56 / 104
第二章 アルテア大陸
一冊の絵本
しおりを挟む「君はこの世界が好きかい?」
耳元でふと優しい声が囁かれた気がした。
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーー
気が付くと雨音はいつの間にか弱くなっていて、窓から見える空は相変わらずの曇天。
だがどうやら既に朝になっているようだ。
「そうか、あの後寝てしまったんだな」
扉の前に座るようにして眠っていたので所々節々が痛んだが、十分な睡眠はとれたみたいだ。
「寒いな…」
肌寒さを感じ、よく目を凝らすと暖炉の火が既に消えかかっていた。
私も魔法が使えていれば暖炉に火をともすこともできたのだが……
こんなことを思うのは小さい頃から変わらない。
今や魔法の力無しでは生活ができないように、当たり前のように魔法は生活の一部となっている。
こういった暖炉や調理器具なんかは全て魔法を前提として作られている。
『魔法が使えない人』用、なんてものはそもそも存在していないのだ。
無いものは無い。
(魔法が使えない)私にとってこの世界で生きていくためには、どうしても他の人の力を借りなければならない。
もう慣れすぎてしまっているからな…
体を起こし、次元収納から着替えを引っ張り出す。
ほんとにターナーさんが作った物には助けられてばかりだな…
この次元収納も手荷物を減らしたいと頼んだからできた物だ。
作り主がいなくなってもこの武器やマジックアイテムは無くなったりしない。
そうやってターナーさんもお爺さんが作ったマジックアイテムを何個か持っていた。
形に残る。その人の思い出に残る。それは作り手にはかけがえのないものだとターナーさんが以前教えてくれた。
ほんとに貰ってばかりだったな…
あー、一人で考え込むと感傷的になってしまっていけないな。
引っ張り出した服に着替えながら、昨日の事を思い出す。
あの後少しシェリアと話をして、ソファーをシェリアに譲り、疲れもあったので早めに休むことになったんだったな…
昨日の夜はあんなに豪雨だったが、窓を見ると今は雨も落ち着いていて、今日なら色々と歩き回れそうだ。
ちらりとシェリアの方を見るとまだ寝ているらしく、上にかけてあったであろう布が落ちてしまっていた。
シェリアが風邪を引いてしまわないように落ちていた布を拾い、再びシェリアにかける。
「ん… むぅ…」
シェリアは身じろぎし、可愛らしい寝息を漏らす。
疲れているもんな、まだ寝かせておこう…
離れようと動くと、くいっと服を引っ張られる。
「…!?!」
「…布と間違って私の服を掴まれると私も動けないんだがなぁ…」
シェリアが寝ぼけていたのだろう私の服の裾を掴み、離そうとしない。
起こすのもアレだしな…
仕方ない…な…
シェリアが寝ているソファーに、寄りかかる形で私も座りなおす。
これなら起こしてびっくりさせる心配もないだろう。
ふと昨日シェリアが読んで懐かしがっていた一冊の絵本が、テーブルの上に置いてあるのが目についた。
手に取り、表紙を眺めると可愛らしい白いクマのようなケモッテ(獣人)とお姫様のような恰好をしたアンバー(鳥類人)が仲良く花冠を付け合っている。
絵本のタイトルは可愛らしい文字で『アルテア物語』と書かれていた。
表紙をめくり、絵本を開いてみる。
ーーーーーー
『アルテア物語』
むかし、むかし、とある村に一人の白いクマのじゅうじんが生まれました。
ちちおやも、ははおやも茶色いかみ色をしているのに、その子だけ真っ白なかみ色でした。
ちちおやも、ははおやも悲しみ、しゅういの人たちからは、いかりや、きょうふの目でその子を見ていました。
「この子はきっとこの村にわざわいをもたらす」
「なんでこんな子が生まれた」
「そんな子供すててしまえ」
まわりからのことばはどれも喜ばしいものではありませんでした。
それもそのはずです。
村には白いかみのひとは一人もいないのです。
ちちおやは村を出ることをやくそくし、かぞく3人は村から出て、旅をすることになりました。
