魔法力0の騎士

犬威

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第一章 ガルディア都市

side セレス=シュタイン ~屋敷へご招待~

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 セレス達は夜の静かな街中を抜け、セレスの屋敷へと向かっていた。


「それにしてもあの奴隷商を逃がしてしまったのは痛いっすね」

「敵の規模もそれだけ大きいのでしょう…… あの爆炎を操る黒いフルプレートの男もいましたし、今後も出くわす可能性が高いですね」


 きっとガルディアに潜む闇はまだ私達が把握できないほど根深い気がします。


「アリア隊長が苦戦する強さだからな、用心したほうがいいな」

「トロンさん達も行方知れずですし、この都市で何かが起きようとしてる前触れっすかね?」


 ちょ、ちょっと!? その話題は今は出したくなかったのに!!


「ジャスティン!」


 つい声を大きく出してしまう。


「おっと!? すまないっすパトラ……」

「大丈夫だよジャスティン心配してくれてありがとね! お兄ちゃんもお兄ちゃんの部隊の人も強い人ばっかだし、そのうちふらっと帰ってくるよ!」


 明るく話す彼女は隠していても嘘が顔に出るのでとてもわかりやすい。
 今も内心はすごく不安なのだろう空元気というものかもしれない。
 無理…… してるはずだよね…… 


「この件については兄様が話し合うと思うのでそれからでも遅くはないでしょう」

「そうっすね、今はやめようっす」

「うん、それにしてもお腹減ったよねー、今日のスケジュールハードすぎない!?完全に時間外労働だよー」


 背をぐいーっと伸ばし息を吐くパトラはかなりお疲れみたい。
 パトラだけじゃないね、ここにいるみんなが今日は長い戦いを繰り広げ心身ともに疲弊ひへいしている。
 私も今回はかなり魔法を連発していたせいでだいぶ疲れてしまった。


「ほんとにこんなに疲労するなんて久ぶりかもね」

「うんー早くお風呂入りたいよー」

「ああ、汗でベトベトっすからねー風呂入りたいっす」

「うわっ、そう思うとジャスティン超汗くさいかも!!!」

「パトラひどくないっすか!?」


 サササッとジャスティンから離れるパトラはさっきまでの暗い表情はなく実に楽しそうだった。
 ……これで少しはいつも通りに戻ってくれるといいんだけどね。


「屋敷でお風呂の準備もしてあるからみんな入っていくといいよ」

「いいっすか!?」

「それはさすがに悪い気がするな……」

「せっかくのご厚意なんだからカナンも入りなよ! あ! 覗くんじゃないぞー!!」

「なっ!? そんなことするわけないだろ!!!」

「いやー冗談なのに、そうやってムキになるカナンは怪しいなー」

「こらパトラ! あんまりカナンさんをいじめないの」

「優しいなー、セレスは後で洗いっこしよーね」

「こ、こらパトラここでそんな話しないで!」


 なんでこんな所でそんな話をするんですかパトラは、まったくもう……
 ジャスティンさんが挙動不審になってるから! パトラ!

 あー…… もうっ。


「こほん! と、とりあえずお風呂の準備は用意してあるから気にしないで入って」

「わかったよ」

 カナンさんは苦笑いを浮かべ、ジャスティンさんは朗らかに笑う。
 パトラはようやくいつもみたいになってきたのかな? らしくなかったからこれはこれでいいんだけども。

 しばらく歩くと銀製の大きな門が目に入ってきた。この扉を抜けた先にある屋敷が私の住んでいるシュタイン家の屋敷だ。


「ひゃー、やっぱりセレスの家は大きいねー」

「さすが貴族の家っすね」

「名のあるシュタイン家だからなぁ大きいのもうなずける」

「そ、そんなことないよ…」

「「「そんなことはある!」」っす」


 まるで息を合わせたかのような言葉に若干たじろいでしまった。

 シュタイン家はガルディア都市でも三本の指に入る名家らしいのだけれども、それは新たに父親になったアルバラン=シュタインの実績が大きいからというもの。
 母様…… やはり家自体に思い入れは少ない、兄様と出会えたのは凄く幸運ですけど……


