星の子ども

秋野 木星

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第一章 NICU

生後13日目 今こそ啐啄同時

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今日の題名を見て、ギョギョッとしている方が多いと思います。
何て読むのよ~ 
ごもっとも。ラクーも昔、読めませんでした。(^_^;)
そしてすっかり忘れてもいました。ここに書こうと思って、電子辞書で調べたよ~

啐啄同時そったくどうじと読みます。
啐……鳥の雛が生まれようとする時、殻を破って出てこようとして鳴く声。
啄……母鳥がその声に応えて、殻をつつき割る音。

子育ての「ア・ウン」の呼吸のことを説明するために、むかぁ~し、昔の母親学級で講師の先生が選んだ仏教の教えです。

ラクーには、三人の娘がいます。
長女のノンビリーが一歳七か月の時に、下に双子のヨムリンとネムルーが産まれました。
子育てをしたことがある方ならわかって頂けると思いますが、当時はそりゃあ大変でした。三人分のオムツとミルク、服を揃えるだけで、ダンナーの薄給はドロンと消えていきました。
体力的にもいっぱいいっぱいで、同居していた義理の両親や近所の親戚の人たちが助けてくれなかったら、発狂していたことでしょう。
ラクーは20歳そこそこで結婚して、すぐに子どもができたため、母親としての心構えもなっていませんでしたし、自分自身がまだ子どもでした。
幼児教育を短大で学んでいたとはいえ、学んだ理論を実践した経験が少ないのですから、子どもとの関わりもずっと手探りの状態でした。

そんな生活をしていたある日、「子育ては親育て」という言葉を聞きました。

子育てをするぞ!と張り切ったって、本当は親となった自分たちが、子どもに育てられているようなものなんです。それを聞いて、シャカリキに100%の子育てをしようと思って、張り詰めていた気持ちが楽になりました。それからは、60点主義でいくことしたのです。良い悪いが半々あるのなら、良い方向に10点分だけ頑張ってみよう。そんな肩の力の抜けた子育てに方向転換しました。

長女のノンビリーが10歳ぐらいになった時、「宿題がない」と嘘をついて連絡帳の文章を改ざんしたことがありました。その時も親としてどう教えていったらいいか悩みました。

そんなことを悩んでいた頃、雑誌に書いてあったこんな教育論に出会いました。
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……」というように幼児言葉で数えられる「とお」つまり10歳までは、親が頭ごなしにでもしつけをしていってもいい。そうやって社会で生きていく規範を教えるべきだ。
しかし「じゅういち、じゅうに、……」と普通に数えられる歳になったら、自分で考えさせて、親は後ろからのサポートに徹していったほうがいいそうです。
なるほどなぁと思ったことを覚えています。うちの長女も、もうそんな子育ての時期に来ていたんだなと思って、頭ごなしに叱っていたやり方を変えました。

その頃、同じように聞いたのが「そったくどうじ」という言葉です。
親鳥と小鳥、お互いのタイミングや気持ちがぴったりと合っていないと、子育ての効果はないのです。

子どもが今、必要としているものは何なのか?
親はそれをじっと見守りながら、タイミングをはかってピタリと与えてやらなければなりません。


今日、リノは経管栄養が一時中止になりました。
栄養を与える時の体勢を工夫してみたけれど、どうしても逆流があったようです。
忙しいNICUの看護師さんに、抱っこしたり身体を起こした状態でミルクを入れてもらう訳にはいきません。ここは、涙を呑んでこらえるしかないのです。
それに、午後に脳のMRI検査が控えていましたから、お医者さんもリスクを避けたのでしょうね。
明日からの再開を待ちたいものです。

そんな残念なこともありましたが、ネムルーは今日もリノを抱っこさせてもらったそうで、ゴソゴソと動きの増えたリノの様子を肌で感じることができて、喜んでいました。
「もうちょっとで声が出そうな気がするんだけどなー」と笑いながら言っていました。
ラクーも相馬先生の本を読み終えて興奮していたので、二人で本の内容やリノの話をしながら帰る車の中は笑顔でいっぱいでした。

