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第三章 次女キャサリンの「王子の夢は誰も知らない」
国家機密が始動する
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従者のトンプソンに機密保持を理由に、リチャードが一人で外出できる時間を作ってもらうことにする。
この活動は何よりも優先だと伝えてある。
実際にそうなのだ。
キャサリンへのアプローチは最優先事項である。
トンプソンから、出かけるにしてもボティガードを5人は付けさせて欲しいと言われたが、それを交渉して2人までに減らした。
何人もの人間にウロウロされてはかえって怪しまれるではないか。
そのボディガードも長年の付き合いで口も堅いハーロウとホルコムを指名した。この2人ならリチャードが考えた芝居にも対応できるだろうという目論見もあった。
まずは商品を用意しないことには話が進まない。
いろいろと悩んだ末に、片岡典子の店に売り込みをかけるのに一番良いのは植物ではないかと考えた。植物は輸入規制も厳しく船便などでは枯れてしまう。
幸い大英植物園から株分けした日本が原種の植物を、リチャードは数多く所持している。まずは店のインテリアとして、観葉植物の鉢を置いてもらえないかアプローチをかけてみよう。
そう、先日の披露宴での情報収集からリチャードが導き出した計画は、変装した状態で新しくできる店に深く関わりながら、キャサリンの家族や親族と親しくなるという作戦だ。
キャサリンにはもしかしてリチャードではないかと疑われてもよいのだ。
あくまで別人だと言い張れば、疑いつつも放っておいてくれるだろう。
サマー家の結婚披露パーティーでキャサリンと話してみてわかった。
私達には会話が足りない。
王族というワクを取り外した、リチャード個人を知って欲しい。
今までこういう衝動を他人に対して覚えたことが無いので、人が見たままの取り澄ました王子を演じて来た。
しかし、リチャードの内面は見た目とは程遠い。
本当は内気で言葉数も少なく、趣味は木工・手芸・料理など手作り全般だ。
編み物も縫物も得意だ。
今は大学の専攻に選んだ園芸にも凝っている。
人前に立つのは嫌いで屋敷で一日中過ごすのが好きだ。
引きこもれと言われれば喜んでそうする。
だから王子という職業?はあまり好きではない。
自分の正反対の人物を常に他人に求められることになるからだ。
子どもの頃から擬態しているので、今ではすっかりリチャード第一王子の仮面を被るのが上手くなってはいるが…。
従者のトンプソンと乳母のアマリーだけは、かなり詳しくリチャードの実態を把握している。
アマリーには手芸用品や食材の調達を頼んだりして、今でも身の回りの世話を任せているし、屋敷の召使を束ねるチーフもしてもらっている。
彼女がいなければ、リチャードはストレスで性格破たんを起こすだろう。
実生活では実の母親よりも身近な存在だ。
トンプソンはリチャードが小学校に上がる頃から、教育係と公務の事務処理をしてくれている。
所謂右腕であり、指導者であり、父親だ。
彼に任せておけば、弟のヘンリーに出来る仕事はそちらにまわして、外出時間を捻出してくれると信じている。
◇◇◇
「これはよい位置に空き店舗があったものだな。」
「はい。ただ空き店舗というわけではなかったみたいです。ここの店主が病気になって長年営んできた雑貨屋を閉める相談をしていた時に、ストランド伯爵が店舗を探しているという噂を聞いて、こちらの家族から申し出たそうです。本来はもっとサマー領に近い場所を検討されていたとか…。店主の家族は好条件で他の土地に移れることになったし、ストランド伯爵側も決め手に欠ける店舗よりはこちらの店の方がよいと、即座に商談がまとまったと聞きました。」
ハーロウが調査結果を教えてくれる。
本当に良い条件の店だ。
ストランド伯爵邸からも近く、大型ショッピングモールの客も取り込める位置にある。
店の外側も最近改装されたのか洒落た外観だ。柔らかなベージュを地に濃い茶色でアクセントが付いているナチュラルテイストのデザインだ。
内装を和風にするとシックな和風モダンの店になるだろう。
「ごめんください。先程お電話差し上げたジェンキンスですが。」
「はーい。ちょっとお待ちください。ではスミスさん、娘が帰ります。すると連絡します。」
作業服を着た1人の男が、リチャードとハーロウの横を通って店の外に出て行った。
その男の後に続いて、奥から片岡典子の母親と思われる女性が出て来た。
「お待たせしました。お話の前に、私は英語が上手ではないのです。短文でゆっくり話してください。オッケー?」
「オッケー。僕はリカルド・ジェンキンスです。こちらは助手です。彼の名前はハーロウです。今日は植物を紹介します。インテリアに使えます。値段は50%オフになります。オッケー?」
「オッケー。でもね、さっきの人内装工事の人です。しかし彼の仕事遅い。『あれ? この表現で合ってるかしら? えーと、契約工期に着手できなくなったってどう言うの?』」
『日本語で話しましょうか?』
『まぁ、あなた日本語がおできになるのね。』
「はい。少しですが…。」
『では英語と日本語の両方で話しましょう。2人ともわからなかったら、辞書を引きましょう。ふふっ。』
彼女は日本語で話せるのが、よほど嬉しいようだ。
ほっと肩の力が抜けた感じで、一気にリチャード(リカルド・ジェンキンス)に親しみを見せてくれている。
「私は片岡泉といいます。ここの店主の母親です。『さっきの人、内装工事ができなくなったんだって。違う業者に頼むか、半年遅れでもこちらに任せてくれるか考えて欲しいって言ってきたのよ。無責任でしょ。』私は残念です。」
これはチャンスだぞっ。
リチャードはハーロウと顔を合わせてニンマリと微笑んだ。
「私達に任せて下さい。その仕事、私達ができます。」
「まぁ、本当?」
「ええ。手仕事はなんでも得意です。やってみます。『その仕事を見て、続けてもよいか判断してください。』」
『んー、そうね。できたら10月中には開店したいのよ。クリスマスの需要に合わせてね。』
『ジュヨウ?』
「クリスマスプレゼントの買い物よ。」
「ああ、わかりました。充分な期間です。『内装のデザインはありますか?』」
「まだなの。『日本風な感じにしたいんだけどね。』」
「『では、今日の午後採寸に来ます。そして、こちらのコーディネーターに提案させます。それを見て決めて下さい。』私はコーディネーターと一緒に3日後にまた来ます。」
「まぁ、助かります。『日本語も通じるし、良い提案だったら貴方にお任せしたいわ。』」
親英国の日常会話を覚えさせられた王族教育に今ほど感謝をしたことはない。
ハーロウに頼んで、すぐに動けるインテリアコーディネーターと内装業者を手配してもらった。
大勢の手が必要な所を短期間で工事してもらい、その後をリチャードとハーロウでゆっくりと仕上げていくつもりだ。
もう1人のエージェントのホルコムは大工仕事がいまいちなので外の護衛に徹してもらうとして、ここはハーロウに頑張ってもらうしかないな。
この活動は何よりも優先だと伝えてある。
実際にそうなのだ。
キャサリンへのアプローチは最優先事項である。
トンプソンから、出かけるにしてもボティガードを5人は付けさせて欲しいと言われたが、それを交渉して2人までに減らした。
何人もの人間にウロウロされてはかえって怪しまれるではないか。
そのボディガードも長年の付き合いで口も堅いハーロウとホルコムを指名した。この2人ならリチャードが考えた芝居にも対応できるだろうという目論見もあった。
まずは商品を用意しないことには話が進まない。
いろいろと悩んだ末に、片岡典子の店に売り込みをかけるのに一番良いのは植物ではないかと考えた。植物は輸入規制も厳しく船便などでは枯れてしまう。
幸い大英植物園から株分けした日本が原種の植物を、リチャードは数多く所持している。まずは店のインテリアとして、観葉植物の鉢を置いてもらえないかアプローチをかけてみよう。
そう、先日の披露宴での情報収集からリチャードが導き出した計画は、変装した状態で新しくできる店に深く関わりながら、キャサリンの家族や親族と親しくなるという作戦だ。
キャサリンにはもしかしてリチャードではないかと疑われてもよいのだ。
あくまで別人だと言い張れば、疑いつつも放っておいてくれるだろう。
サマー家の結婚披露パーティーでキャサリンと話してみてわかった。
私達には会話が足りない。
王族というワクを取り外した、リチャード個人を知って欲しい。
今までこういう衝動を他人に対して覚えたことが無いので、人が見たままの取り澄ました王子を演じて来た。
しかし、リチャードの内面は見た目とは程遠い。
本当は内気で言葉数も少なく、趣味は木工・手芸・料理など手作り全般だ。
編み物も縫物も得意だ。
今は大学の専攻に選んだ園芸にも凝っている。
人前に立つのは嫌いで屋敷で一日中過ごすのが好きだ。
引きこもれと言われれば喜んでそうする。
だから王子という職業?はあまり好きではない。
自分の正反対の人物を常に他人に求められることになるからだ。
子どもの頃から擬態しているので、今ではすっかりリチャード第一王子の仮面を被るのが上手くなってはいるが…。
従者のトンプソンと乳母のアマリーだけは、かなり詳しくリチャードの実態を把握している。
アマリーには手芸用品や食材の調達を頼んだりして、今でも身の回りの世話を任せているし、屋敷の召使を束ねるチーフもしてもらっている。
彼女がいなければ、リチャードはストレスで性格破たんを起こすだろう。
実生活では実の母親よりも身近な存在だ。
トンプソンはリチャードが小学校に上がる頃から、教育係と公務の事務処理をしてくれている。
所謂右腕であり、指導者であり、父親だ。
彼に任せておけば、弟のヘンリーに出来る仕事はそちらにまわして、外出時間を捻出してくれると信じている。
◇◇◇
「これはよい位置に空き店舗があったものだな。」
「はい。ただ空き店舗というわけではなかったみたいです。ここの店主が病気になって長年営んできた雑貨屋を閉める相談をしていた時に、ストランド伯爵が店舗を探しているという噂を聞いて、こちらの家族から申し出たそうです。本来はもっとサマー領に近い場所を検討されていたとか…。店主の家族は好条件で他の土地に移れることになったし、ストランド伯爵側も決め手に欠ける店舗よりはこちらの店の方がよいと、即座に商談がまとまったと聞きました。」
ハーロウが調査結果を教えてくれる。
本当に良い条件の店だ。
ストランド伯爵邸からも近く、大型ショッピングモールの客も取り込める位置にある。
店の外側も最近改装されたのか洒落た外観だ。柔らかなベージュを地に濃い茶色でアクセントが付いているナチュラルテイストのデザインだ。
内装を和風にするとシックな和風モダンの店になるだろう。
「ごめんください。先程お電話差し上げたジェンキンスですが。」
「はーい。ちょっとお待ちください。ではスミスさん、娘が帰ります。すると連絡します。」
作業服を着た1人の男が、リチャードとハーロウの横を通って店の外に出て行った。
その男の後に続いて、奥から片岡典子の母親と思われる女性が出て来た。
「お待たせしました。お話の前に、私は英語が上手ではないのです。短文でゆっくり話してください。オッケー?」
「オッケー。僕はリカルド・ジェンキンスです。こちらは助手です。彼の名前はハーロウです。今日は植物を紹介します。インテリアに使えます。値段は50%オフになります。オッケー?」
「オッケー。でもね、さっきの人内装工事の人です。しかし彼の仕事遅い。『あれ? この表現で合ってるかしら? えーと、契約工期に着手できなくなったってどう言うの?』」
『日本語で話しましょうか?』
『まぁ、あなた日本語がおできになるのね。』
「はい。少しですが…。」
『では英語と日本語の両方で話しましょう。2人ともわからなかったら、辞書を引きましょう。ふふっ。』
彼女は日本語で話せるのが、よほど嬉しいようだ。
ほっと肩の力が抜けた感じで、一気にリチャード(リカルド・ジェンキンス)に親しみを見せてくれている。
「私は片岡泉といいます。ここの店主の母親です。『さっきの人、内装工事ができなくなったんだって。違う業者に頼むか、半年遅れでもこちらに任せてくれるか考えて欲しいって言ってきたのよ。無責任でしょ。』私は残念です。」
これはチャンスだぞっ。
リチャードはハーロウと顔を合わせてニンマリと微笑んだ。
「私達に任せて下さい。その仕事、私達ができます。」
「まぁ、本当?」
「ええ。手仕事はなんでも得意です。やってみます。『その仕事を見て、続けてもよいか判断してください。』」
『んー、そうね。できたら10月中には開店したいのよ。クリスマスの需要に合わせてね。』
『ジュヨウ?』
「クリスマスプレゼントの買い物よ。」
「ああ、わかりました。充分な期間です。『内装のデザインはありますか?』」
「まだなの。『日本風な感じにしたいんだけどね。』」
「『では、今日の午後採寸に来ます。そして、こちらのコーディネーターに提案させます。それを見て決めて下さい。』私はコーディネーターと一緒に3日後にまた来ます。」
「まぁ、助かります。『日本語も通じるし、良い提案だったら貴方にお任せしたいわ。』」
親英国の日常会話を覚えさせられた王族教育に今ほど感謝をしたことはない。
ハーロウに頼んで、すぐに動けるインテリアコーディネーターと内装業者を手配してもらった。
大勢の手が必要な所を短期間で工事してもらい、その後をリチャードとハーロウでゆっくりと仕上げていくつもりだ。
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