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第二章 アルテア大陸
村長VSヘンリエッタ
しおりを挟むぬるい風が頬を撫でていく。
腰に差してある雷華の輝きは40年経った今でもあの頃のまま、綺麗な薄紫の色を帯びている。
そっと手を触れ、あの頃のライカの笑顔を思い出す。
「まるであの頃に戻ったみたいじゃのう…」
岩陰に隠れ、様子を窺う。
儂が駆けつける頃には、全てが終わってしまった後だった。
ランクAの冒険者は皆、あの人の言葉を話す化け物に無残にやられた後で、その場所はまさに地獄絵図と化していた。
むしろあの頃よりも厳しいかもしれないのう…
当時はそれなりに強い魔物は多かったが、知能を持った魔物となるとその強さはあの頃の比じゃないだろう。
岩の陰から覗き見ると、なにやらその化け物は死んだ冒険者の服を漁りだし、女性冒険者の服を着ようとしている。
妙な行動だ… 何を考えてるのかわからんな…
服を着たのはいいが、どうやら翼に引っかかっておるようじゃな… なるほど破いて下を捨てたか…
その化け物の行動が気になりすぎて思わず見入ってしまった時だった。
「そろそろ出てきてもいいんじゃないかしら?」
くるりとこちらを向き、にやりと不敵に笑う。
気づかれていたのか…
もはや隠れていても意味は無い、化け物はこちらに視線を固定したまま腕組みをして出てくるのを待っているようだった。
「すでにバレていましたか…」
視線を外さないように、どんな動きでも対応できるようにゆっくり岩陰から出る。
こうしてはっきり見ると、14歳くらいの少女の外見に、蜘蛛の足とドラゴンの翼を足した姿だ。
瞳は白目の部分まで血のような赤い色。
こんなに晴れていて、日差しも暑いのに、見ているだけで寒気を感じる。
「あなたは誰? 私はヘンリエッタ、よろしくね」
ペコリと礼をする姿はどことなくその少女に気品みたいなものを感じるが、思い違いだろうか。
そして案の定、知力がかなり高い。
「儂はただの村長だ。 名乗るほどじゃないよお嬢ちゃん」
彼女といったほうがいいかは疑問だが、どうやら儂の着ている服にどうやら興味が湧いているらしく上から下までジロりとその赤い目で見られる。
「不思議な服ね、なんていうの?」
「和服というものだよお嬢ちゃん、服に興味があるのかな?」
こうやって話をしてはいるもののさっきから冷汗は止まらず、体があげる警告信号に無理矢理逆らっている。
この感情は間違いなく恐怖だ。
「これでも一応女の子だから」
そういう彼女の声は感情がこもっておらず、一瞬だがひどく歪んだ顔をした。
まるで恨んでいるような、そんな表情を。
「それよりもその村長さんはなんで隠れていたのかな?逃げ遅れたってわけじゃないんでしょ?」
不敵な笑みを浮かべながら彼女、ヘンリエッタは答える。
村の民はこんなどうしようもない名もなき男のために着いてきてくれた。
詳しい事情も聞かずここに村を作ることを了承し、キールは唯一儂が教えた息子のような存在になってしまったな。
キールはどことなく健吾に似ている。
『生き残る可能性の高いほうを俺は優先する』
あの時の約束、今度は儂が果たして見せる。
今度は儂がカッコつける番じゃよ…
「… お嬢さんをこの先に行かせたくはないのでね」
ヘンリエッタのその深紅の目が見開き、口角をあげ、笑い声が漏れる。
その様子から絶対的な自信が伺える。
「実にシンプルでわかりやすい、だけど貴方もみたのでしょう?先ほどの遊びを」
あの殺戮を遊びと呼ぶ彼女は今までもこういった風に殺してきたんだろう。
「お嬢ちゃんはたしかに強い、だけどな、若い者の未来は守らねばならんのだよ」
そう、彼らは儂のような思いはしてほしくはない。
未来ある若者の道を作ることこそが、儂のせめてもの役目じゃ。
「なるほどねぇ…」
ここから先は悪いが進ませぬぞ。
「ハイスピーダー、ハイオーバーパワー」
この世界グランディアには魔法がある。
召喚された当初はそんな魔法ですら覚える余裕などなく、もう少し早く召喚されていればこういった強化魔法だって覚えることができたはずなのにな。
ちらりとヘンリエッタのほうを見ると、やはり動く気配はない。
先ほどの戦いから思うと、防御力に絶対の自信があり、初撃は譲ってくれるみたいだからのう。
だが、その甘い考えが儂にも通用すると思うなよ。
腰を落とし、踏み込み、一気にヘンリエッタの元まで迫る。
やはり、掴みにきおったな!初撃で全て終わらせてくれる。
最速の抜刀術。
胴体もろとも切断して見せるわ!
「【完全切断】」
なに!?
この間合いで避けるだと!?
