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第三章 次女キャサリンの「王子の夢は誰も知らない」
策略のない披露宴
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サマー子爵邸の庭には、あちこちにテントが建てられていた。
日陰に氷の彫刻がいくつか置かれているのは夏の結婚式らしい演出だが、その周りにぐるりとベンチが置かれていて、日本の団扇が竹の入れ物に入って置かれている。
イギリスで日本風の演出と言えば提灯が定番だが、意外にも明かりの方は電飾だった。
ホワイトとブルーというシンプルな色に統一されている光が、庭の木々を真夏のクリスマスのように輝かせている。
暑さを避けて夕方から始まった披露宴の会場には、林や丘を渡る涼しい風が吹いていた。
リチャードはストランド伯爵の接待を断って、ターゲットである日本の皇太子、滝宮秀次を探した。
滝宮は2人の男性と親しげに話しをしていた。
「失礼、以前お会いしたと思うのですが滝宮様でしょうか。私はリチャード・グラン・ジェネシスです。お話し中のところ申し訳ありません。私も会話に参加させていただけませんか? 出来ればこちらの方々をご紹介いただけたらと思うのですが…。」
「リチャード殿下、ご挨拶も致しませず失礼しました。こちらは今宵の花嫁のお兄様の片岡信也さん。そしてこちらは、花婿の弟君のデビッド・サマーさんです。この夏、日本で一緒に過ごしてからのお仲間なんですよ。」
「お二方ともご親族の方でしたか。本日は、おめでとうございます。」
「「ありがとうございます。」」
「伸也、デビッド、知っているとは思うけど、こちらはイギリスの第一王子リチャード殿下です。」
「よろしくお願いします。」
「殿下…。」
シンヤというものは日本風のお辞儀をして、デビッドは最高礼を返した。
…どうもやりにくい。
しかし知り合いにならないと何も始まらない。
滝宮が双方の親族とこんなに親しいとは思ってもみなかった。
まさかキャサリンを狙っているのではなかろうな?
「何のお話をされていたのですか?」
シンヤとデビッドの目が泳いだが、滝宮はにこやかに説明してくれた。
「花嫁の典子さんはこちらでお店を出される予定なんですよ。日本の手工芸品や食材などを扱われるそうなので私もとても楽しみにしているんです。」
「ほう、それは珍しいお店ですね。どちらに出されるんですか?」
「さぁ、たぶんストランド領の主都市になるのだと思いますけれど…伸也は何か聞いている?」
「…えっと今日の結婚式が済んでから、新婚旅行に行くまでには店の場所を決める予定だと思います。場所を決めておけばノッコ、いえ典子が旅行でいない間でも、在庫をストックしながら開店準備ができますからね。」
「その準備は誰がされるんですか?」
「うちの母親がしばらくこちらに残って手伝う予定です。他にもサマー家の皆さんが手伝ってくださるらしいです。」
シンヤの言うことに、デビッド・サマーも頷いた。
「そうです。私の母も姉妹も手伝いたいと言っていました。」
ということはキャサリンも開店準備を手伝うということか…それは良いことを聞いた。
良い情報を得たが、もう少し滝宮には聞いておきたい。
「宮様は両家と親しいようにお見受けするが、どのようなご縁があったのですか?」
リチャードが尋ねると、3人で顔を見合わせて笑顔になった。
「最初はうちの祖父の所に滝宮さまが滞在されたのがきっかけです。そこで妹が滝宮様のお弁当を作ることになりまして…。」
「お弁当?」
デビッドの話が簡単すぎてよくわからない。
どうしてそういう経緯になったのだろうか?
それに滝宮はアレックスと親しいのではなかったのか?
