52 / 104
第二章 アルテア大陸
豪雨
しおりを挟む私たちが小屋を見つけた時、パラパラとした雨だったのに、いつの間にか音を立てて降る雨に変わっていた。
その小屋は今では使われていないらしく、一見廃れてはいるものの、しっかりと作られていて、これならば雨風を十分に防げそうであった。
そしてこの木造の小屋はどうやらシェリアの思い出の場所だったらしく、シェリアは雨に濡れることも気にせず柱に手を触れながら小屋を眺めていた。
「雨も強くなってきたから中に入ろうか」
「は、はい!!」
突然声をかけたからだろうか、シェリアはビクリと跳ね、声はうわずっていた。
古くなっていて立て付けが悪くなっているドアを開けると、中は小さな暖炉と埃の積もったテーブルとソファー、それと乱雑に積み重なった絵本が散らばっていた。
「そっか、あの日からここは時間が止まったままなんだね…」
中を見渡し、悲しそうな表情をするシェリアはどうやら昔の事を思い出していたみたいだ。
これは、聞いてもいい話だろうか… また傷つけてしまわないだろうか。
その事にシェリアも気づいてしまったのだろう、横顔を眺める私の表情から察したように語りだす。
「気になってしまいますよね、いえ、たいした話じゃないんですよ、とりあえずびしょ濡れですから、コートを掛けましょうか。部屋は私がクリーンで綺麗にしますから、少し待っていてくれませんか?」
「ああ、そうだな、随分濡れてしまったからな」
自分の姿を改めて見てみると羽織っているコートはずぶ濡れで、髪も水が滴っている。
コートを脱ぎ、部屋の入口のほうにあった引っかかりにちょうどかけられそうだったので、とりあえず引っかけておくことにした。
「エリアハイクリーン!」
シェリアが唱えた魔法で見る見るうちに埃が吸い込まれ、見違えるように綺麗になっていく。
この魔法本当に欲しいな…
「ふぅ、終わりましたよ、服も乾かさないといけないから少し暖炉に火をくべておきますね」
この時期は雨期といっても肌寒く、ガルド大陸の気候とは大違いだった。なので暖炉に火を着けていても蒸し暑くなったりはしないらしい。
「ありがとう、シェリア」
鎧を外し、髪が濡れたままなので髪留めをほどくとシェリアが驚いた声をだした。
「アリア様、髪をほどくと女性みたいに見えますね!」
「よく言われるよ、未だに女性に間違われるんだ」
「そうですよね!思ったとおりですよ!きっとアリア様のお母さまもお綺麗な方だと思います!」
「ああ、私の母は…」
母親の顔が全く出てこないなんてあるだろうか…
私は実の母親の事は何も知らない、教えてすらもらえなかった。
「まぁ、そのことはもういいじゃないか、シェリアも着替えないと風邪を引いてしまうぞ」
「そ、そうですね、あ、あの、後ろを向いていてもらえませんか?目の前で着替えるのはちょっと恥ずかしくて」
顔を赤くして話すシェリア、それもそうだ年頃の女性だ、私は慌てて後ろを向き何も考えないように努める。
時々聞こえる布の擦れた音や、漏れる吐息が妙に艶めかしかったりしたが、なんとか理性が押しとどめてくれたようだ。
「あ、アリア様、もう大丈夫ですよ」
なんだろう、このドキドキする感じは…
振り返ると、前にシェリアを助けた時の刺繡の入った服を着ていた。
この大陸で作られた物で、シルクのような肌触りと、丈夫な素材はどうやらこの大陸に住む蜘蛛型の魔物の糸で作られているらしく、本来はすごく高いらしい。
「少し手直しして綺麗にしたのを持ってきたんです」
シェリアはくるりと一回転して見せるとその可憐さが一層際立って見えた。
「会った時から思っていたけど、シェリアはその服がよく似合うよ」
「なっ!?!」
急に顔を背けて、こっちを見ないようにしているが、隠し切れない耳がピコピコと激しく動いている。
この感じは嬉しいんだろうなと考えていると、わざとらしく咳払いしたシェリアが話し出す。
「こ、こほん!ちょっとお腹すきましたね!何か食べましょう!」
「ああ」
次元収納に入れておいた保存用のパンを取り出すと、シェリアは待っていたかのようにハムとチーズを次元収納から出した。
「ハムサンドにするか」
「はい!ターナーさんの家でもよく出ましたから材料もちゃんと持ってきてます」
暖炉の近くに置いてあった鉄製の板に二人分のチーズを乗せ、暖炉の火で少しずつ溶かしていく。
チーズが程よく溶け、トロトロになったら切ったパンにかけ、ハムを乗せる。
卵もあれば焼いてさらに乗せると尚美味しいが、無くても十分美味しい。
「あちっ!?」
「ハハッ、やっぱりシェリアは猫舌なんだな」
「むぅ、笑わないでくださいよ」
頬を膨らませ、小さな口でフーフーと冷ましながらハムサンドをシェリアは食べていく。
「この小屋は私のお爺様が生きていた頃に何度も来た場所なんです」
ハムサンドを食べる手を止め、シェリアはさっきの話の続きを始める。
「お爺様はよくここに狩りに来ていました。その頃はまだ小さく、お爺様にここに連れてきてもらい狩りをしている間、ここで絵本を読んでいました」
「さっき見たチューンボーグとかを狩っていたのか?」
「そうです、私が絵本を読んでいるといつも大きなチューンボーグを背負って帰ってきてました。そしてある日私がいつも通り絵本を読んでる時でした、お爺様が血まみれの姿で帰ってきて、ここも危険だったのでしょう、私を担いでアルタの私の家までなんとか送り届けたのですが、出血がひどくそのままお爺様は亡くなられてしまいました」
シェリアは悲しげな顔で一冊の絵本を手に取りパラパラとめくり始めた。
「そのお爺様を狙ったという魔物はその後討伐されたりしたのか?」
パタンと絵本を閉じ、シェリアは首を横に振る。
「いいえ、その魔物の正体はお爺様が伝えて、ギルドにも討伐依頼を出してみたりしたらしいのですが、帰ってくる冒険者の姿は無く、もう10年以上も経つのにまだ討伐されていない魔物です」
「その魔物の名前は?」
「一人だけ逃げ延びたお爺様がその名前を聞いたらしく、なんでもかなり高い知性を持った魔物で自分の名を『エイシャ』と名乗っていたといいます。金色の長い髪の妖狐であり、女性であったと」
「危険度Sクラスの魔物か…」
この世界の魔物は冒険者ギルドによってランク分けされている。
魔物は魔力の高い地に近ければ近いほどランクの高い魔物が生まれやすく、中でも突然変異として稀に異常な力を持った魔物が急に出現する場合がある。
ランクは危険度E~Sまであり、Sランクというのは、未だ討伐できない魔物を指すことが多い。
「その魔物は色々な所に現れ災害を振りまいているのです」
その場所に留まらない高い知性を持った魔物ならではだな…
「暗い話になってしまいましたね、ごめんなさい、でもアリア様には話しておきたかったんです」
真剣な顔でこちらを見据えるシェリア。
暖炉の火はゆらめき消えることは未だにない、それはシェリアの心の火もそうなのかもしれないな…
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?
あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】
世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。
「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる