魔法力0の騎士

犬威

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第一章 ガルディア都市

勇者召喚

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 この世界はいくつもの犠牲の上で成り立っている。

 醜い争いを繰り広げ、奪い合うことで大切なものを守ってきていた。
 こんな世界に平定は訪れるのであろうか。

 ここガルド大陸首都ガルディアでは今まさに時代の変革が訪れようとしている。
 王宮を突き抜け、見晴らしのいい崖の上には騎士団の最高戦力が集っていた。
 こんな心苦しい気分であっても空は晴れやかで、むしろ少し暑いくらいに感じる。
 じんわりと汗が滲む、整えられた舞台を見ればもう避けようのない事なのだと胸が痛む。

 騎士団長トリシア=カスタールは、赤とシルバーのアルマタイトフルプレートで出来た鎧を身にまとい大きなハルバードを背負い、儀式の台座の一番近いところで台座までの道に敷かれたレッドカーペットを挟む形で横に並ぶ。

 緑の髪をポニーテールに結わえ、前を見据える姿は普段のスーツの姿とは違い、厳かな雰囲気はまさしく強者たる者であった。

 その隣には各騎士団の名だたる隊長達が横一列に並ぶ。


 第一部隊隊長である私、アリア=シュタインは普段の騎士鎧姿で、背には弓を腰には剣を差した姿で立つ。

 断然たる覚悟のある顔はこれから起こるであろう惨劇に目をそらさぬ為のものである。


 第二部隊隊長ストライフ=バーン、緑の髪の短髪であり褐色のエルフはアリアより少し背が低く、幼い顔立ちでありながらこの騎士隊長の中では一番の年長者であり、戦闘経験も豊富で郊外任務から戻ったばかりである。


 第三部隊隊長カルマン、三メートルを超える体躯と筋肉質なおかげで鎧は着ておらずシルバーの胴当てと腕にはアルマタイトのガンドレットを両手につけている。赤い大きなマントが風になびきその存在感を主張する。


 第四部隊隊長トロン、アリアと同じような鎧に身を包み、腰に剣を携え、悲痛な面持ちで静かに前を見据える。その感情はおそらく怒りであろう、トロンは今回の巫女と同じように小さな妹もいる。トロンは最後までこの勇者召喚に納得がいっていなかった。


 第五部隊隊長アルフレア、カルマンと同じく三メートルを超える赤髪の長髪でギガントの女性、姉御肌な性格でカルマンよりも多くの鎧を着ていて背には大きな大斧を提げている。アルフレアも郊外任務から戻ってきたばかりであり、この召喚の儀もトロンと同じく怒りを覚えていた。


 第六部隊隊長カナリア=ファンネル、今日も変わらず黒いドレスに身にまとい、ピンク色のツインテールが風になびき鬱陶うっとうしそうに顔をしかめていた。


 第七部隊隊長キール、青いウルフのような髪型で褐色のヒューマンである彼は、ストライフとともに昔から騎士団の隊長を務める古参であり、刀と呼ばれる異世界の武器を使う。キールも今回郊外任務から戻ってきていて腕を組み目を閉じて立っている。


 トリシア=カスタール騎士団長の対面に並ぶのは元騎士団長であるアルバラン=シュタイン、教皇であるドンナム=イルレシア、ガルディアンナイト騎士団長テオ、セーブザガーディアン商業統括ドルイド=アンダーソンと各大臣達が一堂にそろっていた。


 教皇が辺りを見渡し宣言する。


「これより勇者召喚の儀を始める!」


 王宮側の扉が空き、国王が巫女を連れてレッドカーペットの上を歩いてゆく。

 巫女であるサーシャ=ウル=ガルディアは白いドレスを身にまとい国王ナグル=ウル=ガルディアの手を掴みながら確かな足取りで歩いていく。
 その瞳はしっかりと前を見据え、幼いながらも自分の役割を理解しているようであった。


「くっ……」

「耐えるんだトロン」

「アンタの気持ちは痛いほどわかるよ……」


 握った拳に必然的に力が入る。
 怒りの感情を飲み込みただ前を見据える。この小さな少女の覚悟をこの目に焼き付ける為に…


 巫女は切り立った崖の上の台座に立たされる。


「これより我が精鋭なる魔導士四人が勇者召喚の補助を行う。魔法陣が完成次第巫女はその血を捧げ扉を開くのじゃ、それまでに最後に別れを告げる時間をやろう」


 四人の魔導士による詠唱が始まり、大きな魔方陣が空中に浮かび上がる。
 それまで繋いでいた手を放し国王であり、父であるナグルに少女は話し始めた。


「パパ、そんな顔をしないで…… 私ママに会いに行ってくるよ」


 最後であるのにもかかわらずサーシャの顔は笑顔であった。


「ああ、先に行ってパパの帰りを待っていてくれないか」

「うん…… わかった待ってる…… それじゃあ元気でねパパ」


 サーシャは崖のほうに向きなおり前を見据えた。
 吹き抜ける風が残酷にも背を押しているようで、その手は恐怖で震えている。


「サーシャ!!」


 大きな声でサーシャは呼び止められ思わず振り向く、その顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れており悲痛さを際立たせた、覚悟を決めたサーシャでさえ死ぬのは怖いのだ。