ちちおやはひっしにはたらいてその日のお金をかせぎ、ははおやは真っ白なわが子をまもるためにいつもいっしょにいました。
そんな生活が7年つづきました。
生活はいっこうに楽になるけはいはなく、まずしいものでした。
7さいになった白いクマの子は、ある日ははおやにききました。
「なんで毎日いどうしなきゃならないの?」
「あなたが白いからよ」
ははおやのかおは日に日にやつれていて、そのひょうじょうはつめたいものでした。
「なんで白いといどうしなきゃいけないの?」
「白いとみんなこわいのよ」
「どうして?」
「ふつうじゃないからよ」
それでも白いクマの子はははおやにききました。
「ふつうじゃないとみんないじめてくるの?」
「そうよ、みんな… こわいから」
「じゃあなんでわたしはふつうにうまれなかったの?」
そのことばをきいたははおやは、白いクマの子のほほをなんどもはたきました。
「いたい、やめてよ」
それでもははおやはぶつのをやめません。
ははおやはもうずいぶんまえから、こころがよわっていたのです。
げんかいだったのです。
なきながらははおやからにげたクマの子は、ひとり森のなかでうずくまっていました。
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
そこに一人のアンバーの女の子が泣いているクマの子のそばに歩いてきました。
「こないで、あなたまできらわれちゃう」
白いクマの子はしっていました。
ははおやや、ちちおやがいじめられるのはじぶんがいるせいだと。
「きらわれる? どうして?」
「わたしはふつうのかみじゃない!」
この子はそんなわたしも気にかけてくれるやさしい子なのです。
そんな子がいじめられてしまうのはなきたくなるくらい、白いクマの子はいやだったのです。
「こんなにきれいな色をしてるのにどうして? わたしはきみのかみ、すきだよ!」
はじめてでした。
おそれられ、いやな目をむける人たちもいましたが、そんなことばをかけてくる子はいままでいなかったのです。
ははおやにも、ちちおやにも、言われたことなどなかったのです。
「きみの名前は?」
名前、そこで白いクマの子はじぶんに名前がないことに気づきました。
当たり前のようによばれる名前、この白いクマの子は名前すらつけてもらえなかったのです。
「名前… ない…」
「なら、わたしがつけてあげる!」
まぶしい笑顔でアンバーの少女は言います。
「キレイな白いかみだから、『シロ』、どうかな?」
しろいのはみんなきらいます。
白いクマの子も白がきらいでした。
でも、そのアンバーの少女は違いました。
しろいかみがすきだと言ってくれます。
白いクマの子はすこしだけ、白もすきになれそうでした。
「…うん」
「きまりだね!今日からきみの名前は『シロ』だよ!」
白いクマの子は、むねにあたたかいものが広がる気がしたのです。
いままで感じなかった、ぬくもりを白いクマ『シロ』は感じました。
「これはきみの名前のおいわい!」
アンバーの少女は手に持っていた色とりどりの花をつかったおうかんを、シロにかぶせました。
「あげる!わたしの名前は『フィー』。これからよろしくね!シロ!」
白いクマのシロはとてもよろこびました。
なぜなら、はじめて友達ができたからです。
「うん!ありがと… フィー!あ!ちょっと待って」
シロはしゃがみ込み、さいている花をつんで花かんむりをつくると、フィーの頭にのせてあげました。
「これはフィーのぶん、友達のしるし」
フィーもよろこび、二人は笑顔で笑いあいました。
「それじゃあシロの家までいっしょにいこうか」
「うん …おかあさんまだおこっていないかな?」
「だいじょうぶ、あたしがそばにいてあげるよ」
「ありがと!」
二人は手をつないで、シロがいた村までもどることになりました。
村につくとあいかわらずまわりの人たちからはいやな目をむけられます。
「いやだねぇ またもどってきたよ」
「あの子もかわいそうに」
そんなひどいことばもあちらこちらから聞こえてきます。
そのたびに白いクマのシロは悲しいきもちになっていきます。
シロはつないでいた手をふりほどき、かなしい顔でフィーに話しかけます。
