魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

周辺の村を目指して

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 古来から雨が降ると傷口が痛み出すという。


「グッ…」


 失った右腕は傷口は塞がってはいるものの、今も電流が流れるような鈍い刺すような痛みと、右腕があった時のような感覚がまだ残っている。

 これが幻肢痛というものだろうか…


 シェリアから話を聞いたところ、この時期のアルテア大陸の雨季は長いのだという。


 雨音や草木の揺れる音が感覚を鈍くさせ、いつものようにはいかないな…

 左腕だけの戦いも慣れなければいけないし、課題だらけだな…


 次元収納から剣を引き抜き、正面に構える。


 立ち方も今まで通りというわけにもいかない…


 軸足を変え、持ち方も色々変えてみる。

 さらにいろんな武器を次元収納から取り出し、片手でも使えるかどうか動かしてみたりもした。

 ターナーさんが作ってくれた武器は全てに重力軽減がかかっているので片手でも基本は楽々使えるようで少し安心した。

 ただ、弓などの両手も使わないといけないものはさすがに使えなかった。


 それで…


 左腕に持った剣を下から切り上げるように動かし大きく踏み込む。

 水しぶきがあがり、雨をいくつか切り裂く。

 さらにそのまま一歩踏み込み、切り上げた剣を次元収納に仕舞い、弧を描くように次元収納から出した投げナイフを3つ投げながら動かす。

 投げナイフはそのまま木に突き刺さった。


 これからの戦闘はいかに次元収納を使っていくかだな…

 より早く、正確に、武器を切り替えていくんだ…

 蹴り技ももっといれて…


 そんなことを考えていたら、小屋のドアが開き、シェリアがひょこっと顔を見せる。


「あの、着替え終わりましたよ?… アリア様、まだ傷口も安定してないのに激しく動かないほうがいいですよ?」


 シェリアは私を見て呆れた声を漏らす。


「え、あっ、すまない、少しでも片手に慣れていたくてね…」

「気持ちはわかりますけど… あっ、包帯も変えましょう!とりあえず中に入ってください」

「ああ、わかったよ」


 シェリアに促され、体についた雨粒を払い、小屋の中に入った。

 ソファーに座り、服をまくって包帯でグルグル巻きとなった傷口を露にする。


「改めて思いますけど、よほど高度な回復魔法だったんですね」


 シェリアは包帯を外しながら答える。


「ああ、この回復魔法がなかったら私は死んでいたかもしれない」

「そう… ですね… 普通これほどの重症を治す高度な回復魔法を使える人はあまりいませんからね…」


 今でも思うが、あの場にカナリアが来てくれなかったら確実に私は死んでいたといえる。

 運が良かったとしか思えないな…

 包帯を外したシェリアは次元収納から治療薬を取り出すと、不格好に塞がった傷口に塗っていく。


「まだ痛みますか?」

「いや、痛みはもう既にないかな、ただ、たまに幻肢痛が起こるくらいだ」

「鎮痛薬もありますけど使いますか?」

「いや、これは薬はあまり意味がないんだ」


 幻肢痛は実際に傷口が痛いわけではなく、神経が腕があるかのように信号を出して傷んでるか、思い込みのようなものだと言われている。
 だから鎮痛剤はあまり効果がない場合が多い。


「そうですか…」


 悲痛な面持ちで傷口を眺めるシェリアに心配させないように笑いかける。


「心を強く持っておけば問題ない、そのうち腕がないことにも慣れるさ」


 シェリアは次元収納から新しい包帯を取り出して巻いていく。


「完全に治るまでは私が治療しますから、アリア様はあまり無理はしないようにしてくださいね」

「ああ、助かるよ、それに包帯は一人じゃ巻けないからね、シェリアがいてくれないと困る」

「そ、そ、そんにゃ、ことはない、です!」


 急に慌てた口調になったシェリアは勢いよく包帯を巻き終わり、少し強めに止めると、立ち上がり、治療道具を次元収納にしまっていった。


「ありがとな、シェリア」

「は、はい」

「それともう一つ頼みたいんだが、髪をってくれないか?」


 昨日解いたままでいてすっかり忘れそうになっていた。


「片手じゃ髪を結うことすらできなくてね」

「はい、それにしてもサラサラで綺麗な金髪ですね」


 シェリアが私の髪に手を入れて触る。


「そんなことないさ、シェリアのほうが赤くて綺麗な髪をしている」

「なっ!?」

「?」


 シェリアにいつも使ってる髪留めの紐を渡す。
 そのまま手慣れた手つきでシェリアは髪を結ってくれた。


「ありがとう、さすがに手慣れてるな」

「私も女性としてそういうのは得意ですからね」


 シェリアは結ぶのに納得がいったのか満足気だ。


「アリア様は短いのも似合いそうですけど、短くはしないのですか?」

「なんだろうか… あまり短くはしたくないんだよね、私もよくわからないんだけど」


 そういえば、昔から短くしたことがなかったな…
 疑問にすら思わなかった…

 慣れすぎてしまって今が落ち着くからだろうか…


「そうなんですか、長い髪のアリア様も素敵ですよ」 


 シェリアは微笑みながらシェリア用の鎧を着ていく。
 私も自分の鎧を着け、ソファーから立ち上がる。


「そろそろ行こうか」


 壁に掛けてあったロングコートをシェリアに渡し、自分も羽織ると小屋を出た。


「北にはいくつか小さな村があるんです、まずはそこを目指しましょう!」


 ぬかるむ地面を踏みしめ、鬱蒼とした草木をかき分けながら昨日と同じように進んでいく。

 いくつか出てきた魔物は私とシェリアが交互に分担して倒していき。

 道中はあまり問題はなかった。

 出てくる魔物も昨日のようなチューンボーグやカエルのような魔物が主で、苦戦することもなく進めている。


「このぐらいの魔物ならば私一人でもいけますのでアリア様は少し休んでおいてください」

「シェリア一人に戦わせるわけにはいかないよ、それに感覚を取り戻しておきたいからね」


 実際、シェリアが倒すほうが早く、私はまだ片手の動きに慣れていないせいもあり、効率的にいえばシェリアが先導して進んだほうが早いともいえた。

 随分頼もしくなったものだな…

 ん?


「で、ですが…怪我のこともありま…むぐっ」

「ゴメン、少し静かに…」


 シェリアを引き寄せ、手で口を塞ぎ、微かに聞こえる足音、もとい水が跳ねる音に耳を澄ませた。

 これは…

 魔物じゃないな…

 人間か?…

 私たちと同じように誰かが草木をかき分け進んでくる。
 その足取りはゆっくりで、何かを探してるような感じさえあった。

 数は…

 手を軽くトントンと叩かれ、シェリアのほうを見ると赤い涙顔で軽く睨まれながら指を2本突き出した。

 慌てて手を放し、シェリアもわかってくれたのか、小さな声で話す。


「二人こっちのほうへ向かってきてます」

「こっちの位置がばれてたりするか?」

「いえ、当てもなく進んでいるようですね、わずかに金属のすれる音も混じっています、おそらくアルタに駐屯しているガルディア兵でしょうか…」


 シェリアが不安そうな顔で見つめる。


「テオが前線に戻ったということなのか…」


 今までは国王演説のため首都アルタに駐屯しているガルディアンナイトの騎士達は、待機をテオに命じられていた。
 その彼らが動き出したということは、もう既にテオが前線に戻ってきていると考えて間違いないはずだ。
 しかし、早すぎる行軍じゃないか…

 距離的にアルテア大陸とガルド大陸は海を隔ててそれなりに距離がある。
 1日やそこらでつける距離ではない。
 ましてや私たちのような長距離の転移のマジックアイテムがあるわけでもないしな…

 じゃあ…いったい誰だというんだ。

 その足音はそれるように曲がり、私たちは見つからないようになるべく音をたてないように進む。


 距離はだいぶ近い、こんなとこまで捜索は広がっているのか…
 これは急いだほうがいいのかもしれないな。

 そんなことを考えていると音はある場所でぴたりと止まり、ガサガサと何やら採っている音がした。


 アルタの生き残りの王族兵を探しているわけじゃないのか?


 さらに耳を澄ませると話し声が聞こえる。


「あったよ、カイン」

「ばっか!!それは食えねぇ果物だよアイン」

「え!? こんなに美味しそうな見た目なのに」

「それは、毒があるんだ、食えるのは… ほらこっちだ」

「に、似すぎでしょ…」

「俺も昔食って腹壊したからわかるんだよ」

「経験談だったんだ、少し多めに持っていこうよ」

「ああ、それと急ぐぞ、俺らが一番遅れてるんだからな」

「わかってるよ」


 聞こえるのは若い… 少年兵か?
 音だけではさすがによくわからないな、どうやら兄弟のような感じがある…
 名前はおそらく、カイン、アインと言っていたから双子の可能性もあるな。

 だが少年兵がガルディアンナイトにいるという情報はなかったな…

 …ガルディアンナイトの騎士じゃないのか?…

 少し安堵し、シェリアのほうに目を向けると、シェリアも安心したのかさっきまでの強張った顔つきではなくなっている。

 息を潜め、さらに様子を伺う。


「おっし、こんなもんでいいだろ」

「大量だね」

「さっさと行くぞ」

「わかってる」


 少年兵らしき二人は軽い足取りで来た道を走って戻っていく。


「あの二人の後をついて行きましょう」

「ああ」


 気づかれないように細心の注意を払って後を追っていくと、草木に隠されたように小さな村が見えてきた。

 これがシェリアが言っていた周辺の村のことだろう。

 さらに近寄ろうとした時だった。

 異変を感じ、素早く木に隠れると、さっきまでいたところにクロスボウの矢が突き刺さる。

 やはり… 気づかれてしまったか…


「あちゃー外したか、意外と敵も強いみたいだな、アイン」

「せっかくおびき出したのに、カインは命中率悪いね」

「うるせっ!俺はお前と違って近接向けなんだよ!」


 二人の銀狼の獣人の少年は同時に木から飛び降りる。
 水しぶきが上がり、二人は武器を構えた。


「さあ、隠れてないででてきたらどーだい」

「俺らが相手してやんよ!」

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