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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
そり遊び
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夕方、ブリーはキャンベルさんを送って行った。
昼過ぎ頃から雪がやんでいたので今夜中にはアイルランドに帰れるだろう。
エミリーたちが思っていたよりも遅く、ブリーが駅から戻ってきた。
キャスとエミリーは女の子部屋の居間で、ブリーの帰りを今か今かと待っていたので、ブリーがドアを開けて入って来るやいなや両側からブリーの腕を取ってソファに連行した。
「なによ。何の真似?」
「私たちに黙ったまま、こういうことになったんだから、これから全部吐いてもらうわよ。」
「そうそうキャスにまで黙ってたなんて、信じられない!」
有無を言わせずにブリーを座らせて、私たちもブリーを挟んで座る。
「さあ、教えて。本当にあのキャンベルっていう人と結婚するつもり?」
「ブリーってば、いつも伯爵以上じゃないと結婚しないって言ってたじゃない。」
「待って待って、二人とも。わかった。話すわよ。話せばいいんでしょ。」
「まずは、ガブリエルと結婚するかよね。さっきも言ったけど。するわ。するに決まってるじゃない。」
「だって、ブリーは…。」
「そう。エムが言っていた通り、伯爵位以上の人を望んでたわ。出来たらどこかの王子様が現れないかと思っていましたとも。それもつい最近までね。でもね、ガブリエル、ガビーと知り合って心の芯からくつろいでいる自分に気が付いたのよ。自分が何も飾らずに家族といる時のように安心しているのがわかった時の衝撃ときたら半端なかったわ。…恋とか愛って、もっとファンファーレが鳴るみたいに訪れるものだと思ってたの。二人の目の前に雷が落ちてフォールインラブって感じにね。でも…違った。なんか知らない間に側にいたっていうか、寄り添ったり寄りかかったりしてた感じなの。あれっこの人は私にとって大事な人なのかもしれないと気づき始めた時に、おじい様から電話があったの。」
「ああ、男爵の嫡男ね。」
「そう。それまでは、結婚がゴールのように思ってた。だからできるだけ条件のいい人を選ぼうと思ってたわ。そのために自分を磨いて努力もした。けどね、おじい様がお相手の条件を次々に並べて下さっているのに、全然ときめかなかった。結婚したその先の生活をその男爵の息子と送っている想像が出来なかった。ガビーとの生活の方が想像できた。いえ、ガビー以外の人とは嫌だと思ったの。それがわかったら早かったわ。あの人あんな人でしょ。彼が私にプロポーズをするのを待ってたら、私はおばあさんになっちゃうわ。こっちからさっさとしたの、プロポーズ。彼、ギョッとしてたけどね。お見合い話があるって言ったら、腹をくくったみたい。」
…ブリーらしい。
なるほどね。
そういうことだったのか。
これは父様たちに援護射撃が必要ね。
そう思ってキャスを見ると、キャスもわかってると笑って頷いた。
◇◇◇
翌朝のクリスマスイブの日は、この季節には珍しくぴかぴかに晴れていた。
庭の木々もこんもりと綿帽子をかぶって朝の光を浴びながら静かに立っている。
「うーーん。いい天気。こんな日は外を眺めてるだけでうれしくなっちゃうな。」
家族揃ってゆっくり食べる朝ごはんも良かった。
アル兄さまの笑えない冗談も笑えるし、デビ兄のからかいにもニコニコとやり返すことが出来る。
キャスと母様はブリーの話を聞いているし、父様はそんな皆を眺めて満足そうな顔をしている。
家族っていいな。
そう思える家族を持ててよかった。
エミリーはおきぬさんの言ってたことを思い出した。
私もいくつか前の前世では家族に恵まれなかったんだ。
今生の生では家族を大切にしよう。
そう改めて思ったイブの朝だった。
朝食の後、部屋に帰ってキラキラと眩しい窓の外を見ていると、これは雪の上に足跡をつけに行くべきだなと思った。
新雪の上に自分だけの足跡をつける満足感。
これに勝る喜びはない。
ふっふっふ。
キャスやブリーが話をしているうちに外に行こう!
決めると直ぐに、雪の中を歩く時用のスキーズボンをはいてお気に入りの青いキャップをかぶりマフラーをぐるぐると首に巻くとダウンジャケットを着て裏口から庭に飛び出した。
裏口の周りはジボアの仕業だろう雪が踏み固められていたが、広い庭の芝生の上に積もった雪はまだ真っ新のバージンスノウだった。
「うわーーーーっ。綺麗。」
ぽすっぽすっと歩いて行く、面白ーい。
庭木の陰に来ると雪の表面が太陽の熱で溶けていないので、触るとサラサラする。
両手に雪をすくって晴れた空に放り上げると、粉雪がキラキラと輝きながら落ちてくる。
何度も放り投げて遊んでいると、デビ兄がやって来た。
「いいことしてるじゃん。」と言うが早いか、雪玉を投げつけてくる。
「やったわねーー。」
エミリーはすぐさま日のあたるところへ飛び出て雪玉を一掴みでこしらえると、デビ兄に応戦した。
キャーキャー言いながら雪合戦をしていると、今度はアル兄さまがやって来た。
「デビッド! あったぞー。」
何があったの?
手を止めて見ると、アル兄さまは昔よく遊んでいたソリを引っ張ってきていた。
「あっ、いーなぁ。私も乗せてっ。」
「これ二人乗りだからなぁ。エムもう一台持って来いよ。さっきロブから電話があって、もうすぐこっちに着くってよ。久々に競争しようぜ。」
「ああそうか。今年は家でクリスマスディナーを食べる順番だったね。リサ姉さんも来るんでしょ。赤ちゃん楽しみだなぁ。」
「ああ車は二台って言ってたからたぶんな。」
デボン公爵家とうちは昔から仲がいい。
うちの父様は大学時代からアル兄さまが生まれた頃までスキーの選手だった。
州の代表で国体にも出ていたそうだ。
ロブの父親のデボン公爵であるジャックおじさまは、その大学のスキー部の先輩だったらしい。
父様が同じ大学に入った事を知ったジャックおじさまが父様をスキー部に勧誘したのだと聞いたことがある。
家も近いので結婚してからも付き合いは続いていて、クリスマスイブはずっとどっちかの家でディナーを食べている。
今年はお嫁に行ったロブの姉のリサ姉さん家族が加わるので賑やかになりそうだ。
それぞれの親戚とは明日のクリスマスに集まる予定になっている。
そんなことを話しているうちに、車寄せの方にロブたちがやって来たのが見えた。
エミリーは帽子の雪を払ってから急いで出迎えに行く。
「いらっしゃい!」
「うわー、びっくりした。どこから来るんだよ。雪まみれじゃないか。」
「デビ兄に雪玉をぶつけられたんだもん。ロブ、早く着替えて! ソリ競争を挑まれたの。」
私達が話していると、赤ちゃんを抱いたリサ姉さんがくすくす笑いながら車から出て来た。
「もうあなた達ったら、ジュニア・ハイに入ってもちっとも変わらないのね。」
「リサ姉さん、ハーイ。メリークリスマス! その子がジャクリーン?」
「メリークリスマス、エミリー。そう新顔よ。ヨロシクね。」
「かわいー。エミリーお姉ちゃんでちゅよ、よろしくねー。さぁ、赤ちゃんが風邪をひいちゃうから早く入って。母様たちも待ってるから。今年は凄い話題もあるの。」
「えっ、なになに?」
「ブリーに聞いてよ。のけ反りものの話だよ。」
デボン公爵家ご一行を客間に案内する。
賑やかな挨拶のやり取りの中で、母様を捕まえてデビ兄の小さい頃のスキー服がどこにあるのか聞くと、すぐに答えてくれた。
「それはたぶんロブが使うと思って、ロブがいつも泊まっている部屋のタンスに仕舞っといたわ。」
さすが母様。
エミリーはロブをせかして2階に上がった。
2階は殆ど客間だが、ロブたちはよく来るので大階段に近い部屋をいつも使っている。
部屋に入ってタンスの引き出しを開けてみると、一番下の引き出しにデビ兄が去年着ていたスキー服があった。
「これか…。これロブには大きすぎない?」
「まあ着てみるよ。」
………………。
「エム、部屋を出てて。」
「なんで? いっつも一緒に着替えてたじゃない。」
「何でって…僕たち一応ジュニア・ハイに入ったんだし。」
「もうっ、めんどくさいなぁ。早くしてよっ、ロビーー。」
「ロビーって言うなっ!」
仕方がないので部屋の外に出て、階段の一番上に腰かけてロブが着替えるのを待つ。
ドアが開いて着替えたロブが側に来たので見上げると、あれっ?おかしなことにあんまり服の生地が余っていない。
こちらが見上げているからか、ロブがいやに大きく見える。
「あれ? ロブ、大きくなった?」
立って側にくっついてみたら、私よりも背が高くなっていた。
「えーーーっ、いつの間にこんなに大きくなったのよ。こないだまで私より低かったくせにー。」
「いつの話だよ。半年前から背はエムを抜かしてた。」
「嘘だぁ。」
「エムが気づいてなかっただけだよ。ホントに自分に興味のないことは何にも考えようとしないんだからー。」
そうだっけ?
