魔法力0の騎士

犬威

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第一章 ガルディア都市

side カナリア=ファンネル ~戦いの果て~

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  ここはガルディア都市南区、戦いは私の想像を遥かに超えるものとなっていた。

 周囲には土埃が舞い、瓦礫があたりに落ちていく。
 商業区の一角でいくら人がここにはいないからといってやりすぎにもほどがありますわ。


「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だぞカナリア、すでに避難も終えているし、ここの工場は元々壊す予定のあったところだ」

「テオさんもそれをわかっていましたのね」

「ああ、手回しといい、さっきから随分手加減してくれているみたいだしな」


 フルプレートメイルを着こんだトリシア団長が銀色の装飾の施されたハルバードを手に持ち私の方へ歩いてくる。
 その後ろでは大きなクレーターが地面を穿ち、そのクレーターの中心にテオさんがボロボロの姿で膝を付いていた。


「手加減!?」

「ああ、こいつの実力はこんなもんじゃないはずだよ、それに今から止めを刺すはずのアリアにそんな顔でいるのはおかしいんだよ」

 それはテオさんに会った時に私も思った事。
 今から止めを刺そうというのになぜこの人はこんなにも悲しい顔をするのだろうかと。


「……」

「なにも答える気はないのか」

「ここを去れ」


 肩で息をするテオさんは振り絞った声でそう伝えてきた。
 テオさんはもしや事情があるのではないのかしら、テオさんとアリアの実力はあまりにもかけ離れている、それは今の団長同士の戦いを見た後なら明らかにわかるわ。

 それなのに殺すはずだったアリアにも手加減をした理由はなぜ?


「っつ!? …君も守るために必死なのだな…」

「……」


 トリシアさんは何か悟ったのだろうか?、いや違う、あれは『シーレス』でのやり取りですわ。
 トリシアさんの顔は鉄製のヘルムで表情はいまいち把握できないが、その声からは悲痛が混じっている。


「わかった… 君の…」

 
「無様なモノだなテオよ」

「「「!?」」」

 どこからともなく響く声に思わず身構える。
 それは高等な闇の転移魔術、テオさんのいる地面が歪み、闇が立ち上る。その中から一人の男が出てきた。


「アルバラン=シュタイン!!」


 赤いフルプレートを着込んだ全盛期の完全武装のアルバラン=シュタインが闇の中から現れ出る。


「なんだ?こんなものか?テオ、君には失望したぞ?命令一つまともにこなせないのか」


 アルバランは軽蔑したような視線をテオさんに向け呆れた声をもらす。


「この場から早く立ち去れ!!!!」


 テオさんがさっきまでの感じとは違う、必死な声で叫ぶ。


「行くぞカナリア!!カルマンを連れ、この都市から出る!!」

「いったい何が!?」

「考えてる時間がない!ハイスピーダー!!行くぞ!!」

「わ、わかりましたわ!ハイスピーダー!!」


 強化魔法を施し、カルマンの戦っているほうへ戻ろうと足を踏み出す。
 爆発的な速度で加速する。


「私が許すわけがないだろう」

「嘘!?」


 強化魔法を施し、スピードを上げた私たちの前に瞬間移動したかのように目前に現れる。
 そのままアルバランは漆黒の剣を音もなく抜き放ち、私たちを一刀両断…


「ぅおおおおおおおおおお!!!」

「私に歯向かうというのか?テオ」


 されなかった。
 直前に飛び込んできたテオさんが私たちを突き飛ばし、剣を持ってその脅威の一撃を防いでいてくれた。


 死んでいた。

 あのままテオさんがかばっていてくれなかったら確実に…


「しっかりするんだ!カナリア!!走るぞ!!」

「は、はい…」

 トリシアさんに起こされ、無我夢中で走る。
 いったい何なのよ… 何が起こっているのよ…



 ーーーーーーーーーーーーーー



「君はまた私に歯向かったのだな」

 漆黒の剣と紫電をまとった剣は互いに押し合い、拮抗していた。
 しているように見えた。

「ぐっ、ぉあああああ!!!」

「だが、残念だテオ、君にはもう使い道は無くなったよ」

「がぁあああああ!!!」

 テオは必死に攻撃を打ち込む、その攻撃は達人の域にすでに達し、雷撃の恩恵もあってかスピードも桁外れに早い。

 だが、片手一本で攻撃を裁くアルバランにとっては遊びにも等しかった。


「ぁああああ!!トールサンガー!!!」

 テオは片手を天に掲げ、魔力を一点に集める。
 街中で使うような魔法ではない超高等雷撃魔法。
 空中に紫電が収束し、神の雷の如く降り注ぐ。
 轟音が響き渡り、その大きなレーザーのような雷撃は本来なら地面に大きなクレーターを穿つはずの威力だった。


「なかなかよい攻撃だ、だが、この程度造作もない」


 漆黒の剣を天に向かい一振り。

 ただそれだけで神の雷は瞬く間に離散し、空中に掻き消えた。


「なっ!?」


 テオは驚きを隠せなかった、それもそのはずだ、渾身の魔力を込めて放った超級の雷撃魔法を一瞬でかき消したのだから。
 そして何でもないことのように淡々とアルバランは話す。


「これはなテオ、【魔法無効】という便利な異世界人の能力だ」

「ぐっ!!まだだ!!」


 テオは弓を瞬間的に放ち、地面を爆ぜるように駆け抜け、拳に雷撃を纏わせ、果敢に攻める。
 だが、さっきまでいた位置にいるアルバランは掻き消えるようにすでにおらず、矢は建物を破壊し、テオ自身もその姿を見失っていた。


「これもな、【空間転移】という異世界人の能力だよ」

「がはっ!? どこで… そでを…」


 背中から聞こえた声に振り向けないまま、えぐる様にテオの左腕は地に落ちた。


「がぁあああああああ!!!」


 血はとめどなく溢れ出るが、雷撃を纏わせた右腕で左腕の付け根を焼き、無理矢理血を止める。


「知る必要などない」

「ぐぅおおおお!!」


 右腕で剣を振り、鋭い蹴りを繰り出すがどれもアルバランに届くことはない。
 それに比べアルバランの剣は体を何度も撫でるように切られ、その度に鮮やかな鮮血をまき散らしていく。


「無様なものだな、あの時とまったくお前は変わっていない、あの時死んだ巫女と同じく愚かだ」


 その言葉はテオの逆鱗に触れるには十分だった。


「貴様ぁあああ!!!アリア様を侮辱するなぁあああああ!!!!!」


 雷撃を纏った剣は音速を超え、その巨体から繰り出す攻撃は地形をも変貌させる。


「怒り、なんとも愚かで、浅はかだ、その感情はもう貴様には不要だな」


 ひらりと風に舞う羽のごとくテオの渾身の一撃を躱し、右腕でテオの頭を掴むとそのまま地面に叩きつけた。
 凄まじい衝撃と轟音が轟く。

 あの巨体であるはずのテオが弄ばれ、地に落ちる。


「おい、*****、早く書き換えろ」

「はい」


 突如として現れた黒いフードを被った人物は手をかざし、異能を発動させる。
 白い光がテオを覆い、収束し離散する。

 黒いフードを被った者はおもむろにアルバランに声をかけた。


「どうしますか、奴らを追いますか?」

「よい、奴らが策をろうじたところで何も変わりはしない、放っておけ」

「はい」

「こいつはこれまで通り最前線で戦わせる。傷は治しておけ」

「はい」


 アルバランは闇の高等転移魔法を起動し、その中に入っていく。
 その場に残った黒いフードを被った者はテオの傷を治し、テオごと闇の高等転移魔法でいずこかに消えていった。

 そこには大きな血だまりと瓦礫が残るだけであった。






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