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第一章 ガルディア都市
新たな大陸へ
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人は生きる上で多くの人の助けを経て生きている。
それはなんてことのない当たり前のことだ。
ただ、私は他の人よりも少しだけ多く助けを貰っていたみたいだ。
昔トリシア団長に言われた事があったな。
ーーーーーーー
ーーーー
ー
「君は、不思議な魅力を持っているな」
それは敗戦兵の救護にあたっていた時の事だったか。
皆酷い傷を負い、それでもなんとか安全なところまで逃げてきて命は助かったが、その騎士たちの心は荒んだものだった。
それは救護のテントに運ばれてくるものも例外ではない。
戦場の少し離れた所に簡易な急ごしらえのテントを張り、私たちは何人も怪我人の手当てに当たっていた。
「ぐぁあああ!!痛ぇえ!!」
運ばれてきたその男は、火炎魔法にやられたのだろう、足に大きな火傷と裂傷を負っていた。
「落ち着いてください!カナリア!回復魔法を頼めるか?」
「わかったわ!ハイヒール!」
白い光が怪我をした騎士の傷口を塞ぐ。
「…っつ 嘘みたいに痛みが消えた?」
「これは一時的なものでしかないので、塗り薬と包帯を巻かせていただきます」
塞がった傷口に塗り薬を塗っていくと、ふと男からほうと関心の声があがる。
「…あんちゃんずいぶん手際がいいな、それに普通こういうのは雑にやって数をこなすもんだろ」
「いえ、誰しも大切な家族の為に戦ってるんです。全力を尽くすのは当たり前です。私にも守りたい家族がいますから」
男は私を見ると悲痛な顔をし、治療中の私の手を払いのける。
「そうか、でも俺にかまうのはもうやめて他に行きな、ここに運ばれたときに安心しちまったんだ。もう戦わなくていいんだってよ、俺は仲間を置いて逃げたんだ!!そんな奴にこれ以上何かしてもらうわけにはいかねえよ」
この男がどういう状況でここに来たのかは私にはわからない、でも…
「誰しも戦うのは怖いです。逃げたっていいじゃないですか、あなたの命はあなただけの物です。誰も責めません、家族はあなたの命が一番大事に思っているはずですから」
この人も怖いんだ、長く戦いの場に身を置いた人でさえ、戦いに恐怖してしまうんだ。
なんの目的の為に戦わされているのかもわからず、一緒に来た仲間はどんどん死んでいってるはずだ、実際ここに運ばれてくる人たちにはもう手の施しようのない人も大勢やってきている。
もう十分だろう、この人の手はわずかに震えている、辛いことがきっと何度もあったんだろう。
「…お前は他のやつとは違うんだな、戦えと言わないんだな」
「終わりましたよ、しばらく安静にしてください、辛い思いはもう十分したでしょうから、報われてもいいと私は思います」
男は唇を噛みしめ、顔を伏せた。
いったいこの戦争はいつ終わりを迎えるのだろうか。
「アリア!!次急いで!」
カナリアの声にハッと我を取り戻した。
「ああ」
次に運ばれている人を治療するため私も場所を移した。
そして全ての治療を終え、一息入れた時だった。
「アリア、ちょっといいか?」
「なんですか?トリシア隊長」
その当時トリシアさんは私の直属の隊長であった。
トリシアさんに呼ばれ、テントの外の人目の無いところまで移動する。この戦場は岩場が多くテントもそんな岩を隠れ蓑になるように張られていた。
「君はどんな騎士になりたいんだ?」
トリシア隊長は唐突に質問してくる、その表情は鋭く、間違えてはいけない、そんな雰囲気を出していた。
「私は、家族を守る騎士になりたい、ただそれだけです」
「少し君は優しすぎる、いつかそれがあだとなる日がきっと来るぞ、優しいだけじゃ何も救えない。変わることも必要だと私は思うぞ」
厳しめの口調でトリシアさんは語り掛ける。
それはわかっている。足元を掬われると何度も言われてきた。だけど…
「それでも私は、私が夢に抱く騎士は、ヒーローとして人々を守る騎士なんです!!」
呆れた顔で顔に手を当ててトリシアさんは笑う。
「っはは、まったくブレないんだな、君は、だから多くの人が君の手助けをしたくなるのかな?」
助けられてきたことなどいままでにあっただろうか? つい疑問の声が口からでてしまう。
「手助け、ですか?」
