サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

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第四章 皇太子滝宮の「伝統を継ぐもの」

後悔先に立たず

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*ヒデ* 

巡りあいの不思議と言う言葉を噛み締めている。

ノッコの退院に伴って忙しさを増しているアレックスに変わって、秀次は亜美の送迎をかって出たのだが、タイミングが悪いというのはこういう状況をいうのだろう。

亜美を店に送り届けた後でしつこく店の中に居座って、亜美がきびきびと働く様を微笑ましく見ていると、お客さんに声をかけられた。

「すみません。この模様で他の色はありませんか?」

その女の人は綺麗な模様の付いたお皿を手にしていた。

「申し訳ありません。私はこちらの者ではありませんので、今、店員を呼びます。」

そう言ってお皿から顔を上げると…そこにはよく見知った顔があった。

「まぁ! ヒデッ!! なんて懐かしいのっ。お元気だったぁ~? 」

「ロザンナ…。」

亜美がこちらを振り返ったのが目の端に映ったが、秀次は声をかけなかった。

いや声はかけられないだろう。
秀次は小説の中で読んだことのある、浮気の現場を見つかった亭主のような、居心地の悪さを感じていた。

きちんと別れている元の彼女。
きちんと振られている今、好きな人。

やましいことは全然ないはずなのにやましく感じる。亜美にどう思われるだろうと心配になる。
おかしなものだ。


ロザンナが「時間があったらお茶でも飲まない?」と誘ってきたので、喜んでその誘いに乗ることにした。

これ以上この店の中で昔のあれこれを言われたら、穴を掘って日本まで逃げ帰りたくなってしまう。

秀次はロザンナを伴って、そそくさと店を後にした。



◇◇◇



*アミ*

 仕事が終わり、ケネスの運転で家に帰ったら、ノッコが帰ってきていた。

「ノッコ、お疲れ様。具合はどう?」

「だいぶ歩けるようになった。でもまだアヒルみたいな歩き方だけどね。」

「クレアは?」

「やっと寝てくれたの。ジャスティンと違ってなかなか寝ないのよ、あの子。」


夕食の時…滝宮様は帰ってこなかった。
まだあの女の人と一緒にいるのかしら?

亜美がノッコとアルさんに今日あったことを話していると、宮様の話になった。
今朝、ロザンナという名前の女の人と店を出て行った話をすると、アルさんは納得した顔をした。

「それでか…。奥歯にものが挟まったような言い方をして、夕食はいらないと言われたが、どうりでね。ロザンナか。」

「ロザンナって誰なの?」

ノッコが亜美の心の声を代弁してくれたかのように、アルさんに尋ねてくれる。

「うーん、もう時効だと思うけどここだけの話にしといてくれよ。大学時代の宮様の恋人だよ。皇室の関係の、ええっと宮内庁っていうんだっけ、そこの人たちに反対されてすぐに別れたんだけどさ、宮様は初恋だったみたいで当時はだいぶ落ち込んでたな。」

「へぇー、あんなにハンサムな人でも恋が実らないのねぇ。」

「そこに行くと私達は幸運だったな、ラブ。」

アレックスとノッコが見つめ合っていたので、亜美は空気になって夕食を食べ続けた。

なんか両方の意味でいたたまれない。


滝宮様は本当に好きだった人と結ばれなかった。

たぶん日本人と結婚しろとでも言われたんだろうなぁ。
だから少し気になる人が見つかったら、ああやって私にしたように就職斡旋のようなアプローチをしているんだろう。

恋心が感じられないのも無理はない。
心はロザンナさんのもとへ置いてきたんだものねぇ。

お気の毒に…。


なにかちょっと勘違いが入っている亜美だった。
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