 大きな門をくぐり、屋敷のドアを開くとそこにはメイド服に身を包んだフリーシアさんが朗らかな笑みで待っていてくれていた。


「おかえりなさいませ、セレス様。 それとようこそいらっしゃいました。 この度は大変激しい戦いがあったと聞きました。 お風呂の準備もしてありますのでどうかゆっくりとしていってくださいね」


 にこりと可憐な笑顔をみると女性の私であってさえもどきりとさせられる。
 それだけフリーシアさんは魅力的な女性であった。綺麗な黒髪で背は低めなのにその…… 私よりも大きな胸がとても存在感を主張する。

 私だってまだ…… 成長途中ですし、大きくなる可能性だって…… ありますし……
 だからってパトラ…… そんなにフリーシアさんと私の胸を見比べるのは止めてくれませんか?
 そんな悲しそうな顔しないで! 発展途中なの!


「て、天使がいたっす……」

「あれ? ジャスティンは前にセレスの屋敷に食事に来た時フリーシアさんを見てなかったっけ?」

「ああ、あの忘れもしない自分が風邪の時に置いて行かれたやつっすね……」

「あっ!? そうだった! ジャスティン風邪で寝込んでたんだった」

「まさかその日になにも行かなくてもよかったじゃないっすか! 自分が高熱でうなされてる時にみんなは美味しい料理を味わっていたんすね」

「だからごめんって! 今回来れたからいいでしょ?」

「まぁこうして天使の笑顔が見られただけで自分は満足っすよ! フリーシアさん…… なんて素敵な女性なんだ今度よかったら俺と食事でも……」

「えっ!? えっ!?」


 フリーシアはジャスティンさんの突然の行動にやはり戸惑っているようだ。


「ちょっとちょっと! ジャスティンさん気が早すぎだよ! ごめんなさいフリーシアさん。 と、とりあえずみんなを最初にお風呂に入れたほうがいいから男性用の脱衣所の場所に案内してもらえますか? 女性用は私がパトラを案内しますから」

「わかりました、それでは男性の方はこちらに……」


 フリーシアさんは慣れた手つきで男性たちを脱衣所まで誘導しに行ってくれた。


「それじゃ私たちもいこうか」

「わーい、お風呂ー」


 私はパトラを引き連れ女性用のあるお風呂の方へ移動していった。

 この屋敷には多くの方が訪れることが多い、私の新しい父となったアルバラン=シュタインは元騎士団長であり、名のある貴族の一人としてこの屋敷を所有している。
 この屋敷も本来は私たちが生活するだけでなくたびたび会議としての場や舞踏会が開かれていたりする為、それなりに屋敷は広く、来たばかりの頃はいつも迷子になりよくフリーシアさんが見つけてくれていたりもした。
 今となっては迷うことなく屋敷の中を歩き回れるくらいになった。

 パトラは廊下を歩いている間きょろきょろといろいろな所を見て興味深そうにしていた。


「やっぱり珍しいかな?」

「そりゃあうちの家とは大違いだからねー。 これなんか落として割ったりなんかしたら処刑もんだよね……」


 顔を青ざめて話すパトラがおかしくてつい笑ってしまった。


「フフ、気にしすぎだよ、すっごい強力なやつで固定されてるからちょっとやそっとじゃ落ちないよ」


 恐る恐るといった風にパトラは花柄のツボに触れてみる。


「ほんとだ…… びくともしないね…… でもあんまり触らないでおくね」

「昔ここを走りまわって花瓶を落としたことがあってね、その時にフリーシアさんが治すついでに全部の壺とかを固定しちゃったんだよね、花瓶とかの中の水はクリーンで綺麗にできるしね」

「フリーシアさんすごく若く見えるけど何歳なの?」

「うーん…… 前に聞いた時は永遠の十八歳って言っていたから…… ちょっとわからないかな…… 見た目もあの頃と変わらないし謎多き女性だね」

「すごく綺麗? というか可愛い女性だよね」

「そうだねミステリアスな雰囲気が出てるよね、あ! ここだよ脱衣所」


 浴槽は男性用と女性用で離れた所にあり、それなりに大きい作りになっている。
 このガルディア都市は大理石がふんだんによく取れる。この浴槽も黒い大理石でできており、水はけもすごくいいから掃除もしやすいのだそうだ。
 着替えはあらかじめフリーシアさんが用意してくれていたみたいだ。脱衣所の籠の中に綺麗に折りたたまれた着替えが入っている。
 鎧を脱ぎ、机の上に並べていく、パトラも同じように並べていき、すべて鎧を取り外したらクリーンを同時にかける。
 こういう時魔法はとても便利だ。 軽い傷や汚れなんかはこの魔法のおかげで綺麗にできる。
 最初に覚える魔法として一番練習を重ねるのがこのクリーンの魔法であっても過言ではないはず。


「ふー、ようやく重い鎧を外せたねー。 さすがに軽量化の魔法をかけてはいても重いものは重いから」


 いそいそと服を脱ぎ始めるパトラ。


 ん!? あれ!?