トリシア隊長はやや呆れた顔をしたが、何かに納得し、指を差し、私に語り掛ける。
「君は不思議な魅力を持っているな、つい応援したくなるし手助けをしたくなる。その真っ直ぐな性格がそうさせているのかはわからない、ただ君だけは変わらないでいてくれる、手を差し伸べてくれる、そんな安心感があるんだよ」
そんなこと思ってもみなかった。
「……」
「隊長になりなさい、アリア」
「えっ!?」
唐突なトリシア隊長の言葉につい間抜けな声が出てしまう。
「君はかなりの努力をしているのを知っているし、実力も申し分ない、その点でいえばカナリアも隊長になれる器を持っているな、二人とも私が推薦しておくから、隊長になってまだ見ぬ騎士を育ててやってくれ、君の教えなら安心できる」
「隊長…ですか」
「不安かい?だったらいろんな人に頼りなさい、助けなさい、そうしたらきっと君を助けてくれるよ、困ったことがあったら私に言いいなさい、もうアリアも私の立派な家族なんだからな」
繋がり、絆、なんてものは今までに感じるのはセレスしかいなかった。
「家族…」
「そうだ、家族だよ、これだけ長い時間過ごしてきているんだ。君もカナリアも私の守るべき家族の一員っていうわけだよ」
照れたように朗らかに笑うトリシア隊長。
私もそんな家族になれたことを嬉しく思う。
ーーーーーーー
ーーーー
ー
朗らかな笑顔で笑うターナーさんはどこか大人びて見えた。
そうか、あの時のトリシアさんと同じ雰囲気をしているんだな。
家族、か…
「お待たせしました!」
鎧を着て茶色のロングコートを着込んだシェリアが奥の部屋から駆けてきた。
「それじゃあ、揃ったことだし行こうか」
ターナーさんはふいっと踵を返すと私たちに案内するかのようにいつも私とシェリアが模擬戦をする部屋に歩いていた。
部屋に入ると中央には空間に穴が開いているかのように黒い歪が生まれていた。
「安心して、もう座標は設定してあるから。それとこれをシェリアちゃんは持っていて」
「はい」
シェリアがターナーさんから受け取った物は世界地図のようなものであった。
「これは隠蔽魔法も入ってるから普通の世界地図に見えるかもしれないけど、今この部屋の中央にある長距離転移魔法が入ってるマジックアイテムだよ。このままじゃただの世界地図だけど、この地図を持って行きたい場所に指を置き、『我、世界を旅する旅人なり』と言うとこんな感じに発動する仕組みになってるから」
「はい、覚えておきます」
「魔法が起動して歪に入る際は手を繋ぐことで連れていく人数が変動できる、そして歪に入った瞬間このマジックアイテムは壊れる仕組みだよ」
ターナーさんが説明をする姿はまるで妹に勉強を教える姉のような姿で、その表情はとても楽しそうに、嬉しそうに見える。
「すごいです!ターナーさんはやはり天才ですね!!」
「!?」
ターナーさんは一瞬動きを止め、おもむろにシェリアの頭を撫でだした。
「わっ!? わっ!? ど、どうしたんですか?」
わしわしとシェリアの頭を撫でるターナーさんの顔はこちらからは伺うことができない。
「なんでもないよ、さあ、早く行くんだ」
その行動が全て物語っていたのだから。
「シェリア、行こうか」
「は、はい」
シェリアの手を取り、歪みへと向かう。
「ありがとう、ターナーさん、君のことは絶対に忘れない!」
決して振り返りはせず、ただ見ているであろうターナーさんに語り掛ける。
「ありがどう、僕に… 生きる意味をのごじでぐれて…」
それは振り向かなくてもわかる姿だったから、これはターナーさんとの最後の別れだ。
「え? それは…」
シェリアが気づく前にその手を取り歪に入る。歪の中は私達が入ると色を変え、景色が変わっていくのが分かった。
もうあの場所には戻ることはないと。
ーーーーーーー
歪が消失し、その部屋には壊れたマジックアイテムと体を抱え泣く一人の少女だけが取り残された。
僕は最後にシェリアちゃんと話した言葉を思い出していた。
シェリアちゃんは満面の笑みで私に向かい。
「すごいです!ターナーさんはやはり天才ですね!」
『すごい!!お姉ちゃんはやっぱり天才だよ!!』
失った妹から言われたのと同じ言葉。
アリアさんはすでに気づいたのだろう、その泣き顔を見られないように気を使ってくれた。
「ぅうう… カナぁ… お姉ちゃんがんばっだよう… がんばっで… いぎだよ…」
体を抱え、少女は思い出を繰り返し何度も思い出す。
最後の瞬間を迎えるまで…
それはなんてことのない当たり前のことだ。
ただ、私は他の人よりも少しだけ多く助けを貰っていたみたいだ。
昔トリシア団長に言われた事があったな。
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「君は、不思議な魅力を持っているな」
それは敗戦兵の救護にあたっていた時の事だったか。
皆酷い傷を負い、それでもなんとか安全なところまで逃げてきて命は助かったが、その騎士たちの心は荒んだものだった。
それは救護のテントに運ばれてくるものも例外ではない。
戦場の少し離れた所に簡易な急ごしらえのテントを張り、私たちは何人も怪我人の手当てに当たっていた。
「ぐぁあああ!!痛ぇえ!!」
運ばれてきたその男は、火炎魔法にやられたのだろう、足に大きな火傷と裂傷を負っていた。
「落ち着いてください!カナリア!回復魔法を頼めるか?」
「わかったわ!ハイヒール!」
白い光が怪我をした騎士の傷口を塞ぐ。
「…っつ 嘘みたいに痛みが消えた?」
「これは一時的なものでしかないので、塗り薬と包帯を巻かせていただきます」
塞がった傷口に塗り薬を塗っていくと、ふと男からほうと関心の声があがる。
「…あんちゃんずいぶん手際がいいな、それに普通こういうのは雑にやって数をこなすもんだろ」
「いえ、誰しも大切な家族の為に戦ってるんです。全力を尽くすのは当たり前です。私にも守りたい家族がいますから」
男は私を見ると悲痛な顔をし、治療中の私の手を払いのける。
「そうか、でも俺にかまうのはもうやめて他に行きな、ここに運ばれたときに安心しちまったんだ。もう戦わなくていいんだってよ、俺は仲間を置いて逃げたんだ!!そんな奴にこれ以上何かしてもらうわけにはいかねえよ」
この男がどういう状況でここに来たのかは私にはわからない、でも…
「誰しも戦うのは怖いです。逃げたっていいじゃないですか、あなたの命はあなただけの物です。誰も責めません、家族はあなたの命が一番大事に思っているはずですから」
この人も怖いんだ、長く戦いの場に身を置いた人でさえ、戦いに恐怖してしまうんだ。
なんの目的の為に戦わされているのかもわからず、一緒に来た仲間はどんどん死んでいってるはずだ、実際ここに運ばれてくる人たちにはもう手の施しようのない人も大勢やってきている。
もう十分だろう、この人の手はわずかに震えている、辛いことがきっと何度もあったんだろう。
「…お前は他のやつとは違うんだな、戦えと言わないんだな」
「終わりましたよ、しばらく安静にしてください、辛い思いはもう十分したでしょうから、報われてもいいと私は思います」
男は唇を噛みしめ、顔を伏せた。
いったいこの戦争はいつ終わりを迎えるのだろうか。
「アリア!!次急いで!」
カナリアの声にハッと我を取り戻した。
「ああ」
次に運ばれている人を治療するため私も場所を移した。
そして全ての治療を終え、一息入れた時だった。
「アリア、ちょっといいか?」
「なんですか?トリシア隊長」
その当時トリシアさんは私の直属の隊長であった。
トリシアさんに呼ばれ、テントの外の人目の無いところまで移動する。この戦場は岩場が多くテントもそんな岩を隠れ蓑になるように張られていた。
「君はどんな騎士になりたいんだ?」
トリシア隊長は唐突に質問してくる、その表情は鋭く、間違えてはいけない、そんな雰囲気を出していた。
「私は、家族を守る騎士になりたい、ただそれだけです」
「少し君は優しすぎる、いつかそれがあだとなる日がきっと来るぞ、優しいだけじゃ何も救えない。変わることも必要だと私は思うぞ」
厳しめの口調でトリシアさんは語り掛ける。
それはわかっている。足元を掬われると何度も言われてきた。だけど…
「それでも私は、私が夢に抱く騎士は、ヒーローとして人々を守る騎士なんです!!」
呆れた顔で顔に手を当ててトリシアさんは笑う。
「っはは、まったくブレないんだな、君は、だから多くの人が君の手助けをしたくなるのかな?」
助けられてきたことなどいままでにあっただろうか? つい疑問の声が口からでてしまう。
「手助け、ですか?」
トリシア隊長はやや呆れた顔をしたが、何かに納得し、指を差し、私に語り掛ける。
「君は不思議な魅力を持っているな、つい応援したくなるし手助けをしたくなる。その真っ直ぐな性格がそうさせているのかはわからない、ただ君だけは変わらないでいてくれる、手を差し伸べてくれる、そんな安心感があるんだよ」