「妹」と言うことはキャサリンではないのか…。
あの勉強好きのロベルトと婚約した方だな…確かエミリーとかいったな。
「私が日本食を恋しがったのがきっかけですよ。エミリーが知り合いの日本人女性に教えてもらった日本食のランチを作ってくれたんです。」
「ほう。料理の上手な妹さんなんですね。」
リチャードがそう言うと「ええ、まあ…。」と言いながらデビッドは笑いをこらえているようにも見える。
「そのお弁当の食材をキャサリン、姉がロンドンの高校から帰って来る時に買って来てくれまして…。」
なんだって?!
リチャードの頬がピクリとひきつったのが判ったのだろう、滝宮が慌てて付け足した。
「日本の食材はロンドンの店にしか置いてなかったので、ストランド伯爵が気を利かせて頼んでくださったみたいなのです。本当に皆様にお手間を取らせてしまいました。」
「私は宮様は花婿のアレックスと親しいと聞いていたのですが、ご兄弟の皆さんとお付き合いがあったのですね。」
「ええ、良い方ばかりで、皆様と家族のようにお付き合いをさせて頂いています。アレックスとは去年大学で専攻科の講義が重なっていたので、特に親しくさせてもらってます。そのご縁で片岡さんのお家にも伺って、この夏伸也さんとも親しくなりました。」
「通訳としてですけどね。」
シンヤがいたずらっぽく滝宮を見る。
滝宮も笑いを含んだ顔で頷いた。
「通訳?! 日本の皇太子が?」
「そうなんです。友達の為だとはいえ普通、皇太子さまが正体を隠して通訳なんてしませんよね。僕たちはみんなすっかり騙されてて…今日、結婚式で正体がわかった時には腰が抜けるほど驚きましたよ。うちの伯父さんなんか、皇太子さまをあごで使ってたとわかって震えあがってました。」
正体を隠して…なるほど。
シンヤ、滝宮、これは使えるぞっ!
いいことを教えてもらった。
◇◇◇
リチャードが皆の元を離れて、氷の彫刻の前のベンチに腰掛けて、団扇を使いながら涼んでいると、キャサリンが軽食のサンドイッチと飲み物を持って来てくれた。
「ありがとう。嬉しいよ。」
いつものようにすぐに去っていくのかと思っていたら、側に佇んでいる。
「殿下…少しご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
リチャードは素っ気なく「どうぞ。」と言った。
キャサリンは戸惑いつつも、意を決したような顔をしてリチャードの隣に座った。
初めてだ。
初めてキャサリンが私の隣に座ってくれた。
身体中の血が沸き上がって心臓はドクドクと音を立て始めるが、今まで培ってきた王族の精神のすべてを使ってその高揚を押さえつけた。
「兄に…アレックスに聞きました。殿下が私を……私を后に望んでいらっしゃると。」
キャサリンはそれだけのことを言っただけで、力を使い果たしたかのように溜息をつく。
可愛い。
その溜息ごと抱きしめたい。
しかしリチャードは手に力を入れてその衝動を押し留めた。
「アレックスの言う通りだ。それが私の最大の望みだった。」
「…だった?」
「ああ、アレックスの結婚式を見ていて少し気持ちが変化した。私の願いをぶつけることで貴方が不幸になるようでは本末転倒だ。私は貴方に幸せになってもらいたいし、貴方に災厄をもたらす何者からも守りたいと思っているのだからね。」
「…そうなんですか。殿下はどうして私にそこまでの思いを抱いてくださったのでしょう? 何の接点もなかったのに…。」
そうか、こんな基本的なことも話したことがなかったのだね。
高校では常に周りに人がいたし、学年が違ったので一緒にいる時間も少なかった。
私はあの日のことを思い出す。
自然にやわらかな笑みが私の顔に浮かんだ。
「接点はあったよ。私が生徒会長をしていた時だ。貴方は一年団の代表をしていた。」
「ええ。」
「その時の貴方は勇ましかった。上級生をものともせず一年団の総意を堂々と述べて、先輩たちと互角に論じ合っていたね。」
