもデビ兄も無事に試験に合格して、家族中で喜んだ。

特に父様は珍しいことに「二人ともよくやったな。」と握手までしてくれた。
試験準備期間中の私たちの学習態度に感心したらしい。

キャスとは違い私たち二人が勉強の事で褒められるなど、今までになかったことだ。
照れ臭かったがとても嬉しかった。


12月に入ると周りは一気にクリスマスムードになる。

村の教会でも昨日クリスマス前の大掃除が行われた。
村中の手の空いた人たちが掃除道具を片手に集まるので、大変に賑やかだった。

ジムじいさんとカビィばあさんが、毎年恒例のクライスト様の磨き上げをして、掃除の締めを飾ってくれた。
「これで神様も気持ちよーに新しい年を迎えられるの。」という言葉まで一言一句、去年と変わらなかった。

牧師夫人のサラ・めんどーと婦人会の役員の人たちが、ケーキやお茶を出して皆の働きをねぎらってくれた。


エミリーの通う学校も、あと1週間でクリスマス休暇に入る。

登下校の時、クリスマスの飾りでお化粧された商店街を見ると、なんだかウキウキしてくる。
風に乗って、どこか懐かしさを感じるクリスマスソングも流れてくる。

友達の間の会話でも、クリスマス休暇をどう過ごすのかが話題の中心だ。

この季節は好きだなぁ。

この間なつみさんも、クリスマスの季節が好きだったと言っていた。
こういう感じ方というのは、生まれ変わってもあまり変わらないのかもしれない。


 クリスマスになると張り切りだすのは家の女性であることが多いと思うが、サマー家では父様が一番に飾り付けを始める。

昨日、父様が屋根裏部屋をごそごそやっていたと思ったら、クリスマス用の段ボールが5つ、ホールに降りてきていた。

今朝はデビ兄を連れて、裏の林にクリスマスツリーの調達に出かけた。

エミリーにも行かないかとお呼びがかかったが、3日前から降り止まない雪で林の中は真っ白の雪景色だ。

私など足手まといにしかならないと思って、辞退申し上げた。

めんどくさいなんて思ってないよ。
雪が降り続けてる外に出るより、布団の中で本を読んでた方が寒く無いなぁとはちょっと思ったけどね。


2時間ほど本を読んでいたら、父様たちが帰って来たのだろう。

階段下からエミリーを呼ぶデビ兄の大声がする。

「エーーム! ツリーを採って来たぞー。今度は手伝え!」

はいはい、わかりました。
ツリーの飾りつけは私も好きだから、勿論手伝いますとも。

エミリーは暖かい上着を着こんで、階段を一番下まで一気に駆け降りた。

玄関ホールには、溶けかかった雪をぽてぽてと垂らしているクリスマスツリーが立っていた。

森の匂いがする。

ホール中にもみの木の爽やかな香りが溢れていた。

そして樅の木と父様たちが持ち込んだひんやりとした冷たい空気で、ホールの様子がいつもとは違った感じがする。

ツリーの根元を浸けておく為の、水の入った重そうなバケツを持った、デビ兄と父様がやって来た。

「エミリー、私たち二人でこのツリースタンドを持ち上げるから、その隙にこのバケツを下に入れてくれ。」

父様はひと仕事終わった後の、満足そうな顔をしている。

「わかった。今年はえらく大きい木にしたんだね。」

「ちょうどいい大きさのがなかなかなくてさ。雪も降るし、これで妥協したんだよ。」

妥協したと言いながら、デビ兄も満足そうだ。

小さい木より大きな木にしようと主張したのは、デビ兄に決まっている。

「よし、いくぞっ。せぇーの。「よいしょっ!」」

大きなバケツを、エミリーは自分の身体も足も使ってツリーの下に押し込んだ。

木の上から水がぼたぼた降ってきて、髪に落ちて来た雪の塊がつぅっと滑って襟元に入ってきた。

「うぎゃぁーーー、冷たい!!」

エミリーがぎゃいぎゃい叫んで首元を払っていると、父様とデビ兄に大笑いされた。

「狙ってもこう上手くは入らないよな。」
「めんどくさがりにはいい薬だ。」

ひどいひどい。
ちゃんと手伝ってるのにー。

「あらあら、何事? まぁ、ホールがびしょ濡れじゃないの!」

母様、ホールだけじゃなくて私もびしょ濡れなんですけど…。

母様にやいやい言われて、三人でツリーの下をぞうきんで拭いた。

それから古いバスタオルを木の下に敷いて、樅の木全体が乾いてくるのを暫く待つ間、皆でお茶にする。

毎年変わらぬクリスマス前の風景だ。


「アレックスが明日帰って来るそうですよ。」

母様がとてもいい笑顔だ。

「ええっ、いいなぁアル兄さま。もうお休みなの?」

「大学は休暇に入るのが早いからな。アレックスが明日帰るとわかっていたら、ツリーを切るのは明日にするんだったな。」

父様が残念そうだ。

「でも父様、アル兄さまは細かいことを言うから、大きさの丁度いい木が見つかるまで、林じゅう連れまわされるよ。」

「そうか。そうだな。こう雪が降ってちゃ、それはつらいな。今年はこれで良かったってことか。今年はデビッドがいてくれたけど、来年はお前もロンドンだもんなぁ。子供たちが皆大きくなると、クリスマスの祝い方も変わって来るかもしれないなぁ。」

「私もそろそろお嫁に行くかもしれないし…。」

ブリーが突然そう言ったので、皆が驚いて一斉にブリーの方を見た。

「あなた、そういう予定があるの?」

「やだなぁ母様、今のところ希望的推測ですけど、その可能性は否定できないでしょ。」

皆で一気に脱力する。

なぁんだ。


でも最近ブリーの電話が長いのよねぇ。

もしかして、誰かとつき合い始めたのかしら?



◇◇◇



 やっとジュニア・ハイスクールの終業式の日が来た。

アル兄さまが帰って来て、3日後にはキャスも帰って来たので、自分たちの終業式が待ち遠しかった。
これで兄弟全員でゆっくりと過ごせる。

ミズ・クレマーもクリスマス休暇で昨日、自宅に帰ったので、ブリーも今日から遊べると張り切っていた。


「おい、あれブリーじゃないか?」

デビ兄と一緒に学校から帰っていると、車窓からブリーが誰かと歩いているのが見えた。

「ほんとだ。隣にいたの男の人じゃなかった?」

「エムが知ってるやつか?」

「ううん。知らない。誰だろ?」

あの日本の皇太子、滝宮秀次たきのみやひでつぐさまじゃあなかった。

エミリーは他に、ブリーにどんなボーイフレンドがいるのか知らない。

「私とブリーは歳が離れてるからね。ハイスクール時代の事は全然知らないし…キャスならなにか聞いてるかも。」

「この間、何か思わせぶりなこと言ってたろ。あれ、意外と本気で言ってたのかもよ。」

「そろそろお嫁に行くかもしれないっていうやつ?」

「ああ。…もしそれが本当なら、これから大事おおごとだぞ。」


うわー、どうなるんだろう。

これは家族水入らずの、静かなクリスマスにはなりそうにないかも。
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