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第二章 アルテア大陸
side シェリア=バーン=アルテア ~複合魔法~
しおりを挟む「言ったはずです、私をあの頃と一緒にしないでください、これは私の復讐の始まりなんですから」
体が魔法の効果によって風のように軽い。
まるで私の周りだけ風が渦を巻いているかのように雨が弾かれていく。
ダルタニアンは一瞬驚きはしたもののすぐに冷静さを取り戻し、レイピアを握りしめこちらを見下すかのようにじろりと見据える。
ダルタニアン、騎鳥軍の中でも特に優秀で、相手の視線や呼吸、はたまた癖などから瞬時に相手の動きを読み合わせることを得意とする男。
その広い視野は、多くの情報を掴み、時間を与えれば与えるほど攻撃が全く当たらなくなるという事態にまで陥るという。
キルアさんは戦いの最中、ダルタニアンに動きを全て読まれていたはずだ。
読ませる時間など与えはしない。
グンという踏み込みと共に弾かれるように地面を蹴ると、数メートルの距離を瞬時に詰める。
「なっ!?」
焦ったダルタニアンが放った突きは、直前にステップを右に切ったことにより大きく空ぶってしまう。
きっとダルタニアンの視線からは急に消えたみたいに見えて驚いているはず、突進の勢いはそのままに視線の死角に移動されたら消えたと思っても仕方がない。
すぐに視線の外に外れたことに気づいたダルタニアンはすぐにしゃがみ、私の攻撃を躱して見せた。
さすがに経験の差がここではでるよね… でも!
「ぐぅううう!」
武器に宿した暴風属性の攻撃はただ避けるだけでは避けれない。
剣の斬撃は強風を呼び起こし、ダルタニアンは大きく吹き飛ばされる。
そう付加魔法はこういった追加魔法の恩恵があり、暴風魔法の場合は斬撃を真空刃として飛ばせたり、突風によって相手の体勢を崩したり、攻撃を逸らしたりと多様な利点がある。
吹き飛ばされたダルタニアンに向けて次元収納から取り出した小さめのナイフを3本投擲する。
普通ならまとめて一気に投げればバラバラの方角に飛び、当たることはないだろう。
だけどこの魔法が付加されたナイフは特別で私が意思を持って風を操り、さらに加速してバラバラに命中させることも可能となっている。
放たれたナイフはそれぞれ弧を描き、1本は撃ち落とされたが、残りの2本はダルタニアンの肩と左足を掠めた。
奴はレイピアを持っている。
この武器は突攻撃にめっぽう強い反面、こうした防御面ではどうしても守る面積が少ないためこういった投げナイフなどを捌くのには向かない。
「くっ…マッドウォール!」
ダルタニアンを中心として泥の壁が広がるように迫ってくる。
水魔法と土魔法の混合技、この泥の壁はただの防御魔法なんかじゃない。
「そう、考えている通り捕まったら終わりですよ」
泥の壁がまるで意思を持っているかのように形を変え、迫ってくる。
「サイクロン!!」
迫ってきていたもはや手の形をしていた泥の壁を吹き飛ばすと、泥は散りじりになり、再び形作る。
「ただ吹き飛ばすだけじゃ意味がないんですね…」
「クハハ、その通りだよ、ただ吹き飛ばしてもこの泥の壁は貴方を捕らえるまで再生を繰り返すのですよ、貴方に逃げ切れますかな?」
相手を陽動するために壊した水路から洩れた水のせいもあってこの魔法はさらに強化されているようだ。
地面を這うように次々と泥の壁が形作られていく。
「クハハ、これで貴方に逃げ場はない!」
いつのまにか周囲を高い泥の壁に囲まれてしまっていたようだ。
泥の壁が私を捉えようと覆いかぶさるように迫ってくる。
私は地面に剣を突き刺し魔力を混ぜ合わせるイメージを思い描く。
「コールドブレス!!」
「なに!?」
冷気が突風の如く剣の周囲から吹き出るように広がっていく。
瞬く間に泥の壁は凍り付き脆く崩れ去っていく。
「暴風と氷の複合魔法、これで貴方の得意な魔法を潰せましたね」
「そんな馬鹿な、複合魔法は簡単にできるものじゃないはずだ… こんな高位の…」
ダルタニアンは驚愕に目を見開きぶつぶつと「あんな昨日まで只のお飾りの姫君でしかなかったのになぜ…」と独り言をつぶやいている。
本来こういった複合魔法を習得するためにはたった1ヶ月程度死ぬ気で訓練したとしても覚えられるわけがない魔法だ。
まぁ、ネタ晴らしをすると地面に突き刺す瞬間に銀製の剣を次元収納にしまって、入れ替えるように冷却魔法が施されている剣を地面に突き刺し、暴風魔法を発動させただけのこと。
ダルタニアンから見れば私がとても高位の複合魔法をいとも簡単に操ったように見えただろう。
これでダルタニアンは得意とする水と土の複合魔法を使えなくなった。
「来ないならこちらから行きますよ」
「ぐぅう!!」
攻撃に移らせないように、手早く手数を多くダルタニアンに剣を打ち込んでいく。
ダルタニアンは後退しながらもレイピアを上手く扱い、素早い私の攻撃をなんとか迎撃するので精一杯のようだ。
「ぜぇ、ぜぇ… 小娘ごときにこの私がこんな… くそっ!!」
「はぁああああ!!」
ギィンという甲高い音と共にダルタニアンのレイピアが宙を舞う。
そのままレイピアはバシャンと濡れた地面の上に激しい水飛沫を上げ落ちた。
「貴方の負けです、大人しく手錠の鍵を渡して投降してください」
剣をダルタニアンの喉元に押し付け、投降を促したが、ダルタニアンは何がおかしいのかずっと笑っている。
「クハハ、クハハハハ、この私が負けた? クハハハ…」
「ええ、貴方の命は私が握っています。何がそんなに可笑しいと言うのですか!!」
この男、喉元から血が流れているのに平気そうな顔で笑っている…
「ほんとに想定外だよ、とんだダークホースだ。仕方ない、私も変な剣士のプライドは捨てねばいけないねぇ」
「いったい何を言って!?何をしているの!?」
怪しい動きをしたダルタニアンの腕を掴もうとしたが少し遅かった。
ダルタニアンは握りしめていた十字架のような物を深々と自分の胸に突き刺したのだ。
「なっ… ああ… これは…」
血がダルタニアンの胸からとめどなく溢れていく。
これは… あの時のっ…
「うっ!!」
唖然としていた私をダルタニアンは思いっきり突き飛ばした。
地面を数度転がり、すぐに起き上がって見ると、ダルタニアンの身体はボコボコと形を変えていく。
そんなっ… あの十字架は… お母さんを魔物に変えた…
息が荒く、動悸が激しくなってくのがわかる。
あの時の嫌な記憶がフラッシュバックされる。
「いや… いや… そんなっ… どうしてここに…」
頭を抱え、敵を直視することができない。
その間にもダルタニアンだった物は形を変え肥大していく。
不気味な音と破裂音が辺りに響き渡る。
やがて肥大したそれは形を成し、高さ6m程、腕を6本生やし、赤い血のような瞳と黒い体が不気味な化け物へと変貌した。
「グギョォオオオオオオオオ!!!!」
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