今夜、出産した病院の先生とのミーティングがあるのですが、「若夫婦二人だけで大丈夫?」とラクーが聞いても、そんな調子だったので、ネムルーは自信を持って「大丈夫!」と答えていたのです。

「人を呪わば穴二つ」ということわざがあります。
自分自身や病院の体制等をいくら責めても、かえって自分が苦しいだけです。

リノも自分たちもこういう運命だったんだと、すべてをまるっと受け入れる度量の広さが、女には必要なのです。

ラクーはネムルーが転院する時も、産科の先生に深々と頭を下げて「ありがとうございました」とお礼を言っておきました。
リノの命が辛うじて助かったのも、ドクターの処置のおかげです。十か月間検診で関わった子がこんなことになるなんて、先生もショックだったに違いありません。
だって何の兆候もない優良妊婦だったんですよ。ネムルーはお酒は飲めませんし、タバコの臭いさえも大嫌いなんです。

最初に妊娠した子は、子宮外妊娠で激痛を伴ったため、母体を守るために薬で流さざるを得ませんでした。
二人目に妊娠した子は、三か月で心臓が止まってしまいました。
三人目にやっと授かったのが、リノです。五体満足で、出産の直前まで元気ピンピンだった子です。

どうか生きていってほしい。ばあばはそれだけを望んでいます。


病院の帰りに、本屋へ寄りました。
「二人でリハビリをする療法士や看護師、保育士の専門家になって、リノを立派に育てていこう!」
なぁんて、笑いながら話していたんです。

けれど「医療や療法」の現状が本の中に見えてくると、我が子の姿が重なってきて、立ち読みをしていたネムルーの様子がおかしくなってきました。暗い表情になって、涙ぐんでいます。

「これは、まだリノには必要ないと思う……」

見たくないリノの将来がそこにあったようです。
今にも泣いて普通の子のようにお乳を飲みそうに見える我が子。そう思ってしまうのも無理からぬことです。

「リノが、可哀想……」

うん、そうだね。でもここはラクーにとっても啐啄同時なのです。
心を鬼にしてネムルーをさとしました。

「でもね、可哀想と嘆くのは、死んでからでいい。リノは生きてるんよ! ネムルーというお母さんを選んで、うちに産まれてきてくれたんよ! リノが必要としていることをよく見極めて、応援してやるのは親の義務だ。ゼロから出発して頑張っている我が子を支えていかなくてどうするの! ようやく呼吸を始めて、今、生きていこうとしてるんよ!」

ラクーは、栄養学の本を二冊、言語聴覚障害の本を一冊、脳と神経のしくみの本を一冊買いました。
ラクーがしていることを見て、ネムルーの顔に笑顔が戻ってきました。

「今日は、副婦長さんにも『お母さんは、病院関係者なの?』と聞かれたわ。これで五人目。なんかカンファレンスの時の話が、看護師さんの中で広まっているみたい。」

赤ちゃんが生まれて3日ほどで病状説明の医療用語をある程度理解し、冷静に質問を返していたためそんな風に思われたんでしょうね。
夜を徹してネットの海を泳いでたんだってば。
家族なら皆、そうするよ。

(* ̄▽ ̄)フフフッ♪ ラクーは、少々ではへこたれません。
リノのスーパーばあばになるために、なんだってこなしちゃうよ!


初めてのリハビリ
胸のリハビリをしている時に、リノが指を強く握る。
MRI検査・・磁気で身体の中を調べる。リノの場合は脳を調べたと思われる。
これがとても残念な結果を連れてきます。
ネムルーは三回目の抱っこをさせてもらいました。
何人もに助けられないと我が子を抱けないなんて、こういう子育てもあるんですね。
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