魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

アルテア大陸

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 景色はうねる様に変わり、握った手からはシェリアの不安がわかるかのようにぎゅっと握られていた。
 長距離転移魔法のマジックアイテム、それは今まで誰しも夢見て開発されてきたものだ。
 だがその魔法は困難を極め、失敗は続き、誰も開発を進めようとはしなかった。

 それだけ難しく誰もが匙を投げた、ターナーさんはそのマジックアイテムを作り出すために命を削り、ただシェリアの為に作り出した。
 このマジックアイテムはいわばターナーさんの形見のような物だ。
 それをシェリアに話すのは心が痛いな。

 景色は様々移り変わりようやく固定される。

 どうやら目的地に転移できたみたいだ。

 ふと自分に降り注ぐ何かに気づく。


「雨が降っているのか…」


 上を見上げると木々の隙間から曇天が見え、パシャパシャと降り注ぐ雨が私たちを濡らす。
 周囲を見渡すとどうやらここは森の中らしい、草木が生い茂り、踏みしめる大地はぬかるんでいて、補装などされていない道のようだ。
 雨特有の草の濡れた臭いが鼻孔をくすぐる。


「もうここはアルテア大陸のようだな、ガルディア大陸は夏に入っているのにここはまだ雨季のようだ」

「そうですね、私が攫われる前は雨期に入ったばかりでした」


 シェリアは辺りをキョロキョロと見渡し、耳をピコピコと動かしている。


「…この辺り少し見覚えがあります、多分こっちです」


 私の手をくいっと引っ張り、繋いだまま歩き出そうとするシェリア。


「歩きづらくはないか? シェリア」


 地面は雨でぬかるんでいるし、補装もされてない獣道だ、手を繋いだままはシェリアは歩きにくいかと思い|尋ねた。


「え? ひゃわっ!?」


 手を繋いでることにようやく気付いたシェリアが慌てて手を放す。
 その顔はどこか赤く、仕草はずいぶん取り乱していた。


「ご、ごめんなさい! 繋いでるのを忘れてて」

「いや、いいよ、シェリアも不安になるのはわかる。私を兄のように頼ってくれてかまわないよ」

「兄… ですか…」


 ふいっと顔をそらし、少しむくれた顔をするシェリア。
 どうしたのだろうか、なにかまずいことでも言ってしまったか。

 シェリアは少し不機嫌になりながらも先導して前を進んでいく。

 この大陸はやはりガルディア大陸とは違うんだなと歩いていると思う。
 草や木もガルディア大陸には見かけない物ばかりだ、ガルディア大陸はどちらかというと巨木で、上のほうにしか葉がついていないものが多く、草花もどちらかというと小さい物が多かった。

 このアルテア大陸の植物は鬱蒼としていて、花も大きいものが多い。
 周囲を遮るかのようにはえる植物を手でかき分けながら前へと進む。

 なにもかもがガルディア大陸とは大違いだった。


「魔物です!!」


 シェリアが声をあげる、どうやらここの森の中に住む魔物が表れているらしい、私は疲労と雨音や周囲の変わった変化に気づくのが遅れてしまった。


 弓を取り出そうと次元収納に手を入れ、そこでハッと気づく。


「そうか、もう弓は引けないんだったな」

「アリア様…」


 悲痛な表情でシェリアは私を見る。
 弓は片手では引けない、そんなことさえ忘れていたのか。


「アリア様、ここは私に任せてください!この辺りの魔物の生態系はわかっていますから」


 シェリアが次元収納から弓を取り出し、魔法を紡ぐ。


「コンセントレイト、ウインドエレメント」


 集中力強化に風魔法付加か。
 シェリアは目を閉じ、弓を引き絞り、耳を澄ませる。

 雨音に紛れ、何かがこちらに向かってきているのがわかった。

 弓から放たれた矢は甲高い音を鳴らしながら、鬱蒼とした植物を吹き飛ばし、一直線に進んだ。


「グブッ…」


 矢は見事魔物に命中し、どさりとその体を地に倒した。


「あれは、チューンボーグと呼ばれる猪に似た魔物です。この辺りじゃ珍しくない魔物ですね」

「そうか、それにしてもシェリアの耳はいいな、私は雨音と草木の擦れる音が邪魔をしてなかなか居場所が掴めなかったというのに」

「元々獣人族の人達は耳がいいんです。さっきはより正確な場所がわかるように魔法で補助もしましたけど」


 照れたように笑うシェリア、次元収納に弓をしまい、続けて私に話しかける。


「それと、初めて魔物を倒せました。今までは逃げるだけだったのに、戦えるようになった今がとても嬉しいんです」

「そうか」


 おもむろにシェリアの頭を撫でる。


「ふぁああ、ちょ、ちょっと待ってください!」

「あっ、すまない、嫌だったか?」

「嫌じゃないです… けど…」


 しまったな、ついシェリアの頭を撫でてしまう癖があるな、どうにも可愛らしく動く猫耳を見ると撫でたくなってしまう。
 シェリアの頭から手を離し、さっき仕留めた魔物のほうへ歩き出す。

 濡れた地面に横たわるチューンボーグは思ったよりも大きくはなく、これなら次元収納にも入りそうだった。


「それを持っていくのですか?」

「ああ、食料は私は入れていなかったからな、ちょうど魔物がいて良かったよ」

「一応食料は次元収納に入れてありますけど足らなくなるよりいいですね」

「そうかさすがだな、私は急だったもので失念していたよ」


 逃げるので精いっぱいだった私はそんな基礎も抜け落ちていたのか。


「あとは、この辺りにしばらく住める場所があればいいのだが」

「それなら問題ないですよ!場所がようやくわかりました、ここをもう少し歩けば小屋があるはずです」

「わかった、今日はとりあえずそこを目指そう」

「はいっ!」


 ぬかるむ道を進む、周囲も暗くなってきていて夜が近いのが分かった。
 雨は一向に止むことは無く、未だに体を濡らしていく。


「くちゅん!」

「大丈夫か?」


 可愛らしいくしゃみをしたのは前を歩くシェリアからだ。
 どうやら急な雨で冷えたのかもしれないな。


「だ、大丈夫です」


 気丈に振る舞うシェリアだが、そうもいってられないな、早く小屋が見つかるといいのだが…


「あっ!ほら、ありましたよ!」


 草木をかき分けた先に小さい小屋があり、シェリアは小屋に向かって駆けていく。

 見たところ誰も今は使っていない少し廃れている木造の小屋だった。


「まだあったんだ、この小屋」


 シェリアは懐かしむように小屋の柱を触る。


「シェリアはここに来たことがあるのか?」

「はい、昔、おじい様と一緒に来たことがあって、だいぶ小さい頃だったからもう無くなってると思ってました」

「そうか、まだ残っていてよかったな、これなら雨風も凌げそうだ」


 廃れてはいるものの、壊れてる事はなくこれならとりあえず一晩安心して眠れそうだ。


「はい…」

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