「…そうでしたか? お恥ずかしいかぎりです。」
「そうだったよ。私は感心して見ていた。今年の一年生にはなかなかの強者がいるなと認識を新たにしたのだ。」
「…そんなことで?」
「いや、それだけではない。それからすぐに、ま…メアリー・カンザスの教官室の前にいる貴方を見つけた。古い…ぞうきんのような布を持って部屋のドアを叩こうかどうしようか逡巡していたな。」
それを聞くとキャサリンの顔は真っ赤になった。
「あれを見ておられたのですか…恥ずかしい。魔女のカンザスに言われて、今までに自分で作った事のある手芸品を提出しに行くところだったんです。」
「何を迷っているのだろうとついつい見てしまってね。興味を惹かれて貴方が教官室から出てこられるところまで見てしまった。」
「そうですか…。」
キャサリンはうつむいている。
その時の屈辱を思い出したのかもしれない。
「貴方はぐっと唇を嚙んで目から零れ落ちそうになる涙をこらえていた。先日の勇敢な姿とのギャップにやられたんだろうな。それからの私は貴方が気になって仕方がなかった。ついつい貴方を目で追っている自分に気が付いた時に、これが恋というものかとやっと自覚したよ。自覚した途端に何度も振られたけどね。」
「すみません。」
「気持ちはわかるよ。王子につきまとわれるなんてうっとうしいし、周りの目もあってさぞかし困った事だろう。私も若かったんだ。どうか許してほしい。」
「そんなっ。殿下が謝られることではありません。…ただ、私には殿下のお相手は務まりません。どうか、他の方を探してください。」
「…また振られたね。これは私のライフワークになりそうだな。」
リチャードの言葉に、キャサリンがびっくりして顔を上げる。
「私は貴方以外の人と結婚するつもりはありません。他の人はいないのです。貴方がうんと言って下さらないなら、弟のヘンリーに家督を譲るまでです。私はイギリス国王より貴方に振られ続ける人生の方を選びます。」
「えっ……。」
キャサリンは声をなくしたようだった。
しつこい男でごめん。
でもこれが私の本音だ。
重い、気持ち悪いと思われようと構わない。
キャサリンを諦めるという選択肢は、この身体中のどこにも存在しないのだ。
日陰に氷の彫刻がいくつか置かれているのは夏の結婚式らしい演出だが、その周りにぐるりとベンチが置かれていて、日本の団扇が竹の入れ物に入って置かれている。
イギリスで日本風の演出と言えば提灯が定番だが、意外にも明かりの方は電飾だった。
ホワイトとブルーというシンプルな色に統一されている光が、庭の木々を真夏のクリスマスのように輝かせている。
暑さを避けて夕方から始まった披露宴の会場には、林や丘を渡る涼しい風が吹いていた。
リチャードはストランド伯爵の接待を断って、ターゲットである日本の皇太子、滝宮秀次を探した。
滝宮は2人の男性と親しげに話しをしていた。
「失礼、以前お会いしたと思うのですが滝宮様でしょうか。私はリチャード・グラン・ジェネシスです。お話し中のところ申し訳ありません。私も会話に参加させていただけませんか? 出来ればこちらの方々をご紹介いただけたらと思うのですが…。」
「リチャード殿下、ご挨拶も致しませず失礼しました。こちらは今宵の花嫁のお兄様の片岡信也さん。そしてこちらは、花婿の弟君のデビッド・サマーさんです。この夏、日本で一緒に過ごしてからのお仲間なんですよ。」
「お二方ともご親族の方でしたか。本日は、おめでとうございます。」
「「ありがとうございます。」」
「伸也、デビッド、知っているとは思うけど、こちらはイギリスの第一王子リチャード殿下です。」
「よろしくお願いします。」
「殿下…。」
シンヤというものは日本風のお辞儀をして、デビッドは最高礼を返した。
…どうもやりにくい。
しかし知り合いにならないと何も始まらない。
滝宮が双方の親族とこんなに親しいとは思ってもみなかった。
まさかキャサリンを狙っているのではなかろうな?
「何のお話をされていたのですか?」
シンヤとデビッドの目が泳いだが、滝宮はにこやかに説明してくれた。
「花嫁の典子さんはこちらでお店を出される予定なんですよ。日本の手工芸品や食材などを扱われるそうなので私もとても楽しみにしているんです。」
「ほう、それは珍しいお店ですね。どちらに出されるんですか?」
「さぁ、たぶんストランド領の主都市になるのだと思いますけれど…伸也は何か聞いている?」
「…えっと今日の結婚式が済んでから、新婚旅行に行くまでには店の場所を決める予定だと思います。場所を決めておけばノッコ、いえ典子が旅行でいない間でも、在庫をストックしながら開店準備ができますからね。」
「その準備は誰がされるんですか?」
「うちの母親がしばらくこちらに残って手伝う予定です。他にもサマー家の皆さんが手伝ってくださるらしいです。」
シンヤの言うことに、デビッド・サマーも頷いた。
「そうです。私の母も姉妹も手伝いたいと言っていました。」
ということはキャサリンも開店準備を手伝うということか…それは良いことを聞いた。
良い情報を得たが、もう少し滝宮には聞いておきたい。
「宮様は両家と親しいようにお見受けするが、どのようなご縁があったのですか?」
リチャードが尋ねると、3人で顔を見合わせて笑顔になった。
「最初はうちの祖父の所に滝宮さまが滞在されたのがきっかけです。そこで妹が滝宮様のお弁当を作ることになりまして…。」
「お弁当?」
デビッドの話が簡単すぎてよくわからない。
どうしてそういう経緯になったのだろうか?
それに滝宮はアレックスと親しいのではなかったのか?
「妹」と言うことはキャサリンではないのか…。
あの勉強好きのロベルトと婚約した方だな…確かエミリーとかいったな。
「私が日本食を恋しがったのがきっかけですよ。エミリーが知り合いの日本人女性に教えてもらった日本食のランチを作ってくれたんです。」
「ほう。料理の上手な妹さんなんですね。」
リチャードがそう言うと「ええ、まあ…。」と言いながらデビッドは笑いをこらえているようにも見える。
「そのお弁当の食材をキャサリン、姉がロンドンの高校から帰って来る時に買って来てくれまして…。」
なんだって?!
リチャードの頬がピクリとひきつったのが判ったのだろう、滝宮が慌てて付け足した。
「日本の食材はロンドンの店にしか置いてなかったので、ストランド伯爵が気を利かせて頼んでくださったみたいなのです。本当に皆様にお手間を取らせてしまいました。」
「私は宮様は花婿のアレックスと親しいと聞いていたのですが、ご兄弟の皆さんとお付き合いがあったのですね。」
「ええ、良い方ばかりで、皆様と家族のようにお付き合いをさせて頂いています。アレックスとは去年大学で専攻科の講義が重なっていたので、特に親しくさせてもらってます。そのご縁で片岡さんのお家にも伺って、この夏伸也さんとも親しくなりました。」
「通訳としてですけどね。」
シンヤがいたずらっぽく滝宮を見る。
滝宮も笑いを含んだ顔で頷いた。
「通訳?! 日本の皇太子が?」
「そうなんです。友達の為だとはいえ普通、皇太子さまが正体を隠して通訳なんてしませんよね。僕たちはみんなすっかり騙されてて…今日、結婚式で正体がわかった時には腰が抜けるほど驚きましたよ。うちの伯父さんなんか、皇太子さまをあごで使ってたとわかって震えあがってました。」
正体を隠して…なるほど。
シンヤ、滝宮、これは使えるぞっ!
いいことを教えてもらった。
◇◇◇
リチャードが皆の元を離れて、氷の彫刻の前のベンチに腰掛けて、団扇を使いながら涼んでいると、キャサリンが軽食のサンドイッチと飲み物を持って来てくれた。
「ありがとう。嬉しいよ。」
いつものようにすぐに去っていくのかと思っていたら、側に佇んでいる。
「殿下…少しご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
リチャードは素っ気なく「どうぞ。」と言った。
キャサリンは戸惑いつつも、意を決したような顔をしてリチャードの隣に座った。
初めてだ。
初めてキャサリンが私の隣に座ってくれた。
身体中の血が沸き上がって心臓はドクドクと音を立て始めるが、今まで培ってきた王族の精神のすべてを使ってその高揚を押さえつけた。
「兄に…アレックスに聞きました。殿下が私を……私を后に望んでいらっしゃると。」
キャサリンはそれだけのことを言っただけで、力を使い果たしたかのように溜息をつく。
可愛い。
その溜息ごと抱きしめたい。
しかしリチャードは手に力を入れてその衝動を押し留めた。
「アレックスの言う通りだ。それが私の最大の望みだった。」
「…だった?」
「ああ、アレックスの結婚式を見ていて少し気持ちが変化した。私の願いをぶつけることで貴方が不幸になるようでは本末転倒だ。私は貴方に幸せになってもらいたいし、貴方に災厄をもたらす何者からも守りたいと思っているのだからね。」
「…そうなんですか。殿下はどうして私にそこまでの思いを抱いてくださったのでしょう? 何の接点もなかったのに…。」
そうか、こんな基本的なことも話したことがなかったのだね。
高校では常に周りに人がいたし、学年が違ったので一緒にいる時間も少なかった。
私はあの日のことを思い出す。
自然にやわらかな笑みが私の顔に浮かんだ。
「接点はあったよ。私が生徒会長をしていた時だ。貴方は一年団の代表をしていた。」
「ええ。」
「その時の貴方は勇ましかった。上級生をものともせず一年団の総意を堂々と述べて、先輩たちと互角に論じ合っていたね。」
「…そうでしたか? お恥ずかしいかぎりです。」
「そうだったよ。私は感心して見ていた。今年の一年生にはなかなかの強者がいるなと認識を新たにしたのだ。」
「…そんなことで?」
「いや、それだけではない。それからすぐに、ま…メアリー・カンザスの教官室の前にいる貴方を見つけた。古い…ぞうきんのような布を持って部屋のドアを叩こうかどうしようか逡巡していたな。」
それを聞くとキャサリンの顔は真っ赤になった。
「あれを見ておられたのですか…恥ずかしい。魔女のカンザスに言われて、今までに自分で作った事のある手芸品を提出しに行くところだったんです。」
「何を迷っているのだろうとついつい見てしまってね。興味を惹かれて貴方が教官室から出てこられるところまで見てしまった。」
「そうですか…。」
キャサリンはうつむいている。
その時の屈辱を思い出したのかもしれない。
「貴方はぐっと唇を嚙んで目から零れ落ちそうになる涙をこらえていた。先日の勇敢な姿とのギャップにやられたんだろうな。それからの私は貴方が気になって仕方がなかった。ついつい貴方を目で追っている自分に気が付いた時に、これが恋というものかとやっと自覚したよ。自覚した途端に何度も振られたけどね。」
「すみません。」
「気持ちはわかるよ。王子につきまとわれるなんてうっとうしいし、周りの目もあってさぞかし困った事だろう。私も若かったんだ。どうか許してほしい。」
「そんなっ。殿下が謝られることではありません。…ただ、私には殿下のお相手は務まりません。どうか、他の方を探してください。」
「…また振られたね。これは私のライフワークになりそうだな。」
リチャードの言葉に、キャサリンがびっくりして顔を上げる。
「私は貴方以外の人と結婚するつもりはありません。他の人はいないのです。貴方がうんと言って下さらないなら、弟のヘンリーに家督を譲るまでです。私はイギリス国王より貴方に振られ続ける人生の方を選びます。」
「えっ……。」
キャサリンは声をなくしたようだった。
しつこい男でごめん。
でもこれが私の本音だ。
重い、気持ち悪いと思われようと構わない。
キャサリンを諦めるという選択肢は、この身体中のどこにも存在しないのだ。
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