「まっいいや。それより早く行こう。ソリの調子を整えないと。アル兄さまたちに負けちゃう。」
負けた。
3回も続けて負けた。
悔しー!
あっちは年寄りのくせに。
それに私達よりも体重が重いくせに。
何で勝てないんだろう?
「ロブっ、何とかしてー。何か勝てる方法はないの?」
「僕の方が前に座るよ。重心が前にあった方がスピードが出ると思う。勝てなかったと言っても僅差だからね。それにエムも僕にぴったりくっつけよ。重さが分散しないほうがバランスが取れるから。」
デビ兄のドヤ顔を凹ましてやるためならなんだってするよ。
四人で坂の上に戻って仕切り直しだ。
「何度やっても無駄だよ。こっちは経験と技術が違うんだから。」
「今度はロブ先生の工夫があるんだから! 負けてほえ面かくなよ!」
アル兄さまとロブはやれやれといった顔をしているが、今度は絶対に負けないんだから!
ソリには先にロブに座ってもらった。
エミリーは両足でロブを挟むようにして後ろからロブにギュッと抱きつく。
あれ?こんなに背中が広かったっけ?
やっぱりロブってちょっと大きくなったんだ。
なんだか匂いも違うような気がする。
エミリーはロブの首筋に鼻を押し付けて、くんかくんか匂いを嗅いだ。
「エム、冷たい! …それにくっつき過ぎだよ。」
「ごめん。だってロブがくっつけって言ったじゃない。」
「いや…もうちょっと程々っていうか……。」
「お前ら何やってるんだよ! いいかっ行くぞっ! 3・2・1・GO!」
ソリが雪に乗るジュッという音がしたかと思うと、耳や頬の横を冷たい風がビュンビュン音を立てて過ぎ去っていく。
後ろに乗っているので風が顔にあたることはない。
代わりに頬をあてていたロブの背中から微かな温もりが伝わってくる。
「やったっ!!」と叫ぶロブの声と「くそっ!」と言うデビ兄の声が時間差で聞こえて来た。
「勝ったの?!」と言いながらエミリーもソリから飛び降りる。
「うん。」
満面の笑みで頷くロブを正面からじっくりと見てみると、よく知っている顔なのに全然違う顔であるようなおかしな気がした。
昼過ぎ頃から雪がやんでいたので今夜中にはアイルランドに帰れるだろう。
エミリーたちが思っていたよりも遅く、ブリーが駅から戻ってきた。
キャスとエミリーは女の子部屋の居間で、ブリーの帰りを今か今かと待っていたので、ブリーがドアを開けて入って来るやいなや両側からブリーの腕を取ってソファに連行した。
「なによ。何の真似?」
「私たちに黙ったまま、こういうことになったんだから、これから全部吐いてもらうわよ。」
「そうそうキャスにまで黙ってたなんて、信じられない!」
有無を言わせずにブリーを座らせて、私たちもブリーを挟んで座る。
「さあ、教えて。本当にあのキャンベルっていう人と結婚するつもり?」
「ブリーってば、いつも伯爵以上じゃないと結婚しないって言ってたじゃない。」
「待って待って、二人とも。わかった。話すわよ。話せばいいんでしょ。」
「まずは、ガブリエルと結婚するかよね。さっきも言ったけど。するわ。するに決まってるじゃない。」
「だって、ブリーは…。」
「そう。エムが言っていた通り、伯爵位以上の人を望んでたわ。出来たらどこかの王子様が現れないかと思っていましたとも。それもつい最近までね。でもね、ガブリエル、ガビーと知り合って心の芯からくつろいでいる自分に気が付いたのよ。自分が何も飾らずに家族といる時のように安心しているのがわかった時の衝撃ときたら半端なかったわ。…恋とか愛って、もっとファンファーレが鳴るみたいに訪れるものだと思ってたの。二人の目の前に雷が落ちてフォールインラブって感じにね。でも…違った。なんか知らない間に側にいたっていうか、寄り添ったり寄りかかったりしてた感じなの。あれっこの人は私にとって大事な人なのかもしれないと気づき始めた時に、おじい様から電話があったの。」
「ああ、男爵の嫡男ね。」
「そう。それまでは、結婚がゴールのように思ってた。だからできるだけ条件のいい人を選ぼうと思ってたわ。そのために自分を磨いて努力もした。けどね、おじい様がお相手の条件を次々に並べて下さっているのに、全然ときめかなかった。結婚したその先の生活をその男爵の息子と送っている想像が出来なかった。ガビーとの生活の方が想像できた。いえ、ガビー以外の人とは嫌だと思ったの。それがわかったら早かったわ。あの人あんな人でしょ。彼が私にプロポーズをするのを待ってたら、私はおばあさんになっちゃうわ。こっちからさっさとしたの、プロポーズ。彼、ギョッとしてたけどね。お見合い話があるって言ったら、腹をくくったみたい。」