 その声の主であるナグル=ウル=ガルディアは涙を流しながら叫ぶ。


「サーシャお前は…… 私の自慢の娘だ!! 愛し…… てるぞ……」


 振り絞るように、震える声で、国王は思いを口にする。
 もはやそこには王という地位に座った男などではなく、一人の父親としての必死な姿だけがあった。
 

「パパは…… ほんとに…… 泣き虫だね…… 生まれてきてよかった…… パパとママの子で良かった…… 私も…… 愛してるよパパ」

 涙交じりの笑顔。 サーシャは一歩踏み出す。


「サーシャァアア!!!」


 国王の悲痛な叫びが響き渡る。 

 魔法陣の完成とサーシャが飛び降りるのは同時だった。 サーシャの幼い体は無残にも地面に叩きつけられたことだろう。


「ぅおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 膝から崩れ落ち声にならない声を上げ泣き叫ぶ国王ナグル。

 無情にも魔法陣には血の魔力が満ち、あふれていき大きな扉を作りあげる。

 なんてむごい光景だろうか、奥歯を強く噛みしめ強く握っていた手のひらからは血が流れ出ていた。


「ちくしょう…… ただ見てることしかできないなんて……」

「あの子は立派に生きたよ…… アタシは自分が不甲斐なくて嫌いになりそうだよ」


 トロンとアルフレアは後悔に顔を歪ませていた。


「最悪の気分ですわ」

「反吐が出る」


 カナリアとキールも悪感情を露わにしていた。

 崩れ落ちた国王をアルバラン=シュタインがかかえ用意していた椅子に座らせた。
 国王ナグル=ウル=ガルディアは叫び終わった後、目から生気が抜けてるような虚ろな瞳で虚空を眺めていた。


「これではきたる勇者に説明ができませんな、私が国王の代わりとなって勇者には説明いたそう。 教皇かまいませんか?」


 アルバラン=シュタインは非情にも淡々たる声で言い放った。


「かまわんよ、儂は魔力を使いすぎてしまったからな、勇者の対応は任せるぞ、アルバラン」


 虚空に現れた巨大な扉が開いていき、中から一人の青年が現れる。


「ここはいったいどこだ…… 」


 出てきた青年は黒髪で軽い猫背の痩せた体をした目の下に隈のある不健康そうな青年だった。服装は異世界人でよく見られるセイフクと呼ばれる格好であった。


「おお! 勇者よ! 私はこの大陸納める者の代理であるアルバラン=シュタインと申す者である。失礼ながらそなたの名を教えてはくれぬか?」


 男は一瞬驚き把握できてないまま話始めた。


「え!? ああ…… これはどうもアルバランさん、えっと俺はオクムラタダシって言います。高校生です」


 視線をあちこちにさまよわせ「すげー、ゲームみたいな世界だ」とぶつぶつ独り言を話していた。


「コウコウセイというのはなにかは知らないが、現状を把握できていないのも無理はない、この世界は大きな大陸戦争の真っただ中だ、君はこの大陸を救うべく召喚された勇者なのだよ。いま我が国は敵の攻撃を受け続けていて、罪もない人々が苦しんでいる。戦争を終わらせるために私たちに協力をしてはもらえないだろうか? 謝礼はいくらでもだそう」

「え!? そうなんですか! 俺が勇者…… 任せてください!この勇者である俺がこの世界を救って見せますよ!」

「そういってもらえると助かるよ、君はこれからこの街でいろいろなものを学んでいくといい、我が騎士団も全力で君をサポートしていく」

「ありがとうございます! ちょっと異世界にきたら体験したいこととかもあったんで」

「では、君はこれから私の後任にあたるトリシア=カスタールの騎士団の管轄に入ることとなる。 ではよろしく頼むよトリシア」

「はっ!うけたまわりました! 私は、騎士団ブレインガーディアンの騎士団長を務めるトリシア=カスタールと申します。騎士団全体で君をサポートしていくのでこれからよろしく頼む。」

「すごい美人さんですね! 俺もこんな美人さんのサポートが受けれるなんて嬉しいっすよー…… これからよろしくお願いします!」


 急に把握した勇者はさっきまでのおどおどした態度を変え、意気揚々と話し出した。


「詳しい話はあとでじゃ、これにて勇者召喚の儀は終了じゃ!解散せよ」


 ぞろぞろと人が減っていき私たちは勇者に詳しい話をするべくブレインガーディアン本部へと移動する。
 後ろを振り返り見ると取り残された国王は変わらず椅子に座って虚空を眺めていた。

 その姿がとても心苦しく見ていることができなかった……
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