そんなこと思ってもみなかった。
「……」
「隊長になりなさい、アリア」
「えっ!?」
唐突なトリシア隊長の言葉につい間抜けな声が出てしまう。
「君はかなりの努力をしているのを知っているし、実力も申し分ない、その点でいえばカナリアも隊長になれる器を持っているな、二人とも私が推薦しておくから、隊長になってまだ見ぬ騎士を育ててやってくれ、君の教えなら安心できる」
「隊長…ですか」
「不安かい?だったらいろんな人に頼りなさい、助けなさい、そうしたらきっと君を助けてくれるよ、困ったことがあったら私に言いいなさい、もうアリアも私の立派な家族なんだからな」
繋がり、絆、なんてものは今までに感じるのはセレスしかいなかった。
「家族…」
「そうだ、家族だよ、これだけ長い時間過ごしてきているんだ。君もカナリアも私の守るべき家族の一員っていうわけだよ」
照れたように朗らかに笑うトリシア隊長。
私もそんな家族になれたことを嬉しく思う。
ーーーーーーー
ーーーー
ー
朗らかな笑顔で笑うターナーさんはどこか大人びて見えた。
そうか、あの時のトリシアさんと同じ雰囲気をしているんだな。
家族、か…
「お待たせしました!」
鎧を着て茶色のロングコートを着込んだシェリアが奥の部屋から駆けてきた。
「それじゃあ、揃ったことだし行こうか」
ターナーさんはふいっと踵を返すと私たちに案内するかのようにいつも私とシェリアが模擬戦をする部屋に歩いていた。
部屋に入ると中央には空間に穴が開いているかのように黒い歪が生まれていた。
「安心して、もう座標は設定してあるから。それとこれをシェリアちゃんは持っていて」
「はい」
シェリアがターナーさんから受け取った物は世界地図のようなものであった。
「これは隠蔽魔法も入ってるから普通の世界地図に見えるかもしれないけど、今この部屋の中央にある長距離転移魔法が入ってるマジックアイテムだよ。このままじゃただの世界地図だけど、この地図を持って行きたい場所に指を置き、『我、世界を旅する旅人なり』と言うとこんな感じに発動する仕組みになってるから」
「はい、覚えておきます」
「魔法が起動して歪に入る際は手を繋ぐことで連れていく人数が変動できる、そして歪に入った瞬間このマジックアイテムは壊れる仕組みだよ」
ターナーさんが説明をする姿はまるで妹に勉強を教える姉のような姿で、その表情はとても楽しそうに、嬉しそうに見える。
「すごいです!ターナーさんはやはり天才ですね!!」
「!?」
ターナーさんは一瞬動きを止め、おもむろにシェリアの頭を撫でだした。
「わっ!? わっ!? ど、どうしたんですか?」
わしわしとシェリアの頭を撫でるターナーさんの顔はこちらからは伺うことができない。
「なんでもないよ、さあ、早く行くんだ」
その行動が全て物語っていたのだから。
「シェリア、行こうか」
「は、はい」
シェリアの手を取り、歪みへと向かう。
「ありがとう、ターナーさん、君のことは絶対に忘れない!」
決して振り返りはせず、ただ見ているであろうターナーさんに語り掛ける。
「ありがどう、僕に… 生きる意味をのごじでぐれて…」
それは振り向かなくてもわかる姿だったから、これはターナーさんとの最後の別れだ。
「え? それは…」
シェリアが気づく前にその手を取り歪に入る。歪の中は私達が入ると色を変え、景色が変わっていくのが分かった。
もうあの場所には戻ることはないと。
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歪が消失し、その部屋には壊れたマジックアイテムと体を抱え泣く一人の少女だけが取り残された。
僕は最後にシェリアちゃんと話した言葉を思い出していた。
シェリアちゃんは満面の笑みで私に向かい。
「すごいです!ターナーさんはやはり天才ですね!」
『すごい!!お姉ちゃんはやっぱり天才だよ!!』
失った妹から言われたのと同じ言葉。
アリアさんはすでに気づいたのだろう、その泣き顔を見られないように気を使ってくれた。
「ぅうう… カナぁ… お姉ちゃんがんばっだよう… がんばっで… いぎだよ…」
体を抱え、少女は思い出を繰り返し何度も思い出す。
最後の瞬間を迎えるまで…
応援ありがとうございます!
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