…ブリーらしい。
なるほどね。
そういうことだったのか。
これは父様たちに援護射撃が必要ね。
そう思ってキャスを見ると、キャスもわかってると笑って頷いた。
◇◇◇
翌朝のクリスマスイブの日は、この季節には珍しくぴかぴかに晴れていた。
庭の木々もこんもりと綿帽子をかぶって朝の光を浴びながら静かに立っている。
「うーーん。いい天気。こんな日は外を眺めてるだけでうれしくなっちゃうな。」
家族揃ってゆっくり食べる朝ごはんも良かった。
アル兄さまの笑えない冗談も笑えるし、デビ兄のからかいにもニコニコとやり返すことが出来る。
キャスと母様はブリーの話を聞いているし、父様はそんな皆を眺めて満足そうな顔をしている。
家族っていいな。
そう思える家族を持ててよかった。
エミリーはおきぬさんの言ってたことを思い出した。
私もいくつか前の前世では家族に恵まれなかったんだ。
今生の生では家族を大切にしよう。
そう改めて思ったイブの朝だった。
朝食の後、部屋に帰ってキラキラと眩しい窓の外を見ていると、これは雪の上に足跡をつけに行くべきだなと思った。
新雪の上に自分だけの足跡をつける満足感。
これに勝る喜びはない。
ふっふっふ。
キャスやブリーが話をしているうちに外に行こう!
決めると直ぐに、雪の中を歩く時用のスキーズボンをはいてお気に入りの青いキャップをかぶりマフラーをぐるぐると首に巻くとダウンジャケットを着て裏口から庭に飛び出した。
裏口の周りはジボアの仕業だろう雪が踏み固められていたが、広い庭の芝生の上に積もった雪はまだ真っ新のバージンスノウだった。
「うわーーーーっ。綺麗。」
ぽすっぽすっと歩いて行く、面白ーい。
庭木の陰に来ると雪の表面が太陽の熱で溶けていないので、触るとサラサラする。
両手に雪をすくって晴れた空に放り上げると、粉雪がキラキラと輝きながら落ちてくる。
何度も放り投げて遊んでいると、デビ兄がやって来た。
「いいことしてるじゃん。」と言うが早いか、雪玉を投げつけてくる。
「やったわねーー。」
エミリーはすぐさま日のあたるところへ飛び出て雪玉を一掴みでこしらえると、デビ兄に応戦した。
キャーキャー言いながら雪合戦をしていると、今度はアル兄さまがやって来た。
「デビッド! あったぞー。」
何があったの?
手を止めて見ると、アル兄さまは昔よく遊んでいたソリを引っ張ってきていた。
「あっ、いーなぁ。私も乗せてっ。」
「これ二人乗りだからなぁ。エムもう一台持って来いよ。さっきロブから電話があって、もうすぐこっちに着くってよ。久々に競争しようぜ。」
「ああそうか。今年は家でクリスマスディナーを食べる順番だったね。リサ姉さんも来るんでしょ。赤ちゃん楽しみだなぁ。」
「ああ車は二台って言ってたからたぶんな。」
デボン公爵家とうちは昔から仲がいい。
うちの父様は大学時代からアル兄さまが生まれた頃までスキーの選手だった。
州の代表で国体にも出ていたそうだ。
ロブの父親のデボン公爵であるジャックおじさまは、その大学のスキー部の先輩だったらしい。
父様が同じ大学に入った事を知ったジャックおじさまが父様をスキー部に勧誘したのだと聞いたことがある。
家も近いので結婚してからも付き合いは続いていて、クリスマスイブはずっとどっちかの家でディナーを食べている。
今年はお嫁に行ったロブの姉のリサ姉さん家族が加わるので賑やかになりそうだ。
それぞれの親戚とは明日のクリスマスに集まる予定になっている。
そんなことを話しているうちに、車寄せの方にロブたちがやって来たのが見えた。
エミリーは帽子の雪を払ってから急いで出迎えに行く。
「いらっしゃい!」
「うわー、びっくりした。どこから来るんだよ。雪まみれじゃないか。」
「デビ兄に雪玉をぶつけられたんだもん。ロブ、早く着替えて! ソリ競争を挑まれたの。」
私達が話していると、赤ちゃんを抱いたリサ姉さんがくすくす笑いながら車から出て来た。
「もうあなた達ったら、ジュニア・ハイに入ってもちっとも変わらないのね。」
「リサ姉さん、ハーイ。メリークリスマス! その子がジャクリーン?」
「メリークリスマス、エミリー。そう新顔よ。ヨロシクね。」
「かわいー。エミリーお姉ちゃんでちゅよ、よろしくねー。さぁ、赤ちゃんが風邪をひいちゃうから早く入って。母様たちも待ってるから。今年は凄い話題もあるの。」
「えっ、なになに?」
「ブリーに聞いてよ。のけ反りものの話だよ。」
デボン公爵家ご一行を客間に案内する。
賑やかな挨拶のやり取りの中で、母様を捕まえてデビ兄の小さい頃のスキー服がどこにあるのか聞くと、すぐに答えてくれた。
「それはたぶんロブが使うと思って、ロブがいつも泊まっている部屋のタンスに仕舞っといたわ。」
さすが母様。
エミリーはロブをせかして2階に上がった。
2階は殆ど客間だが、ロブたちはよく来るので大階段に近い部屋をいつも使っている。
部屋に入ってタンスの引き出しを開けてみると、一番下の引き出しにデビ兄が去年着ていたスキー服があった。
「これか…。これロブには大きすぎない?」
「まあ着てみるよ。」
………………。
「エム、部屋を出てて。」
「なんで? いっつも一緒に着替えてたじゃない。」
「何でって…僕たち一応ジュニア・ハイに入ったんだし。」
「もうっ、めんどくさいなぁ。早くしてよっ、ロビーー。」
「ロビーって言うなっ!」
仕方がないので部屋の外に出て、階段の一番上に腰かけてロブが着替えるのを待つ。
ドアが開いて着替えたロブが側に来たので見上げると、あれっ?おかしなことにあんまり服の生地が余っていない。
こちらが見上げているからか、ロブがいやに大きく見える。
「あれ? ロブ、大きくなった?」
立って側にくっついてみたら、私よりも背が高くなっていた。
「えーーーっ、いつの間にこんなに大きくなったのよ。こないだまで私より低かったくせにー。」
「いつの話だよ。半年前から背はエムを抜かしてた。」
「嘘だぁ。」
「エムが気づいてなかっただけだよ。ホントに自分に興味のないことは何にも考えようとしないんだからー。」
そうだっけ?
「まっいいや。それより早く行こう。ソリの調子を整えないと。アル兄さまたちに負けちゃう。」
負けた。
3回も続けて負けた。
悔しー!
あっちは年寄りのくせに。
それに私達よりも体重が重いくせに。
何で勝てないんだろう?
「ロブっ、何とかしてー。何か勝てる方法はないの?」
「僕の方が前に座るよ。重心が前にあった方がスピードが出ると思う。勝てなかったと言っても僅差だからね。それにエムも僕にぴったりくっつけよ。重さが分散しないほうがバランスが取れるから。」
デビ兄のドヤ顔を凹ましてやるためならなんだってするよ。
四人で坂の上に戻って仕切り直しだ。
「何度やっても無駄だよ。こっちは経験と技術が違うんだから。」
「今度はロブ先生の工夫があるんだから! 負けてほえ面かくなよ!」
アル兄さまとロブはやれやれといった顔をしているが、今度は絶対に負けないんだから!
ソリには先にロブに座ってもらった。
エミリーは両足でロブを挟むようにして後ろからロブにギュッと抱きつく。
あれ?こんなに背中が広かったっけ?
やっぱりロブってちょっと大きくなったんだ。
なんだか匂いも違うような気がする。
エミリーはロブの首筋に鼻を押し付けて、くんかくんか匂いを嗅いだ。
「エム、冷たい! …それにくっつき過ぎだよ。」
「ごめん。だってロブがくっつけって言ったじゃない。」
「いや…もうちょっと程々っていうか……。」
「お前ら何やってるんだよ! いいかっ行くぞっ! 3・2・1・GO!」
ソリが雪に乗るジュッという音がしたかと思うと、耳や頬の横を冷たい風がビュンビュン音を立てて過ぎ去っていく。
後ろに乗っているので風が顔にあたることはない。
代わりに頬をあてていたロブの背中から微かな温もりが伝わってくる。
「やったっ!!」と叫ぶロブの声と「くそっ!」と言うデビ兄の声が時間差で聞こえて来た。
「勝ったの?!」と言いながらエミリーもソリから飛び降りる。
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満面の笑みで頷くロブを正面からじっくりと見てみると、よく知っている顔なのに全然違う顔であるようなおかしな気がした。
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