魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

side セレス=シュタイン ~VSヘンリエッタ~

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 頬をぬるい風が吹き抜けていく。

 私達は牢獄を抜けた後、荷物を取り戻し、キルクの森まで出た。

 トリシア騎士団長の指示のもと今度は港町に向かうみたい。
 そこに行けばまともな治療を受けることができるため、私たちは森を抜け、平原までたどり着いた。


「追手が全然来ないのは不安ですね…」


 カナンさんの言うこともよくわかる。
 牢獄を抜けてから、それほど苦戦せずにここまで来れている。


「警戒はしている。 今はこの子の為に早く港町へ急ぐぞ」

「ハイっす」


 この平原は大きな岩があたりに多く散らばっていて、昔の戦争の跡地だったらしい、そこを抜ければ港町が見えてくるはずだ。


「待て、誰かが戦っている」


 そう声をかけられ立ち止まり、目を凝らして見ると、遠くで小さいドラゴンと誰かが戦っているのが見えた。


「私が加勢しに行きます、皆さんは先に港町に向かっていてください」

「一人で大丈夫なの?セレス」

「大丈夫です、今一番魔力が残ってるのは私ですし、兄様なら迷わず加勢に行くと思いますから」

「わかったわ。 そっちは任せるわよ」

「はい」


 皆と別れ、飛行魔法フライを発動させ、一気に接近する。

 戦っているのはどうやらお爺さんと魔物らしい。
 お爺さんのほうが劣勢で、怪我もしているみたい。

 まだ魔物も気づいていない、今なら当てられる。


「ライトニング!!」

「ぐぅぎゃあああああ!!」


 青空に轟く、白く大きな雷撃の一撃が魔物に命中。

 すぐさま、滑空してお爺さんの側により手を伸ばす。


「大丈夫ですか!!お爺さん!!」

「あ、ああ」


 まずはお爺さんを安全な位置に…


 低空でお爺さんを安全な位置にまで移動し、振り返ると、未だに紫電が飛び散り、黒焦げとなった魔物の姿があった。


 あれで倒せたならいいんだけど…


「おのれ…」


 黒焦げとなった魔物にひびが入り、中から女の子が出てくる。

 いや、違う。

 女の子に鬼の角とドラゴンの翼、蜘蛛の足を足した見たことのない魔物がはい出てくる。
 その目は血に濡れており、憎々しげに私を睨む。


「よくも邪魔をしてくれたかしら…」

「貴方は何!! 魔物なの?」


 人語を喋る魔物なんて聞いたことがない。それにどこかで見たような姿… いったいどこで…


「魔物なんかじゃないわ、私の名前はヘンリエッタ、人造キメラのヘンリエッタ」


 人造… キメラ… まさかあの時の地下に居た…


「貴方はあの地下にいたの!?」


 似ている、ただ、あのキメラは人語を話していなかった…


「ん? 私をあんなのと一緒にしないでよ不愉快だわ」


 違った、だとしたらあの子はいったい…


「貴方は私にはないものを持っているのね」


 ジロリとその赤い目で全身を見ると夏なのに寒気がはしる。


「不愉快かしら」


 バサリと翼をはためかせ、空に舞い上がるヘンリエッタ。

 私も後を追うため、飛び上がり滑空する。


「貴方、飛べるのね、驚いたかしら」


 さすがに空中戦を意識してなかったのかヘンリエッタは驚きの顔をする。


「これなら貴方の自慢の糸も使えない!」


 先ほど地上の岩々には無数に細い糸のようなものがあたりにいくつもあった。
 おそらくこの糸が彼女の武器であり、障害物のない空中はその糸も少なからず脅威にはならない。


「それは、どうかしら」


 ヘンリエッタの掌に見る見るうちに糸が集まっていく。

 それは寄り集まり一つの白いサーベルを創り出していく。


「こういう使い方もあるかしら」


 そのサーベルを握り、高速で私の元に迫ってくる。

 それをなんとか躱し、振り向きざまに魔法を放つ。


「ファイア!」


 火球はすれ違ったヘンリエッタの元に吸い寄せられるように迫っていく。

 直径5メートルの威力もスピードもある火球が、振り向きざまのヘンリエッタに当たる直前、信じられないことが起きた。


「【完全切断】」


 え!?

 私の魔法を切った…


 火球は当たる直前白いサーベルによって真っ二つに切られ離散する。

 そのままヘンリエッタは何事もなかったかのように大きく息を吸い込み、ドラゴンのようなブレスを吐き出す。


「くっ、シールド!!」


 瞬時に覆うように魔法障壁が展開され、フレア並みの威力のブレスが障壁に当たり横に流れていく。


「【完全切断】」


 バリンという大きな音と共に魔法障壁が破壊されていく。

 そんな!?


「くっ!!」


 いつの間にか接近をしていて、さらにさっきの魔法を切った能力でかなりの強度を誇るシールドが一撃で破壊されてしまった。

 すぐにその場から飛びのき、距離をとる。


「便利な力ね」


 滑空し、近づかれないようになるべく距離を取る。

 ヘンリエッタはジグザグに飛び回りながら飛行し、私に狙いをつけられないように移動する。


 やっぱり知能が高いからやっかいだわ…


 そして何より小さいから動きが速い。

 すぐに至近距離まで接近されそうになるのを躱していく。


「もらった!」

「くっ、ウィンド!!」


 暴風がヘンリエッタを弾き飛ばす。

 そう、ただ弾き飛ばすだけ、この魔法は本来切り刻むはずなのにそれが弾かれるだけになっている。

 防御力も高いみたい…


「あはは、いい攻撃だけど私には効かない!!」


 ライトニングのような魔法は威力は高いが狙いをつけるのに時間がかかる。
 逆にウィンドのような魔法は威力は落ちるが瞬間的に出せる魔法。

 普通の魔物ならそんなことも気にしなくてすんだのだけど相手が悪い…

 それをわかっているのか、ヘンリエッタは自在に飛び回り至近距離に持ち込もうとしている。


「どうしたの?得意の魔法は」

「ファイア!」


 さすがに速くて当たらないか…


「中級の魔法なら当てれるんじゃない?」


 いったい何を…


「ああ、そうか、制限されてるんだっけ?」

「何を知っているの!?」

「貴方のことはよく知っているわ、セレス=シュタイン、その能力も、母親に膨大な魔力を譲渡していることも…」

「一体貴方は誰の指示でここに来たの!?」


 言わなくても想像がついてしまう。

 ヘンリエッタはにやりと笑い答える。


「アルバラン=シュタイン様。 あの方が世界を統合するために私は来たの、知りたい?あの方が何をしようとしてるのか」


 やはり、私の情報はそれで…


「教えなさい!!」

「あまり情報をペラペラ話すのは関心しませんヨ、ヘンリエッタ」


 白髪のエルフの男が飛行型の魔物に乗りやってきていた。

 迫ってきてるのには気づいてはいたが、時間が足らなかった。


「ようやく、来たかしらジェダイ」


 あの白髪に、不健康そうな顔の白衣を着たエルフはあの時の…


「お久しぶりデスね、セレス=シュタイン、緋色のダンジョン以来でショウカ?」


 獣人の母親を魔物に変えた張本人。


「あの時は名乗っていませんデシタネ、私の名はジェダイ=ウォーダン、少々貴方の協力を頼みたい」

「誰が貴方なんかと!!」

「あらら、随分嫌われたモノだ。 でもイイノカ? 母親はこちらの手にあるのだぞ?」

「お母様をどうするつもりなの!!」

「それは貴方の返答次第… 協力してイタダケマスネ?」


 皆を裏切るような真似になってしまう…

 でも…

 内部に潜り込めば…


「わかりました…協力します、ですが、私に免じて今日は戻っていただけますか?」

「イイでしょう、ヘンリエッタも能力を手に入れたミタイデスシ、貴方も仲間になるのなら、十分成果は上がったはずデスカラ」

「私も、今日は疲れたかしら、ジェダイが遅いせいで」


 ぷぅと頬を膨らませて拗ねる姿はまるで子供の用にも見える。


「お前が、俺を置いて先に飛んでいくノガ悪いんだが…」

「いいから、乗せるのよ」


 ひょいっとヘンリエッタは飛行型の魔物に飛び乗ると嬉しそうに座る。
 こうやって見ると無邪気な子供に見えなくもないが、その赤い目に映る狂気は恐ろしいものがあった。


「すみません、あのお爺さんに最後に言伝を頼んでもいいですか?」

「イイとも、なるべく早く頼むヨ」

「…はい」


 お爺さんの元に滑空すると、お爺さんは突然やってきた魔物に驚いてるみたいだった。


「お前さん大丈夫なのか!? あの化け物との戦いは…」

「お爺さん… 港町にいる騎士の方に伝えてもらっていいですか」

「…… わかった。 お前さんの目は本気だ、事情を聞いたりなどしない、必ず伝えよう」

「ありがとうございます。 私、セレス=シュタインのことはどうか忘れてください、今までありがとうと」

「いいのか…」

「はい」

「わかった。 お前さんも必ず生きて戻るのじゃぞ」


 お爺さんと別れ、再び空に舞い上がる。


「終ったノカ?」

「はい」

「では、王宮へ戻るとシヨウ」


 夕暮れの空は綺麗で、ぬるい風は変わりなく頬を撫でる。

 裏切ってしまってごめんなさい…

 その涙は風に舞い、誰に届くともない。

 物語は大きく動き出し、世界はこれより混乱のさなかに陥る。



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