「ねぇパトラ? 最近また大きくなった?」

「え? 身長あんまり変わってないと思ってたんだけど……」


 何をこの子はいっているのか!?


「ちがう!!!! 胸!!!!!」


 泣きそうなほど声が出てしまった。
 裏切られた。 パトラは私と一緒だと思っていたのに。

 恥じらいもなくどんとした二つの双峰が綺麗に突き出ていた。 服の上からではわからない脱いだことによって隠されていたものが露わになったのだ。


「うーん? そうかなぁ…… 前と同じような……」

「全然違う! 成長してる! ど、どうして……」


 パトラは自分の胸を両手で持ち、ポヨンポヨンと大きさを確認していた。
 はっと気づいた私は急いで上着を脱ぎ、ブラジャーを外して自分の二つの胸にそっと手を置いた。



 絶望した。



「お、おかしいな、は、恥ずかしがり屋なのかな私の胸は……」


 なぜだろう視界がぼやけていくよ…… この目からあふれるのは汗かな?


「セレス…… ここ寒いからねお風呂いこ?」

「うん……」


 衣服を全て脱ぎ去り、髪をアップにして浴槽に向かうと、浴槽には湯気がたちこめ、とても暖かかった。


「お風呂おっきいね~、毎日こんなお風呂にはいれるなんてセレスはいいなぁ」

「このお風呂はいいよね、私も気に入ってるんだ」


 シャワーで髪を洗い、顔を洗い、体を洗い、さっぱりとしたところで湯船に浸かる。


 となりから「ふぃーーやっぱりお風呂はいいねぇ」とパトラが二つの双峰を浮き輪代わりにして浮いている。

 それをジト目で眺めつつ、肩までつかりふぅと一息ついた。
 やはりクリーンの魔法だけではこの満足感は得られないだろう、このお風呂で汚れを落とし、湯船につかることでようやく一日の疲れが癒される。

 お風呂とは偉大だ。

 そんなどうでもいいようなことを考えていると、ふいに落ち着いたいつもとは違う真剣な声でパトラが話しかけてきた。


「あのさ…… セレスはどこにも行かないよね?」

「どこにも行かないよ、トロンさんのことやっぱり心配?」

「うん…… こういったパターンは初めてでさ、急にいなくなるなんてこと今までなかったし、今まで居て当たり前って感じてたんだよね。 ほらいつもわたしとお兄ちゃん喧嘩ばっかしてたでしょ? 今日も喧嘩しちゃったし、あんなんでも一応私のお兄ちゃんだしね」

「パトラ……」

「兄妹だからなんとなくだけどわかるんだよね、ほんとはこういうこと思ってるんだろうなーってでもわかっていても反発しちゃうんだ。 素直になれないんだよね、家族だからね、不満も言うし、わがままも言う。 お兄ちゃんから見て私はとてもめんどくさい子だと思われていたかもしれない」

 パトラはさらに湯船に映る自分の姿を眺め続ける。

「それでもそんなお兄ちゃんは私をいつも心配してくれて…… アリアたいちょーに今日は大丈夫だったか? 迷惑をかけてないか? とかほんと過保護というかなんというか……」


 顔を上げ天井を見上げる。 家族とはそいうものだと私もわかるから。


「それでもね嬉しかったんだ。 心配してくれる人がいるのはいいって事に今更気づくなんて遅すぎだよね……」

「パトラ……」


「あのね、セレス。 多分お兄ちゃんとはもう会えない気がするんだ」

「どうして…… まだ行方不明というだけで……」

「それも兄妹だからわかるんだよ。 むしろ兄妹だからわかったんだ…… あの戦いの普段なら私は二属性しか使えなかったんだ、それがね今は五属性使えるようになってるんだよ? おかしいよね…… そんな兆候今までなかったんだよ…… セレス…… お兄ちゃん五属性使えてるのは知ってるよね……」

