魔法力0の騎士

犬威

文字の大きさ
91 / 104
第二章 アルテア大陸

side キルア=エンドレア ~疲労~

しおりを挟む
 水飛沫が跳ね、いつの間にか降っていた雨は私の体温を的確に奪っていく。

 バシャバシャと激しく音を立てて、剣戟を交わしているのは二人。

 キルア=エンドレアとダルタニアン。

 しばらくは気力でなんとか持ちこたえていたキルアだったが、次第に疲労や怪我がその体力を確実に削っていた。


「ほらほらほらぁ、足がまったく動けていないぞ?」

「ぐっ… うぅ… はあっ!!」

「おおっとぉ、クハハ、当たらなくて悔しいか?苦しいか?」

「おのれっ…!!」


 幾度も剣をするりと躱され体力を消耗させている私にこの男はあざ笑うように言葉を投げかける。


「いいねぇ、その必死の表情、実にたまらない」

「はぁ… はぁっ… 黙れっ!!」

「クハハ、いい威勢だぁ、簡単に折れてしまってはつまらんからなぁ… 実にそそられる」


 こいつにフェイントは通用しない、踊るようなステップは距離感を掴み損ね、重心をどちらにかけているのか全く分からないような動きをする。

 踏み込んだ剣戟をなぞるかのように合わせられ、躱されてしまう。

 こいつは私の動きがわかるとでも言うのか…


「っつ… スプラッ… くぅ…!!」

「魔法を打たせると思うかね?」


 剣が弾かれ、徐々に距離を詰めてくるダルタニアンに退きながら攻撃を振り払っていく。

 くそっ!!防御するので精一杯だ!


「まずは肩に一発、そして左脇腹、ほらその右足も、ほらほら隙だらけだ」

「ぐっ、うっ、ぐぅうぅ!!」


 レイピアで貫かれ、鮮血が飛び散る。


「良い苦悶の声だ、まるでバラードを聴いているような気分だよ」


 なぜ、私の攻撃は当たらず、こいつの攻撃は当たるのだ…

 痛みからか額に脂汗が浮かんでくる。

 手に持つ剣は痛みと疲労のせいでカタカタと揺れる。


 ここまでだと言うのか…


 さっきからじわじわと傷をつけられ、出血もひどくなってきていて視界もクラクラする。


 私が… 負ける… こんな男に…


 ギリッと奥歯を噛みしめ、がくりと膝を着く。
 もう体力の限界だ。
 足もいう事が利かなくなってきている。


「クハハ、なぁに私は優しいですから、命は救ってさし上げますよ、ただ条件として貴方は私の妻として一生を過ごすことになりますが、命には代えられませんからねぇ…」

「はっ… はっ… だ… れが… お前なんか… に」


 ダルタニアンは雨が降りしきる曇天の空を見上げ、手を広げ高らかに言う。


「ようやくだぁ…その強気な目も、艶やかな唇も、その男を惑わす肉体も全て!!全て!!私の物ですよ!」

「そんな… はずかしめを… 受けるくらいなら…」

「バインド」

「ぐぅううう!!!」


 剣に力を込めようとしたその時にダルタニアンの放った土属性魔法のバインドにより雁字搦がんじがらめに地面に固定され、身動き一つ取れなくなる。


「クハハハハ、はぁ、はぁ、させませんよ、そんな勿体ないことぉ私が許すわけがないだろぉ!!」

「むぐぐぐ… んんー!!!」


 暴れようともがくが、戦闘に体力を使い果たしてしまった私は、もがくことすらままならなかった。


「そうだ!! その目が見たかった、その絶望に染まった目が私を震え上げさせる前奏曲となるのだ、まずはその邪魔な鎧を一つずつ外すことから始めるとしよう…」

「んんー!!!」


 やめろ…

 くるな…


「ぐぅぼぉおおおお!!!」


 ダルタニアンの手が私に触れようとしたその時、突如突風が駆け抜け、大きな衝撃と共に、ダルタニアンが大きく吹き飛ばされる。


「良かった、間に合ったみたいで…」


 そこに立つのは赤い綺麗な髪、可愛らしい猫のような耳、緑色の鎧に身を包んだ、私達が仕える王家の王女。

 シェリア=バーン=アルテア第1王女。


 ーーーーーーーーーーーー


【side シェリア=バーン=アルテア】


 危なかった… もう少し遅かったらキルアさんはもっと酷いことに合っていた。

 運が良かった。


 随分と熱心に話していたおかげで私への注意がおろそかになっていてくれた。

 まずは一撃、これはキルアさんの心の痛みだ!


「ぐぅうう… 邪魔をしおってぇええ!! ふー、ふー、おや、誰かと思えば王女サマじゃありませんか、よく戻ってこれましたねぇ、この大陸に」

「ええ、貴方のおかげで本当に散々だった。よくも騙してくれたわね!」


 剣でキルアさんを雁字搦がんじがらめにしている魔法を壊していく。


「うっぅ… すみ… ません…」

「いいんですよ、キルアさんは頑張ってくれました。 次は私が頑張る番です」


 これで魔法を解除できた、後はこの男から鍵を奪って倒すだけ。

 クスリとあごに手をあてておかしそうにダルタニアンは話す。


「私は心配していたのですよ?お二人に何かあったらと思うと気が気じゃありませんでしたからねぇ…」

「よくもそんな言葉が出てくるんですね、私は貴方も絶対に許しはしないのですよ?」

「許しはしない? クハハハ、いったい貴方が、何を、許さないと言うのですか? 王室でただ時間を浪費していた貴方が、武器もろくに扱わない貴方の、どこにそんな力があるというのですか? これは傑作だぁ… そんな冗談は止めて、おとなしく王室で本でも読んでいればいいものを…」


 ダルタニアンは大仰な仕草であざ笑う。


「私をあの頃の無力な王女だといつまでも思わないでください、サイクロンエレメント!」


 暴風の風が剣に集約され、重さを軽減するかのようにふわりと体が軽くなる。


「なっ!? 上級付加魔法だと!? いったいどこでそんな力を…」


 さっきまでの優越感に浸った顔では無くなり、素で驚いているようだ。
 それもそのはず、上級魔法とは長い年月を経て獲得できる魔法。
 ほんの数か月で覚えられるわけも、身に着けることさえも本来ならできない。

 この鎧はそんな私の力を補助し、上級魔法まで使えるように造られている。


「言ったはずです、私をあの頃と一緒にしないでください、これは私の復讐の始まりなんですから」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...