夢を追うものたち

春夏鳥

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ビールの苦味の意味

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室外機の音、

風呂場からシャワーの音が聞こえる。


僕はその音で

空想の世界から現実に戻された。
目の前には白い壁、天井、

何時間寝ていたんだろう。

ラクロスの自主練のあと、ソファで寝てしまっていたようだ。

風呂場からバタバタと音がする、みさきが帰宅しているみたいだ。


「あっ、起きたんだ」
しっかりと拭ききれてない下着姿と濡れた髪で後ろから声をかけてきた。

「ごめん、帰ってきてたんだね、」
おかえりと言いかけたとき、みさきは後ろにはおらず、
キッチンで缶ビールあけて、飲んでいた。 
「くー、やっぱビールは美味しいなー」 と独り言を言うみさき。

その姿は強敵を倒し、勲章を得た勇者のように僕には輝いてみえ、輝きすぎてて、目を背けた。


彼女は僕より4つ年上である。
出会いは前の職場で彼女は先輩だった。

彼女は
僕が新入社員だった時の直属の先輩でもあったが、
僕が入社した時点で、彼女は営業成績トップで周りから期待の星でもあった。 
今は若手、営業課長で部下を指導している。
彼女との付き合いは、なんとなく流れだった。
あの頃僕には
三年付き合った年下彼女がいたが
あまりにも幼く、仕事熱心なみさきに興味をいただき、付き合うことになった。

今や 5年も付き合っている。

「けんちゃん、今日何してたん?」
と彼女はビールを僕に渡してきて、
ソファに腰掛けた。

「今日は練習試合してきた」
「試合勝てた?」
「当たり前やろ、余裕よ」
と僕は嘘をついた。

なぜ嘘をついたか、

それは彼女が持つビールと僕が手にしたビールの意味の差を埋めたかったからかもしれない。
惨めだったからではない。

「へー、けんちゃんはすごいね」
「はやく、プロ選手になってね」
彼女の屈託のない笑顔に
僕は目が当てられず

ただのビールを一気に飲んだ。
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