「う…… うん……」

「うちの家系は遺伝で五属性が世襲制らしいんだ…」


 パトラはすでに堪えきれなくなったのか大粒の涙を目に貯めてあふれないように我慢していた。


「い、いつか…… こんな日がくるんじゃないかとは思っていたよ…… 私たちは騎士だもん、戦場に身を置いてる。 別れの覚悟くらいはしてるつもりだった…… でもね…… まだお兄ちゃんがなんでもないような顔して笑ってくれる姿が目に焼き付いて消えないんだ…… うっ…… あやまり…… たかった…… よぅ うっ…… ごめ…… んねお兄……」


 パトラは堪えきれなくなった涙と思いを吐き出し、セレスにしがみついて大きな声で泣き続けた。
 セレスはパトラを抱きしめ、頭を優しく撫で、パトラが泣き止むまで一緒に居続けた。


 すっかり時間が経ってしまって慌てて着替えを済ませ髪を乾かし、食事が用意されているダイニングへと急いだ。


「あ! 遅いっすよ二人とも! せっかくの料理が冷めてしまうっす」

「ジャスティンさん女性には色々と支度があるんですよ」

「そうそう。 そこのところわかってくれないとーフリーシアさんが幻滅しちゃうぞー」

「なにっ!? き、気を付けるっす」


 席に着き、美味しそうな匂いが立ち込める。 パトラも今は喉を通らないかもしれないけど少しでも食べてもらわないと。
 それにしてもいい匂い、今日のメインは魚のホイル焼きなのですね。


「新鮮な魚が取れましたので、腕によりをかけて作りました。 カナン様はロコモコがお好きなようでカナン様は特別にロコモコとなっております」

「ありがとうございます!!!!」

「今日一の大声っすねカナン…… びっくりしたっすよ」

「カナンはロコモコへの情熱が凄まじいよね~」

「さっそく食べましょう」


 魚のホイル焼きは香ばしいバターの香りと香草の香りが包みを開くと一気に鼻腔をくすぐり、とても食欲をそそられる。 フォークとナイフで身を取るとホロホロと簡単に崩れ、口に運ぶと魚の嫌な臭みなどは全くなくバターの香りと魚の旨みが口いっぱいに広がっていく。

 魚の身はとても柔らかく、骨などは一切なくとてもたべやすく配慮されている。
 一口味わうたびに唾液がのどの奥からでてくるようで次々と口に運びたくなってしまう。
 一緒に入っている野菜やキノコもコンソメで一度味をつけているおかげか野菜はしっかりと味が染みていて、キノコの風味が魚とバターの旨みと合わさり得も言われぬ奥行きを作り出していた。


 ちらりと見渡すとジャスティンさんは「こんな美味い魚料理初めて食べたっす」と言いガツガツと食べ進めていっている。
 パトラのほうもさっきまでの不安を感じさせないように食べているのかもしれないが、その顔は綻んでいた。
 カナンさんだけ別メニューのロコモコを食べているが、それもジューシーな肉汁があふれ、お肉は柔らかいのだろう次々と食べ進めていく。 案の定カナンさんは涙を流しながら噛みしめるように食べていた。


「こんな美味しい料理を作れるなんてノイトラさんは何者なんですかね」

「ノイトラさんここで働く前はどこかの宮廷料理人だったらしいですよ」

「どうりでこんなにも美味しいはずだ……」

「カナンさんいつも食事で泣いてますね……」

「ああ…… ロコモコは神だ……」

「とても美味しかったと伝えてくださいっす」

「ええ、伝えておきますね、ノイトラも喜びますよ」


 一通り食べ終えた私たちは帰るという二人を見送り、パトラは一緒の部屋で寝ることになった。

 明日は久しぶりの休日です。パトラの気分転換に私のお気に入りの景色が見えるところに連れて行ってあげましょう。 私も落ち込んだりしたときはあの場所に行ってよく景色を眺めていましたから、パトラにはいつもの元気な姿に戻ってもらいたいですし、親友ですからね、パトラがつらい分を私が少しでも肩代わりできたらいいな。

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