小太刀故にリーチ差で難があるため、かなり接近して油断している初撃こそ、最大のチャンスだったはずなのに…
寸でのところで気づき、反応するとは…
「あれ?」
胴体を切断することはできなかったが、掴みに掛かろうとしていた腕は切断して見せた。
ヘンリエッタは一旦儂から距離を取るように、大きく後ろに跳躍する。
小太刀に付いた血を払い、再び鞘にしまう。
警戒度が上がってしまったやもしれんな…
「見つけた、見つけたのよ、あははははは」
ヘンリエッタは自分の切られた腕を見て、笑う。
次の瞬間信じられないことにズルンと傷口から新しい腕が生えてくる。
やはり、初撃で決められなかったのは痛い。
治癒能力も高いらしいな。
「化け物め…」
「あははは… さぁ …再スタートかしら?」
ヘンリエッタは翼をはためかせ、飛び上がる。
やはり飾りではないのだな、その翼は。
ヘンリエッタは大きく息を吸い込むと、その口から火炎放射の如く、ドラゴン特有の灼熱のブレスを吐き出した。
咄嗟に、躱し、ブレスが通った後を横目で見れば、先ほどまであった大岩が赤く熱を帯び、溶解していた。
こやつドラゴンのブレスまで吐けるのか!!
ヘンリエッタは飛行し、儂を狙い、次々とブレスを放ってくる。
儂も狙いが定まらんように、移動し、躱し続ける。
自由自在に低空飛行で飛び回るヘンリエッタが必ず手で岩々を触りながら飛び回る。
そう、何をして飛んでおるのか。
それは…
儂は目の前に張り巡らされている無数の細い糸を切りながら避け続けている。
ヘンリエッタが触った場所には細い糸が張り巡らされている。
おそらくあの冒険者もこの糸でやられたに違いない。
その糸は日本でいうピアノ線に近く、ピンと伸ばされた場所は簡単に肉をも切るだろう。
「…っつ」
頬や、足を糸が掠め、どんどん傷を作っていく。
この場所は既にヘンリエッタの巣の中になってしまっているのか。
「ほらほら、避けないと死んじゃうよ?」
吐き出されたブレスは、儂に移動を余儀なくさせる。
「チッ」
的確に隠れている岩場をブレスで狙う。
このままでは圧倒的に不利、なんとかして奴を地上に降ろさねばならん。
「アースランス!!」
地面から作り出す地属性遠距離魔法。
無数の岩の槍が、ヘンリエッタに向け発射される。
「へぇ、遠隔攻撃も持ってるんだね」
全ての岩の槍を拳で破壊していく、やはりこの程度の威力ではダメージにすらならんか。
じゃが…一瞬視界をそこに向けられれば十分。
糸を切り、岩を駆け上がり、跳躍。
アースランスに気を取られながらも顔を動かし、儂を探しているな。
地上には儂はおらんぞ。
振り向き、怪訝そうな顔を見せるヘンリエッタ。
その翼貰うぞ!
「【完全切断】、ぐっ…」
翼を切断すると同時にヘンリエッタが回転し、儂を地面に弾き飛ばす。
「ぐぅぉおお」
地面に叩きつけられ、威力を軽減するため転がる。
ぐっ… あばらを何本かやられたみたいじゃ…
片翼の為飛ぶことが出来なくなったヘンリエッタは不機嫌そうな顔で地面に着地し、倒れている儂の元に接近する。
「アースランス!!」
作り出された無数の岩の槍がヘンリエッタに向け、飛ぶ。
「二度目はないから」
今度は砕こうとせず、躱しながら接近をしてくる。
蜘蛛の脚とは考えつかないような速さで迫る。
痛む体を起こし、その場から大きく飛ぶ。
直後爆音と共にさっきまで居た位置にヘンリエッタは拳を打ち込んだ。
地面はそれだけで爆ぜ、大きく抉れている。
「外したかしら」
砂塵舞う中、ギロリと赤い目がこちらを見る。
まるで肉食獣のようなその目に、恐怖を感じない者などいない。
再びヘンリエッタはブレスを吐き、迫る。
「アースインパクト!!」
地面が大きく隆起し、岩盤の壁が出来上がる。
それを難なく破壊し、ヘンリエッタは迫る。
「視界を妨げるのはこの為じゃ」
壁を破壊し、ヘンリエッタが見た先には村長はおらず、足元に体制を低くし、構える村長は鞘に手をかけていた。
「しまった!!」
「終わりじゃ、【完全切断】!!」
腕もろともこの距離からならば胴体まで切断できる。
その自信は大きくあった。
ヘンリエッタは驚愕に目を見開き、そのままにやりと笑った。
「なーんてね、【完全切断】」
その言葉に一瞬耳を疑った。
手刀と雷華は激しくぶつかり、はじかれるように転がる。
なにが起こった…
【完全切断】の能力はちゃんと発動していたのになぜ…
「なるほどね、同じ能力同士だとはじかれるわけね」
こいつは一体何を…
「不思議そうな顔してるわね、覚えちゃったかしら、貴方の能力」
「なん… じゃと…」
そんな、これは… この力は習得などできぬはずなのに…
「あははは、いいわその表情、元々人造キメラとしての能力に【コピー】があるだけの話、こういった能力者を刈るためにね…」
バサリと、先ほど切断した場所から新たな翼が生える。
「これも貴方にとっては、絶望に近い状況でしょう?」
ヘンリエッタは飛び上がり、両手を広げ、怪しく笑う。
そうまさしく絶望の境地に立っている。
だが、
儂はそれを覆す【豪運】の持ち主じゃ。
「儂は元々運が凄くいいんじゃよ」
「一体何を…」
そう、【豪運】はちゃんと儂の力になってくれるんじゃ。
「ライトニング!!」
「ぐぅぎゃああああ!!!」
澄み渡る空に轟く、白く大きな雷撃の一撃。
儂もこの世界に来て、これほどの初期魔法の巨大な力は見たことがない。
「大丈夫ですか!!お爺さん!!」
手を差し伸べてくれたのは、小さな角の生えた銀髪の女性だった。
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