63 / 104
第二章 アルテア大陸
side トリシア=カスタール ~過去~
しおりを挟む「これはあの人が私に託してくれた力なんだ」
そういって悲しそうに笑う姉の姿は今でも覚えている。
【~8年前~】
私の姉は戦うことが嫌いだった。
姉は騎士にはならず、いつも忙しく働く私の事を心配して、家でよく料理を作って待っていてくれたものだ。
そして姉には婚約者がいた。
その婚約者は先月病気で亡くなってしまった。
私も数回しか会ったことはなかったが、姉の話を聞いたところによると異世界人の孫にあたる人物だというのがわかった。
「彼の力は譲渡することができるの、私にこの力を有効に使って欲しいってね、最後の彼の頼み… だった… から」
「姉さん…」
もう一か月前の事だが姉の心の傷は大きく、立ち直る事ができないでいた。
姉の婚約者は土木関係の仕事についていて、これからこの都市を発展させるために重要な役割に付いていた。
最後の工程に入る前に病気が発覚して、そのまま…
「だから… 最後の工程は私が引き継ぐ事にしたの… あの人の意思を後世に残すために…」
今、最後の工程に移るため、私と姉は二人夜中にキルクの森まで来ていた。
肌寒い風が吹き抜け、もうすぐ冬の訪れを感じる。
落ち葉を踏みしめ、目的のポイントまで歩いて行く。
その工事は姉の婚約者が倒れたことにより中止されていて、完成まじかで終わっている。
「姉さん、どうして明るい日中にやらないんだ?」
「この力は公にはできない力なのよ、あの人が前に言っていたわ『強すぎる力は狙われる』と」
そう、いつだって出る杭は打たれる。
優秀すぎれば疎まれ、それを脅威に感じる者が後を絶たない。
そうやって闇に葬り去られたものは数知れない。
そんな現場を見ることもよくあったのは事実だった。
「そうか…」
「着いたわ、トリシア、明かりをつけて」
「わかった、ファイア」
指先から弱い火炎が出て、持ってきたランプに火が灯る。
カバンから地図を取り出し、姉は目的のポイントを探す。
森の中腹まで来て、いったい何をするのだろうか…
都市は順調に建てられていて、外観的にはもう手を施しようがないと思うんだけど…
そしてこんな都市から離れた魔物も出るキルクの森まで来るなんて…
「あった、【土木制御】」
そこにあったのは小さな池。
姉はその能力で地面に大きなトンネルを池の側に作り出した。
「すごい、なんだこの能力…」
これは今までの常識を遥かに覆す光景、本来ならトンネルを掘る作業は複数人がかりで何日もかけて行われる。
それが一瞬のうちに…
「よし、じゃあ、トリシアは私の後に着いてきて、あっ、地図とランプも持ってね」
「あ、ああ」
見入ってしまって対応の声が遅れてしまったが、この光景を見れば誰だって開いた口が塞がらないだろう。
姉はトンネルの内部に入り、私もその後を追う。
「【土木制御】!」
中は人が1人通れるくらいの小さなものだ、姉はそのトンネルを掘り進めながら、崩れないように補強していく。
これを一人でやっているのだ、そりゃあ知られたら不味いことになるのは誰にだってわかる。
「ト、トリシア、魔力回復薬を…」
「あ、ああ」
さっきから渡しているこの魔力回復薬で12本目だ…
さすがにこれ以上は命に係わる。
「姉さん!今日はもうこの辺にしないか?」
「もう少しで、繋がるはずなの… あの人が作ってくれた場所に… 」
「何も今日じゃなくたっていいじゃないか、明日またここに来れば…」
「ダメなのよ、それじゃあ… 明日には完成のお披露目が行われる、あの人の夢が失敗だったなんてことにはさせない…」
「姉さん…」
魔力切れを何回も起こし、フラフラになりながらも青い顔で笑う。
強いな…姉さんは… 私なんかよりもずっと…
せめて手助けになればと思い、姉さんの体を支える。
「…ありがとう、トリシア」
「気にしないで姉さん、私にはこれくらいしかできないけど」
「そんなことないわ、もう足の感覚もよくわからなくなってるから立っているのもちょっと辛かったの」
「…っつ どうしてそこまで…」
「あなたも人を好きになればわかるわ、さぁ、あと少しだけ【土木制御】!!」
トンネルをその能力で堀進んでいくと急に広い空間に出た。