「フィーもわるく言われちゃうから、わたしが一人でいくよ」
白いクマの子はなれていました。
それでもわたしよりフィーがわるく言われるのだけはつらかったのです。
するとフィーはシロの手をふたたびつよいちからでにぎります。
「シロはなにもわるくないじゃない!!」
フィーはおこった顔であたりをみわたします。
「この子がいったい何をしたって言うのよ!!!」
フィーはしゅういの人たちに向かってさけびました。
「あなたたちがきらうこの子は、いったいあなたたちに何をしたというのよ!!!」
フィーはどうどうとしていて、しゅういの人たちにむかっておこりました。
しゅういの人たちはさらにいやな顔をフィーにむけると、それぞれの家に帰っていきました。
「どうしてこんな人たちばっかり…」
フィーはため息をつき、ふたたび力強い足取りで、歩き出しました。
最初は驚いていたシロでしたが、つないでいたうでをひっぱられ、またフィーといっしょに歩き出します。
しばらく歩くとシロの住んでいる家につきました。
きんちょうした顔で入るのをためらっていると横からフィーが笑いかけます。
「だいじょうぶ、わたしがついてるよ」
それは何よりも心強いことばでした。
「ありがとう」
扉に手をかけ、中に入るとシロはことばをうしないました。
そこには住んでいた荷物も、ははおやもいなかったのです。
シロをのこしてははおやも、ちちおやもどこかへ行ってしまったのです。
シロは泣きました。
声を上げて泣きました。
それでもははおやとちちおやは、かえってくることはありません。
となりにいたフィーはいかりをあらわにして言います。
「あなたは何もわるくない!!!わるいのはこの世界だよ!!」
にぎった手をはなさないようにシロの顔をしっかり見て話します。
「わたしの家に行こう、シロ」
「でも、きっとめいわくになるよ」
「そんなことない!!シロはめいわくなんかじゃないよ!!」
いつのまにかフィーも泣いていました。
「どうして、フィーが泣いているの?」
シロはふしぎでした。
なぜ、フィーはこんなにもわたしのことでおこったり、泣いたりしてくれるのだろうと。
「友達だから、悲しいのよ、なんとかしてあげたいのよ!」
友達。
そのことばがシロの冷え切っていた心をあたためてくれました。
「きめたわ!わたしがこの世界を変えてあげる!」
「むりだよ… フィーがそんなことできないよ…」
フィーはなみだを手でふくと、どうどうとした声で言いました。
「できるわ!わたしはこの国の王女なんだから!!」
フィーはシロの手をとり、王城へと……
ーーーーーーーーーー
「その本、あまり人気がないんですよ」
突然後ろから声をかけられ、めくっていた手が止まる。
「すまない、シェリア、起こしてしまったか?」
「いえ、そろそろ起きなきゃいけなかったので、それにしても驚きましたよ、アリア様が起きたら横にいるなんて…」
「あー… それはシェリアがかけてある布と間違えて、私の服を掴んでいて動けなかったんだよ」
「な!? す、すみません!!」
ペコっと勢いよく頭を下げるシェリアに思わず笑みが漏れる。
「大丈夫だよ、この絵本そんなに人気がないのかい?」
シェリアは急いで髪を整えて答える。
「絵本には似合わない話が多いですからね、私はすごく好きなんですけど、なんでも実話を絵本にした話らしく、このアルテア大陸と呼ばれるようになった話らしいので」
差別や親が子を捨てる話とかたしかに絵本向きにしては売れないのもわかる気がするな。
差別か…
昔はセレスにも似たような事があったな…
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?
あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】
世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。
「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる