指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?

秋野 木星

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魔法実習

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 一通りの授業の導入が済んで、第二週に入った曜日には、大きな講堂で下級クラスまで含めた一年生合同の魔法実習が行われることなった。
これは魔法体力測定も兼ねているらしい。

最初は二人組になって、一人が光を灯し、もう一人がその光に干渉して大きくしたり小さくしたりする訓練だ。他人の魔法に干渉するためにはコツと魔法量が必要なので、中級以下の貴族には訓練が必要な難しい作業になるのだが、トティのクラスはさすがに上級クラスだけあって、皆あまり手間取ることはなく、光を操っていた。

トティが組んだのは、あの素っ気ない態度をとり続けているシュゼット・マースデンだ。
シュゼットはマースデン伯爵の第二夫人の一人娘だそうだ。ドルーから聞いたのだが、大病をしたので去年はほとんど学院に来られなかったらしい。つまり一年遅れてしまったことになる。
それでクラスの皆から距離をおいているように見えるのかな。トティだけが嫌われているということではなさそうなので、安心はしたのだが、なんだか気になる存在であることには変わりない。

シュゼットにとっては、この体力測定も二度目なのかもしれないな。
トティの作った光の球を何回か大きくしたり小さくしたりした後は、話もせずにそっぽを向いて立っている。

「シュゼット、光の球を作ってくれる? 今度は私が魔法干渉をしたいんだけど…」

「…」

シュゼットが黙って胸の前に灯した光に、トティは魔法量を最大限に押し込んで、途轍もない大きな光の球を作った。

「「うわぁ!!」」

周りの人たちが驚いて声をあげたけれど、シュゼットは目を丸くしただけで、声を出さなかった。


自分たちの合格が出た後で、周りの人たちが実習している様子を見ていると、作った光の球が弱弱しい人を何人か見かけた。
ファジャンシル王国全体の魔法量が減ってきているという話を聞いていたけれど、やはり噂されていることは事実のようだ。けれど魔法量が少なくなっているのに国力が上がっているというのが、他国には理解できない不思議な現象だ。


オディエ国では、貴族階級の者だと下級の武士職に至るまで、上級魔法とされている「浮遊魔法」が多少なりとも使えるものが多い。普通は訓練で身に着けていくものなので、直ぐにできるのは王族の血がどこかで入っている者ぐらいしかいない。けれど兵士でも自分の身長ぐらいの高さには浮かび上がることが出来る。

風魔法、水魔法の基礎的な実習の後、この浮遊魔法の実習に入って、トティは驚いた。
講堂の壁に計測するためのメモリが刻まれているのだが、ほとんどの生徒が浮かぶというよりはジャンプして計測を終えている。教師のピイー先生もそれが当たり前のように、生徒の計測結果をメモしている。

親の階級が上がるにしたがって浮遊できる者が増えてはきたが、上級クラスの生徒でも建物の一階の天井相当ぐらいに飛び上がるというのがせいぜいだ。
この講堂の天井は高くしてあって、三階建ての建物ぐらいはあるのだが、そこまで上がれたのは上級クラスでも半分ほどだった。

そして浮遊魔法を制御して自由に飛び回れているのは、ドルーとプリシラとトティぐらいだ。
ドルーは平気な顔をしていたが、プリシラはちょっと疲れたと言っていた。王族でも持久力はないらしい。
侯爵家のドルーの魔法量を称賛するべきか、ファジャンシル王国の上級貴族の魔法量のなさを嘆くべきなのか…

魔法量のない貴族に治められている平民の国。
これって本当におかしな現象だ。
それにますますラザフォード侯爵家というのが、謎に満ちてきた感じがする。経済や産業に貢献している伝説の両親もいるし…

どうしてこの人たちが王家になっていないのかな??



◇◇◇



 授業が終わり寮に帰って来ると、ナサリーが待っていて、宮殿から送られてきた歓迎パーティーの招待状を渡された。

「来週の湖曜日の夜だそうです。公爵家の直系の親族までを招待しているそうなので、そんなに大きなパーティーではないと思います。」

「ふうん。めんどくさいけど、これが留学の目的だもんね。」

いよいよ指令を受けたトティの本領を発揮していく時がきたようだ。
オディエ国の王族として、そしてお父様と兄様に満足してもらえるように、いくらかでも成果をあげたという報告をしたいものだ。


リベルと一緒に夕方の散歩に行ったのだが、今日はダグに会えなかった。
秋野菜の植え付けをしていた学生にダグのことを聞いたら、家の用事で今朝から休んでいるという。

なんか拍子抜けしちゃった。
別にダグがいなくても、リベルとの散歩は楽しいんだけど…
なんていうか、ちょっと物足りない気分になってしまった。あのダグの講義を少しはトティも気に入っていたのかもしれない。

いつもより早めに寮に帰れたので、ドルーたちと話でもしようかと思っていたら、プリシラしか部屋にいなかった。プリシラは読んでいた本から顔をあげて、トティを歓迎するように微笑んだ。

「あら、短い散歩だったのね。」

「うん、魔法実習もあったから、ちょっとゆっくりしようと思って。」

トティがそう言うとプリシラは身体中をぐったりとソファにもたれかけた。

「本当にそう。あんなに連続して魔法を使ったら、疲れるに決まってるわ。私、今日は刺繍もしたくないの。」

そういえばいつもの刺繍の代わりに、雑誌が膝にのっている。

「ドルーは? 部屋なの?」

「家から連絡が来て、ちょっと帰って来るって言ってたの。こっちに戻ったばかりなのに何なのかしらね? マイケルも一緒に帰ったわ。」

婚約者がいなくなったので、プリシラも寂しいのかもしれない。

トティは暇を持て余しているプリシラと、歓迎パーティーのことを色々と話し合った。
王族や主要な貴族への紹介は任せといてと言われたので、とても心強い。

本当にこのルームメイト制度は、ありがたいなぁ。
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