夏の日の時の段差

秋野 木星

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お見合い?

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水曜日の夜に山岡君がやって来た。

達樹たつきが「俺が出る。」と言って玄関に迎えに出てくれた。


「何だか知らないけど、お義兄さんが俺を見た途端に『おっきい』って言ったんだ。お義兄さんの方が背が高いのにさ」

由紀恵は山岡君と目を見合わせて苦笑いをした。
五年前の達樹は小さかったからね。


「いらっしゃい、お呼びたてして悪かったわね。どうぞ座って。背広は脱いでくださいな」

「それではこのままで、ご挨拶だけさせてください。山岡誠二やまおかせいじと申します。由紀恵さんに先日、結婚を申し込ませていただきました。若輩者ですがどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。私は父親の遠坂順次とおさかじゅんじ、こっちは母親の……」

由香ゆかです。よろしくね!」

「俺は弟の達樹です、よろしく~」

「それじゃあ、暑いから背広を預かるわ。ここに掛けときますからね」

「ありがとうございます」

お母さんが山岡君の背広を隣の部屋に持って行って戻ってくるのを待って、お父さんが口を開いた。

「まあ話をしなから食べましょう。遠慮はいらないからね、しっかり食べてください」

「はい、いただきます」

山岡君は最初、緊張しているようだったが、ビールを飲みながらお父さんたちと話をしているうちに、しだいにいつもの山岡君になっていった。


「ほう、そうですか、海棠かいどうにね。海棠工業と言ったら大手だ。どんな仕事なんですか?」

「新入社員なのであちこち研修に回ってますけど、最終的には総務になりそうなんです。僕は設計がしたかったんですが、うちの親父の仕事の関係で便利だと思われたらしくって」

「ああ、お父さんは岸蔵きしくらでホテルをされているんでしたな」

「はい、僕の兄も一緒にやっています。あ、そうだ。ちょっと待ってください」

山岡君は背広のポケットから白い封筒を出して持ってきて、それをお父さんに渡していた。

「お納めください」

釣書つりがきですか。これはありがたい、拝見します」


お父さんとお母さんがツリガキを見ている間に、由紀恵は「何なの、あれ?」と聞いてみた。
山岡君には「お見合い相手に渡す身上書だよ」と言われたけど、就職の面接に使う履歴書みたいなものなんだろうか?

お見合い?
私と山岡くんって、お見合いなの?

そうか、そうだね。
お付き合いしてなかったんだから、お互いのことをあんまり知らないもの。

ということは、お見合いと一緒か。

そう思ったら、ストーンと気持ちが楽になった。

これから結婚したい人かどうか、つき合ってみればいいのよね。


「由紀恵、あなたも山岡君の書き方を見せてもらって釣書を書きなさい」

お母さんはそう言いながら便箋と封筒を持って来た。

他の家族が山岡君と楽しく話をしている横で、由紀恵はは慣れない縦書きの便せんを使って、「釣書」というものを書いたのだった。




**********




夕食の後、山岡君に二階の自分の部屋へ来てもらった。

山岡君がいるとなんだか部屋が狭く感じる。

「へぇ、意外とすっきりしてる。もっとピンクのふりふりかと思ってた」

「小学生の時は、そうだったよ。でも高校生になって、そういう子どもっぽいインテリアの部屋にしてる人はあんまり見ないよ」

「そうかー、男兄弟だったから女の部屋に夢を見過ぎてたな」

「あのねぇ山岡君、結婚の返事って、しばらくつき合ってからでもいい? なんかまだよくわかんなくて」

「いいよ」

「返事、早っ」

「まだ高校生だもん、実感わかないよな。僕もそれでいいと思ってる。ただ遠坂さんは大学入ったらモテるタイプだと思うし、アドバンテージ付けときたかったの。それに、おばあちゃんの家の事があったろ? 結婚を考えてないとなかなか踏み込んだ話も出来ないからな」

「そっかー、安心した」

「でもつき合うんだから、山岡君じゃなくて誠二にして」

「えーーっ、誠二? 5歳も年上なのにぃ?」

「それを言うなら君呼びもおかしいじゃん」

「最初の出会いが同級生だったからなぁ。そうだな……誠二くんにする」

「まぁそれでいいや、由紀ちゃん」

「由紀ちゃんなんて、なんか小学生みたい」

誠二くん、由紀ちゃんなんて幼い子供みたいだ。
でも私達には合ってる気がする。


「それよりさぁ、通帳の事が気になってたんだけど、2冊になった?」

「なんの通帳?」

「ほら、一番最初のスライドの時に自分の通帳を取ってきたじゃないか」

「ああ……確かめてなかった」

由紀恵は机の鍵付きの引き出しを開けてみた。

「あれ? ないなぁ」

由紀恵は通帳を探していたが、誠二君は引き出しに入っていた他の物を凝視していた。

「ちょっと聞きたいけど、これは何?」

「ん? それはドロップのカンカンのふた

「なんでそんなものがここに大事そうに入ってるの?」

「だって、カンカンに入ったドロップなんて滅多と買ってもらえなかったんだよ! ものすごく貴重でしょ? まだ匂いもするかも」

由紀恵がその蓋をくんくん嗅いでいると、誠二くんに笑われた。

「この引き出しの中身って、小学生が集めたものみたいだな」

「そうだね……そういえば、久しくここを開けていない気がする。鍵をかけてたら開くのがめんどくさくてねぇ」

「ということは、4年半ぐらい通帳が行方不明なのに気づいてなかったんだ」

「そんなバカなっ……んーでも、中学生になったら友達との交際が始まって、お年玉って貯めなくなったなぁ。部活の帰りにソフトクリームを食べに行ったりしてたから、いつも金欠だったんだよね。でも金欠になっても通帳には手を付けなかったの。アルプスの少女ハイジの山に行ってみたかったから、この通帳のお金はその旅行資金にしようと思ってたんだよねー」

「…………僕たち、話し合うことがたくさんありそうだね」
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