サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

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第四章 皇太子滝宮の「伝統を継ぐもの」

意外な仲人

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*アミ*

 今日は定休日なので、亜美は久しぶりにゆっくりと朝食を食べた。

ノッコに誘われて庭を一望できるティールームで食後のお茶をした。
クレアは先程まで泣き続けていて疲れてしまったのか、側のベビーラックの中ですやすやと寝ている。

「眠ってたら天使なんだけどねぇ。」

クレアの巻き毛をそっと撫でるノッコは、お母さんの顔をしていた。

なんだか羨ましい。
同級生でも片や二人の子どものお母さん、片やこれから就職先を探そうかという人間。
どうにも出遅れ感が半端ない。

私はこれからどうなるんだろう。
いや、どうするんだ? 亜美。

そういえば滝宮さまから聞いていたノッコの特殊能力について聞くのを忘れてた。
いろいろあったもんなぁ。

「ねぇノッコ、宮様から聞いたんだけど前世が見えるっていう話。私とターチに内緒なんてみずくさいわよ。」

「えっ、聞いたの?! …で、どう思った?」

ノッコがおずおずと聞いてくる。
学生時代のノッコのようだ。身体は大きいのにどこか自信なさげで…。

「どうもこうも思わないわよ。ただ、今までのノッコの言動からそれを聞いて腑に落ちたこともあるな。ほら、図書館でよく席を変えようって言ってたでしょ。あれ、なんか関係があるんじゃないの? その力と。」

「相変わらず鋭いなぁ、亜美は。」

「で、どうなのよ。」

「…たまに前世の人の強い思念波を持っている人がいてね、ああいう静かなところではじわじわと聞こえてくるのよ。『無念じゃ。』とか『あの女、許すまじっ。』とか…。」

「なにそれ。怖いーー。そんなの大変じゃん。」

「でしょう。私、セイシェル女子大の学生のキャピキャピしたとこも苦手だったけど、田舎の人よりそういう思念波を持ってる人が多いのにも困ってたのよ、実は。」

「そうなんだ。力を持つって苦労が多いんだねぇ。」

「うん。苦労も多いけどね。いいこともあった。私とアルって…前世でも3回は結ばれてたみたいだし。そのことがわかってから今の状況をすんなりと受け入れられたの。んー、腹が座ったっていうか、じたばたと逃れようとしなくなった。あの時決心しなかったら、この子達にも会えなかったしね。」

そう言って、ノッコは愛しそうにクレアの顔を見た。

そうなのか、あの時はいやに急にアルさんのことを受け入れたなって思っていたけど、私達には言えなかっただけでノッコはそこを決め手にしてたんだね。

「ねぇ、ノッコ。私、どんな就職先を選べばいいかなぁ。」

「なによ急に。あっ、私に占えって言っても駄目よ。そういう力じゃないんだから。」

「それは判ってるよ。前世が見えるだけなんでしょ。でもノッコ、前に私に言ったことがあるじゃない。地方の教員採用試験を受けるつもりだって言ったら、その県には関わらないほうがいいとかなんとかさ。」

「言ったね…そう言えば。うーん…言ってもいいのかなぁ? 私はこういうアドバイスをするときに必要な教育を受けたことがないから、その人の受け止め方次第だよ。本当に、聞いても大丈夫だと言える?」

「えっ、そんなにおかしな前世なの? 私って。」

「おかしいというよりも、影響力のある人だったのよ。亜美の前世のうちの少なくとも2人は。」

そう言った後でノッコが語った亜美の前世は、驚くべき人生だった。



◇◇◇



*ヒデ*

 朝帰り…というんだろうか?

いや、夜中に帰って来たんだから「朝」ではないよなと自分に言い聞かせる。
やましいこともしていない。

実際、ロザンナはもう結婚していた。
ストランド伯爵領の隣、オールダム男爵領に住んでいたので、自宅に招いてくれてご主人と一緒に歓待してくれたのだ。
学生時代に日本の皇太子とつき合いそうになったとご主人に話したら、ちっとも信じてもらえなかったらしい。それで話の証人に本人がちょうどいいと思ったらしい。強引に連れて行かれてしまった。

こんなに強引な人だったとは…。
若い時とは違って、年齢を経ると女性の好みも変わるのだろうか?


ロザンナのご主人は見た目も中身も太っ腹な人で、ガハガハ笑っていた。

「まさか本当だったとはなっ。あんたがロザンナを諦めてくれたおかげで俺はいい目を見させてもらってるぜっ。ありがとよ!」

そう言って、バンバン背中を叩かれた。

なかなかこういうお付き合いはしたことがなかったので、お宅を辞すタイミングがつかめないで困惑した。
ご不浄に立った時に守屋に携帯電話で助けを求めて、なんとか救出してもらったのだ。


しかし朝食の後で、ノッコと亜美にロザンナのことを喋ったとアレックスに聞かされて、自分が絶体絶命のピンチに立たされているということを知った。

亜美が、秀次の昔の恋人だと思っている女性と、一緒に出かけたまま、夜遅くまで帰ってこない。

あらぬ疑いをかけられてもおかしくない状態だ。

…なんということだ。



◇◇◇



*アミ*

 アレックスとジャスティンが散歩から帰って来たので、亜美は彼らと交代して散歩に行くことにした。

今日は綺麗に晴れているので、庭の緑が夏の太陽に眩しく照らされている。

木陰を求めて林の近くにあったベンチで休んでいると、足音もたてずに大きな影が側にやってきた。
見上げるとケネスだった。

「あのぅスマンこってすが、亜美さん、わしの話をちょいと聞いてもらえませんかね。」

「まぁ、なに? どうぞ座ってお話してくださいな。」

失礼しますと言って大柄なケネスが隣に座った。
ムキムキの筋肉質の身体をしているので、ベンチがケネスの方に傾いたような感じがする。


「あのぅ、本来ならシークレットサービスというものは顧客情報を漏らしてはいかんことになっとるんです。しかし…しかし宮様があまりに不憫でな。なんも悪いことはしてねぇのに誤解されるなんちゅうのは気の毒だ。あの人はええ人なんです。以前、学生の時に世話になったからっちゅうて、わしとマイクを今回もまた指名してくれたんですわ。他のお偉いさんたちとは違って、わしらのことも人間扱いしてくれる変わったお人なんです。そして亜美さんも、わしにジュースをくれた。そういう人ならわしの言う事も聞いてくれるんじゃないかと思ってな…。」

汗をかきかきケネスはそう言うと、昨夜の一部始終を亜美に話してくれた。

「お話しはよくわかりました。でもどうして私にそんなことを話そうと思われたんですか?」
「それは…そのぅ…。亜美さんはわかっとられんかもしれませんが、宮様は本気で亜美さんのことを気に入ってプロポーズをされたんじゃと思います。病院から帰る車の中で、お2人はお似合いじゃった。とても昨日今日の付き合いには見えんかった。…なんというかしっくりきとったんですわ。…どう言ったらいいんか…わしは惜しいと思った。お2人が結ばれんというのは、自然に反することじゃとそう感じたんです。」

そう言ってケネスは大きなため息をついた。
滅多とこういう話をする人ではないのだろう、言葉を選び選び心情を語ってくれた。

「でも、宮様はずっとロザンナさんを思い続けられるのじゃないかしら?」

「それはっ…それはわしにもわかりません。でも、一度本人に確かめてみてください。それから判断しても遅くはねぇと思います。戦でも判断を間違えると、とんでもねぇことになります。余裕がある時には二重三重の確認は義務付けられておるんです。」

笑ってしまう。
恋と戦ね。
これって似ているものなのかしら…?

「わかった。ありがとう、私達を心配してくれて。宮様と話し合ってみます。」

亜美がそう言うと、ケネスは目で見えるぐらいホッと肩の力を抜いた。
職業倫理との板挟みでだいぶ緊張していたようだ。


ノッコの話、そしてケネスの話……宮様ともう一度話すべきなんでしょうね。
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