魔法力0の騎士

犬威

文字の大きさ
55 / 104
第二章 アルテア大陸

side アルフレア

しおりを挟む
 そうだ、それでいい、これは私の罪なんだ…

 最初からこうなる運命だったのかもしれないねぇ…


 体を貫かれる鋭い痛みが全身を駆け巡る。
 とてつもなく痛くて発狂しそうになる。 だけどまだ死ねない、まだ…やらなきゃならないことが…

 もう斧を握る力さえ出ず手から零れ落ち、ガランと派手な音を立ててアタシの相棒は地に落ちる。
 既に立っていることすらできず、もたれかかる様に壁に背を預け、私も地に座る。

 意識が朦朧とする、視界が明滅する中はっきりとカナリアの泣き顔が見えた気がした。


 裏切って…  ごめん… なぁ…

 過去の映像がアタシの頭の中を巡る。
 走馬灯ってやつかね…

 ーーーーーー
 ーーーー
 ー

「グッ…」

「お前か、私の後を探っているのは…」


 1か月前、ガルディア都市西区路地裏、以前から行動の怪しいアルバランの後をつけていた時だった。

 こいつ、いつ…のまに…

 いきなり背後に現れたアルバランに首を捕まれ、そのまま地面に押し倒される。
 ギガントのアタシがこうもあっさり力負けするなんて…


「ガハッ…き、貴様、ぐぅううううう!!!」

「喋るな、面倒だ」


 肩口にナイフで深く刺される。激しい痛みが駆け巡り、出てこようとした言葉は中断された。


「今殺しても問題はないが、手駒を増やすのも悪くないな、しばらく私に騎士団内の情報を報告しろ」


 やはり、こいつは黒だった!!アタシの思ったとおり…

 仲間を裏切るなんてマネ誰がやるもんか…


「誰が…そんな…ことをすると…思うか」


 頭上からひどく冷淡な声で囁かれる。


「残念だ、お前を殺し、カナリア=ファンネルという女に情報を集めさせてもらうとするか」


 カナ… リアだと…
 なぜこの男がカナリアの事を口にだした…

 アタシがどうなろうとここで見つかった時点で覚悟は決まっていた。

 だけど…カナリアを巻き込むわけにはいかない…

 汚れた仕事をするのはアタシ一人で十分だ。


「ま、待ってくれ、アタシが…やる」

「まあよかろう、わかっていると思うが、いつでも殺せることを覚えておくんだぞ?両方とも…な」

「っぐぅううううう!!!!」


 もう片方の肩に激しい痛みが走る。また深くナイフを突き立てられたみたいだ。
 焼けるように両肩が熱い。


「念のためだ、お前の傷口はもう治ることはなく、この痛みを再び思い出すたびに忘れないようにしておくぞ、蝕み苦しめ【不浄の手】」

「ギャアアアアアア!!!」


 肩口が呪われたみたいに熱く爛れる。
 あまりの痛みに思わず叫んでしまうほどだった。


「そう喚くな、回復してやる、ハイヒール」


 一見傷跡は無くなったが、肩口の違和感は消えることはない。


「定期的な報告を頼むぞ」

「…はい」


 こんな化け物に逆らえるわけがなかった。

 ーーーーーー
 ーーー
 ーーーーーー

 あれはいつだったかカナリアと休みが被って出かけてた時だ…

 街は昼時ということもあり、混んでいて、小さいカナリアを見失わないようにするのが大変だったな。
 アタシなんかより可愛らしい服がとても似合っていて、素直に羨ましかった。


「はぐれないようにな」


 そう声をかけるとカナリアは朗らかな笑みを浮かべてアタシを見つめる。


「はぐれないわ、アルフレアの綺麗な赤い髪がどこにいたってわかるもの」

「なっ!?」

「相変わらず照れ屋さんね、アルフレアは」


 クスクスと楽しそうに笑うカナリア。


「からかうんじゃないよ、綺麗な髪なのはカナリアだってそうだ、ただアタシはでかいから小さいカナリアは埋もれちゃうんだよ」


 カナリアのピンク色の髪は凄く女の子らしくて可愛い、アタシもあの髪の色がよかったな、似合わないのはわかっているけど。


「もう、気にしてるのに」


 少し膨れた顔も可愛らしい、アタシもカナリアみたいだったら、隠さなくて頼ることができたのかもしれないね。


「っつ、ちょっとゴメン、トイレに行ってくるから先に向かっててよ」

「え? わかったわ、場所もすぐそこだしそこで待ってるわね」

「ああ、すぐ戻る」


 とある建物に入り、人気のない暗がりの場所で肩を抑え必死に痛みに耐える。


「グゥウウウウウ…」


 肩が、焼けるように痛む、これはあの時の…


「随分、痛そうやねぇ…」


 後ろから突然声をかけられ慌てて振り向く、そこには帽子をかぶった茶髪でおさげの小さな女の子がいた。


「ウフフ、アルバラン様の使いと言ったほうが貴方にはわかりやすいかしら」


 その声はこの小さな女の子が話すにしては随分大人びて艶のある声だ。


「定期報告を確認しに来たわ、聞かせてもらえるかしら」


 定期報告として来るときにアタシの肩は焼けるように痛みだす。


「言わなくてもわかる、アンタが来るとき肩が激しく痛むし、なによりアタシはあんたの香水の匂いが嫌いだよ」


 この小さな女の子からは甘いフローラルな香りが漂う。
 アタシはこの匂いが大っ嫌いだ。


「あら、ひどいわ、毎回違う姿なのをわかるようにいい香水を使っているのに」


 小さな女の子はその幼い顔からは似合わない妖艶な笑みで、こちらに語り掛ける。


「まあ、あなたの姿はそれなりに見ているわけだから、あなたが何を大切にしてるかぐらい簡単よ?さあ、報告してもらいましょうか」


 これは一種の脅しだ、だけどアタシは逆らうわけにはいかないんだよ。

 ーーーーーー
 ーーー
 ーーーーーー

 これは最近の記憶か…

 騎士団内アルフレアの自室に招かれざる客が訪れていた。


「ウフフ、貴方のおかげで私たちもスムーズに動けるから感謝してるわ」


 そう妖艶な笑いを浮かべるエイシャという女は今度は私の最もなってほしくない姿になっている。

 ピンク色のツインテールに黒いドレス、私の親友、カナリア=ファンネルに。


「この姿、気に入ってくれたかしら?」


 くるりと回り嘲るように笑う。

 違う、カナリアはそんな顔をしない。


「ウフフ、この前の態度とは大違いね、面白いわぁ、当日の配置場所を私達の言う通りにしてくれてありがとね、約束通りこの子には手を出さないであげるわ、あなたはただ当日東門の警護をして誰も外に出さないようにしてもらえればいいわ、誰一人通してはダメよ?そして私がいつも見てるのを忘れないことね」

「ぐぅう!!」


 肩に激しい痛みが一瞬奔る。
 逆らったらなんて、わかりきってるさね…

 ーーーーーー
 ーーー
 ーーーーーー
 ーー

「ハイヒール!!」


 うっすらと意識が戻り、重い瞼を開けるとカナリアが泣きながらアタシの塞がらない大きな傷穴に手を当て、回復魔法をかけていた。

 カナリアだって、もうが魔力少ない…

 ただでさえ回復魔法は魔力を消費するはずだ…

 これだけ渡せればアタシは充分…

 動かなくなりそうな腕をなんとか動かし、ポケットから牢の鍵を取り出す。


 アタシにはこれくらしかできなかった…


 だから…


 カナリア…


 あんたに託すよ…


「ハイヒー… あうっ!?…」


 最後の力を振り絞り思い切り、カナリアを突き飛ばす。
 鍵をカナリアの手に握らせて。


「やめ… ろ… もう… いい、アタシは… たすから… ないよ」


 痛みがもう既に無くなっている、これはもういよいよさね…
 血も流しすぎたし、回復魔法なんかじゃもう無理さ…


「ダメよ!!まだ助かる!!」


 そんなことをしたらカナリアだってやばいじゃないか…
 なんて顔してんだよ…
 可愛い顔が涙でくしゃくしゃじゃないか…


「ばか やろ… 余計な こと… するな」


 優しいカナリアにアタシはなんてひどい真似しかできないんだろうね…

 思わず髪に手が伸びる。

 カナリアは涙を拭って、渡した鍵に気づいたみたいだ…

 ようやくわかったかね…

 思わず笑みが漏れた。


 意識が混濁する。
 もうそろそろか…

 カナリアは立ち上がりさっきまでの泣き顔が嘘のように悲しそうに笑ってこちらを見る。


 やっぱりカナリアは泣き顔より笑顔が似合う…


 最後の言葉だけどこれだけは伝えないと…


「反逆者…め… 牢屋に… ぶちこまれ… ろ」

「私達は絶対に捕まらないわ!!」


 カナリアならきっとわかってくれるだろう…


 不器用なアタシの…



 その本当の意味を…


「そう…… か」



 髪に手を触れ、届いてほしいと願う。

 でもきっと届いただろう、あんなに素敵な笑顔なんだから…




 最後にその笑顔が見れて良かった…




 後は任せたよ…




 親友…









しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

処理中です...