「ようやくここまで来れた、ようやく…繋がった…」
「ここはいったい…」
その光景は圧巻だった、広い空間に全ての配管と思われる管が無数に伸び、これがいわゆる下水道の役割をなしているのか。
「まだ、これだけじゃ、機能しないの」
「繋がったのに機能しないのか!?」
「そう、これが… 必要なの」
姉のカバンから出てきたものは小さな機械のような物だ。
「これは?」
「これは、『浄化装置』と『自動循環器』を合わせた物よ」
「まさか、これを作る為に一か月部屋に籠っていたのか!」
姉さんは婚約者が亡くなってから一か月の間一歩も外に出ず、家で生活していた。
それを私は婚約者を失ったことから立ち直れてないからと思っていた。
「一か月もかかってしまったけど、お披露目の日までには間に合ってよかった…」
「…姉さん」
その小さな機械を無数の管の前に置いて【土木制御】で大きな箱を作り管を繋げていく。
「うっ…」
「姉さん!!!」
意識が朦朧としているのだろう。息も荒く、体の力も抜けている。
早く、早く回復を…
最後の魔力回復薬の瓶を開け、姉さんの口に持ってくる。
口は半開きで、視線も定まっていない。
どうやら意識も混濁しているみたいだ、自力では飲めそうにない!!
魔力回復薬を自分の口に含み、こぼさない様に口移しで飲ませる。
「んっ…」
魔力回復薬が喉を通っていく、ひとまずはこれで安静にさせておかないと。
姉さんを横にさせ、私も座る。
「ぅう…」
「姉さん!?まだ休んでいてください!!」
「そういうわけには…いかない… 」
これ以上はダメだ!!
「もう魔力も尽きているのに!!私が、私が引き継ぎますから」
姉さんは一瞬悲しそうな顔をしたが、いつものように微笑んだ。
「…そう…ね お願い… してもいいかしら…」
姉は弱い力で私の手を取る。
「【能力譲渡】」
淡い光が私の中に流れ込んでくる、すると姉さんは弱弱しい声で話す。
「…入口の… 池に… ここを繋いで… この機械は… 水で作動… するの」
「わかった」
姉さんを背負い、入り口まで駆ける。
制御できるか不安だが、必ずして見せる。
魔法とは違う力、二人の思いのために必ず成功させる!
入口にたどり着き、トンネルから出て、能力を使う。
イメージするんだ、姉さんと同じようにトンネルを…
しっかり舗装するのも忘れないように…
「【土木操作】!!」
魔力が一気に削られる感じがする。
これほどまで…
能力は暴発することもなく、池とトンネルを繋ぐように開通し、勢いよく水がトンネル内に流れていく。
「やった… できた…」
「…トリシア、ありがとう…これで… 私たちの夢は叶った…」
「そんな…大半は姉さんが… 姉さん?」
背負っていた姉さんからの返事がない。
急に力が抜けたみたいに重く…
嘘…
嫌…
姉さんを背から降ろし、習っていた蘇生方法を実践する。
お願い!!…
戻って!…
姉さん!…
なんで戻らない!?
なんで!?
どうして!!
お願いよ!!
お願いだがら…
戻っで…
しばらく何度も蘇生方法を試したが、姉さんが息をふきかえすことはなかった。
翌日、都市のお披露目は順調に問題なく進み、無事に成功したことが伺えた。
だが、二人が命をかけて作り出した下水道の技術は誰に知られることもなく今日までに至る。
その後私は、下水道の隠蔽工作と下水道から地上の都市に繋がる道を秘密裏に作った。
ーーーーー
まさかそれが今になって役に立つ日が来るとは夢にも思わなかったよ…
「カナリア、手順はわかっているか?」
「はい、必ず第1部隊を救出します、アルフレアに誓いましたから!」
頼もしいな…
「それでは、今からこのトンネルを通って侵入する、遅れをとるなよ」
「はい!!」
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?
あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】
世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。
「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる