サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー

エミリーの思惑

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 エミリーはそり遊びの後で、ロブとキャサリンを図書室に呼んだ。

キャスはブリーやリサ姉さんたちと話をしていたかったようだが、これもブリーのため。
協力してもらわなければならない。


「エム、なんの相談なの? お客様がいらしてるのに…。」

「あらロブも一応お客様でしょ。いつもいるから忘れがちだけど。それより、ブリーの事よ。父様やアル兄さまが今度のお話で一番懸念しているのは、経済的なことでしょ。」

「…まぁそうね。でも、それこそ私達ではどうしようもないじゃない。なんとかブリーの気持ちを優先して考えてもらえるように朝から父様や母様に頼んでいる所なのよ。エムが外で遊んでいた時にね。」

「ごめん。私もキャスがやってくれてたような方向で、おじい様も巻き込んで圧力をかけていこうと考えてたんだけど、ちょっと他の方法を思いついたのよ。そこで、ロブに聞きたいんだけど…。前にロベルトさん…ロブじゃなくて私の前世のロベルトさんのことよ。そのロベルトさんを研究していた時に、出身地がアイルランドの方って言ってなかったっけ?」

「そうだよ。エムにしてはよく覚えてたね。」

「うん。ブリーが旅行に行った辺りだなって思ったからたまたま覚えてた。」

「…まぁそんなところだろうな。うちの公爵家で持っている領地の中で一番北にあるのがハンニガム候領なんだ。そこは領地としても小さいし、土地の中心にある城の建物も古いから文化財団に管理してもらってる。だから僕もそこにはまだ行ったことがないんだ。この間ロベルトさんの話を聞いて、パラレルワールドであるチキュウとこことの違いを研究してみたいと思ったから、このクリスマス休暇のうちに一度行ってみるつもりだったんだ。」

「それは渡りに船ねっ。私達もその研究旅行に混ぜてよ。」

キャスとロブが、何を急に言い出したのかという顔でエミリーを見る。


「突然どうしたのさ。エムはいつもこういうことはめんどくさーいって言って普段は興味を示さないだろ。」

「そうよ。そのロブの研究旅行とブリーがどう繋がるの?」

「うーん。ロベルトさんに昔の詳しい話を聞いてそれを観光事業に生かせないかなぁと思ったんだけど…。」

「なるほどね。それで宿の売り上げを伸ばすのね。でも、間接的過ぎて対策としては弱くない?」


キャサリンとエミリーの話に、ロブは訳が分からないという顔をしている。

「ちょっと待って、二人とも何の話をしてるの?」

「えっ、ブリーの結婚問題の解決方法について話してるの。」

ロブは目をむいてエミリーとキャサリンを凝視した。

「結婚?! いつそんな話が持ち上がったの? 全然聞いてないよ。」

あっそうか。ロブに言ってなかったね。
すぐにソリ滑りに連れてっちゃったからね。


エミリーはキャサリンと二人で、昨日の顛末をロブに話した。

ロブは驚愕の顔で聞いていたが、一番驚いたのは、ブリーが2日で結婚を決めたことだった。

「ブリーって、本当に決断が速いよね。…一生を左右することでもそこまで即断即決しちゃうんだ。僕には真似できないなぁ。」

ロブは石橋を叩き続けて渡る人だからねぇ。

「しかし、キャスとエムもだよ。昨日の今日でよくここまで行動に起こせるね。」

「えっ、だってブリーの気持ちが一番でしょ。あとは些末な問題じゃない。」

「そうそう。」

「…男と女は違うってことか。いやサマー家独特の感性か?」

ロブはまだぶつぶつ言っている。


「ロブロブ、その考察は後でいいからっ。それでそのハンニガム候領ってどの辺りなの? スクル村って知ってる? 14世紀頃のお城の遺跡があって、いちおう観光地らしいんだけど…。」

「知ってるも何も、そこがうちの領地だよ。」

「「マジ?!」」

キャスと目を見合わす。
これは凄いアドバンテージだ。

「やったっ! ジャックおじさまとおじい様から攻められるわねっ。公爵と伯爵を味方につけたら怖いものなしよ。」

キャスが目を輝かせる。


エミリーも勢い込んで言った。

「ロブの家にお城の詳しい資料がある?」

「あるけど。家にあるのはたいていコピーして向こうの観光案内所に置いてあるよ。」

「そっかぁー。じゃだめだね。やっぱりロベルトさん頼みだね。なんか衝撃的な発見がないかなぁ…。」

「そういうことならあるかもしれないよ。微々たる可能性しかないけどね。なにせ異世界とこっちの歴史が全く同じとは限らないからね。現になつみさんの知っている日本の皇室が住んでいる場所もこっちとは違ってるみたいだし。」

「そうなの? よく知ってるねロブ。」

「…エムの誕生日パーティーの時にそう言ってたじゃないか。」

「ああ、そう言えば京都に住んでるとか言ってたね。日本の首都のキョウトでしょ。

「日本の首都はトウキョウだよ。」

「トウキョウ? よく似てるけど違うの? そう、違うのね。」

「……………。」


「そんなことはどうでもいいの。さっきロブが言った事よ。少ない可能性だけどなにか衝撃的な発見の可能性があるということなの?」

「うん。これもロベルトさんが言ってたじゃないか。…エムは覚えてないだろうけど。フランス国王がアイルランドとイギリスの戦争支援の為に供出した資金だよ。それを運んでいる時にロベルトさんは敵の手に落ちたんだ。ダメだと思った時に宝飾品やお金を入れた箱をばらしていくつかの袋に入れて隠したらしい。もしその中の一つでも見つかれば…。もしパラレルワールドのこっちのロベルトさんも同じ境遇を経験してたら…。なんていう極小の可能性だけどね。」

「そういえばそんな話をしてたわね。全然期待薄だと思ってたから忘れてたけど…。」


 キャスは現実的に見て、この研究旅行の成果は期待できないと思ったようだ。
それより今日と明日で公爵と伯爵を味方につけたほうがいいと判断して、客間に戻っていった。

エミリーはそっちの説得はキャスに任せて、ロブと一緒に観光地の活性化について検討することにする。

お宝を見つける望みは薄いが、旅行に行ってみて改善・改革の余地があればデボン公爵に進言する予定だ。




◇◇◇



 タバサを連れてきて役に立つのだろうか? 

エミリーは旅行の始めから、何度もそのことを考えた。
ロブの家の使用人の話だ。

ロブは最初、従者のカリグを連れてくるつもりだったらしい。

けれどエミリーが同行することになったので、同行者が女性のほうが何かといいだろうとタバサを連れて行くように勧められたらしい。
無論デボン公爵夫人にである。

デボンのおばさまとしては、女性が供もつけずに一人で出歩くのは外聞が悪いと考えているようだ。

いつの時代だよ!と突っ込みたくなるが、デボンのおばさまにはそういう古くさいところがある。

おばさまはオリビアという名前なのだが、名前で直接呼びにくい雰囲気がある。
お高くとまっているとかいうのでは全然ないのだが、保守的と言おうか融通が利かないと言おうかなにかそういう雰囲気があるのだ。

いかにも公爵夫人と言う感じなので、家の兄弟はみんなオリビアおば様ではなく、デボンのおばさまと呼んでいる。


しかしそのさすがの公爵夫人も使用人の一人一人の細かい性格までは把握しきれていないのではないだろうか。
いや、年末の忙しい時にいなくても困らない者をという人選だったのかもしれない。

タバサが使えないのだ。

電車の切符の買い方から始まって、宿屋への連絡の仕方、観光協会との話し合い等々、いちいちロブが細かく指示しないと動けない。

私たち2人だけで行動した方がよっぽど早い。
まあそれこそ10歳の子供2人だけを旅行に出す親はいないが…。


「はぁ…やっぱりカリグを連れてくればよかったよ。あいつは何も言わなくても先を読んで全部段取りを整えてくれるからな。」

ロブはだいぶお疲れのようである。

普段気にしていなかったカリグの優秀さに初めて感謝したと言っていた。

私達は今、キャンベルさんの宿屋に泊まっている。

まずはこの宿の状況確認からだとロブが言い張ったためだ。

ロブにしてもブリーはリサお姉さんと変わらぬ姉のような存在なので、キャンベル家のことが気になっていたのだろう。
エミリーもブリーの話で聞いていた愉快な家族に会って見たかったので異存はなかった。


「明日どうする? タバサを連れていく?」

明日は、ロブと一緒にお城を見に行く予定だ。

「連れていく。いや置いて行っても勝手についてくるだろ。何せ母さまお勧めのお目付け役だからな。」

「だって、ロベルトさんを呼び出すんでしょ。二人同時にしゃべってるとおかしくなったのかと思われるよ。」

「その時は離れていてもらえばいいさ。それよりキャンベルさんたちがいい人たちで良かったな。サマー家の雰囲気と似ているから安心したよ。」

ロブは今日ここに来てキャンベル家の人たちと一緒に昼食を取って話をしたことで安心したらしい。

そうかな、そんなに似てるかな。

いかにも田舎のおかみさんっていう感じの朗らかなお母さん。
口数は少ないけれど目じりのしわが優しそうなお父さん。

それにエミリーも話が合ったので嬉しかったけど、12歳と15歳の妹さんがいる。

そうだな、家族の仲が良くてみんな楽しそうなところは似てるかも…。

みなさん急に決まった長男の結婚話に、驚きながらも快く受け入れてくれていた。
ブリーに会っていたからというのもあるのだろう、子爵家との縁組も少々の畏れはあるようだが、うちの両親ほど戸惑ってはいなかった。


明日は何か新しい発見があるといいけど…。

何でもいいからブリーたちの力になれたらいいな。

そう思いながら、エミリーはお日様の匂いのする布団に潜り込んで眠った。
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