破壊の魔女は愛する人と暮らしたい

高田 和奈

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『あーーもう!!』
苛立っている女の声で目が覚めた。

追っ手に追われていて、夜だったので崖に気づかず落ちた。落ちた時、受け身はしっかり取ったので怪我はない。
崖から落ちたおかげで、追っ手をまけたようだ。追われてから飲まず食わずで逃げ回っていたので、追っ手を巻けたことで、つい安心して熟睡してしまったらしい。

まさか、運ばれたことすら気づかないほど熟睡するとは...。
とりあえず、状況把握が先だ。

質素ではあるが、よく手入れのしてある部屋。女性が好みそうな内装。刺しかけの刺繍。暖かい布団は良い匂いがする。おい!何考えてるんだ!!

先程、聞こえた声がこの部屋の主なのかもしれない。自分のベッドに見ず知らずの男を運ぶってどうなんだ?声は若そうだったけど、こういうことに慣れた女なんだろうか。

身なりを確認すると、あんなに汚れていた衣服がスッキリと綺麗になっていた。枕元に、剣が置かれているので、どうやらこの部屋の主は、自分に危険を感じていないらしい。

ふと自分の指にはめていた指輪に目が止まり、外して懐にしまい込む。質素な室内を見るからに村の女なんだと思える。指輪の紋章など分からないだろうが、身元がバレる危険は避けたい。

『あーーーもう!!』
また、女の声がする。やっぱり年若い女の声にしか聞こえない。女の一人住まいに見ず知らずの男を連れ込むなんて、危機感が無さすぎる。

まぁ、下手に騒がれるよりは、こっちは助かるけど。しかし、剣もそのまま、不用心すぎる。

女の声を聞いたら、どういうわけか、まだ見てもいない女の事が気になって仕方がない。状況把握をしようと思うのに、気がつくと考えているのは、声の主のことで、自分が分からなくなる。
きっと、この布団の匂いのせいだ!!
変態か!!

女の一人暮らしのようなこと
こちらに対して危険を感じていないらしいこと
何に苛立っているのかは分からないけれど、騒ぎ立てるつもりもないらしいこと
とりあえず、しばらくは、身の安全が保証されそうなこと
一つ一つ確認をし、
出来れば、体力が戻るまでの休息場所が欲しい。しばらく、滞在させて貰えたらありがたい。しかし、女一人暮らしじゃ、それは望めないか。

コンコン

ノックする音がしたので、様子を見るのに布団をかぶり寝たフリをすることにした。

静かにドアが開き、そーっと近づいてくる気配がする。それは、起こさないようにという、優しさが感じられた。

顔をのぞき込まれている感じがしたが、直ぐに離れる。
その後は静かに時間が過ぎていく。
まずい。目を開ける機会を逸した。

うっすらと目を開けると、刺繍を始めたようで、こちらのことは気にも止めていないようだ。
あの細腕で、ここまで、どうやって運んだんだろう。
自分の服が綺麗になっていることも気になる。
もう、じっと寝ているふりも限界だ。

「あの、、、」

思い切って声をかけ、起き上がる。娘は手元の刺繍から手を離し近づいてくる。
想像していたよりも若く、まるで妖精のような可憐な少女のようだった。花が咲くように笑顔を向けてくる。紫の瞳が印象的だ。

「簡単な手当はしたのですが、どこか痛いところとかはございませんか?」
「いえ...助けて頂いたようで、ありがとうございます」

ベッドから立ち上がり、礼をすると、娘はほんの少しはにかんだように笑った。

「あの、お食事のご用意を致しましたが、召し上がれますか?」

食事と聞き、現金にも、急に飢えていたことを思い出した。
娘の所作は教育を受けている洗練されたものだった。村娘と思ったが、元は上級貴族だったのが今は没落した貧しい貴族の娘なのかもしれない。

出されたのは、顔が映るくらい透き通ったスープ。想像していたよりも生活は貧しいのかもしれない。

勧めららるままスープを口に運ぶ。空になった胃袋に温かいスープが染み渡っていく。作ってくれた娘の笑顔のように優しい味と温かさだ。

「うまい」
思わず声が漏れると
「よかった」

嬉しそうに笑顔を向けてくる娘の顔にドキッとした自分に驚く。綺麗な女など見慣れていたし、そんなことで、いちいち胸が踊るなんてこともなかった。自分の胸の内を誤魔化すようにスープを、口に運ぶ。後は夢中で飲んだ。

スープを飲み終えると、先ほどとは別の部屋へ通される。何も尋ねず、見ず知らずの男を泊めることも気にせず、この娘は一体何を考えているのか。しかし、今は、疲れた体を休めたいのも事実。行為に甘えることに決めた。

変わった娘だ。何も聞かず、名前すら聞かず、名乗りもせず。
しかし、今は、それが有難い。

布団に潜り込むなり、死んだように眠るのだった。

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