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44話 11月19日 三沢邸
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「佳花、ちょっと部屋に入っていいかな」
「なに、お父さん」
「あ、勉強してたのか? 悪かったな」
「勉強というか……公文のワークとか……」
「そうか。いま、どんなことをしてるんだ?」
「どうして?」
「え、どうしてって……?」
「どうしてそんなことに興味を持つの?」
「興味って……。だって、佳花はお父さんの娘じゃないか。毎日どんな勉強しているのかな、とか。そういえば佳花は本が好きだったな。いまどんな本を読んでるんだ?」
「お母さんになにか言われたの?」
「……え、と。そんなことないよ。ここのところ、佳花とあんまり話せてないから。だからお父さん、ちょっと……」
「話せてないって、どれぐらい話してないと思う?」
「え……」
「別に私は話すことないし。お父さんは私となにを話したいの?」
「え……っと」
「……」
「その……。学校はどうだ?」
「どうだって?」
「楽しい、とか。好きな友達がいる、とか」
「学校は勉強をしに行くところで、好きな友達を作りにいくところじゃないと思う。勉強は楽しいし、嫌な友達はいるけど、いい友達もいる」
「そう……か」
「……」
「あ、そうだ! 佳花は公文しか習い事してないんだよな? 真花みたいにバレエを習ったらどうだ? お母さんにピアノを教えてもらうのもいいな」
「私もバレエを習ってた。ピアノも」
「え……?」
「お母さんが『楽しくなさそうだし、一番がとれそうにないから辞めよう?』って言うし。辞めた。私は続けたかったけど、お金を出してくれるのはお母さんだから。仕方ないよね」
「あ……え?」
「ほかにも絵画教室とかスイミングとか行って、私は面白いなと思うけど、お母さんが『一番がとれそうにないから、向いてないわね』って。だからいまは公文だけ。たぶん、これからも公文か学習塾にしか行かないとおもう」
「お、お母さんに言ってやろうか? お父さんから。佳花はいろいろしたがっているって」
「お父さんが言ったら、私の好きなことができるの?」
「当たり前じゃないか!」
「私はそうは思わないけど」
「な、なんでそう思うんだ」
「いままでずっとそうだったから。きっとお父さんは来週ぐらいに『お父さんがんばったけど、ダメだって。送迎もできないしな』って私に言うと思う」
「そんなこと!」
「お父さん、きっと忘れてる」
「なにを」
「前にもこういうこと、何回かあったよ。私が行きたいけどお母さんに断られて……。お父さんに頼んだら、『ごめんな、ダメだって』って」
「え……」
「それで?」
「……え?」
「今度はお母さんになにを言われたの? 私のなにが聞きたいの?」
「………いや、あの……」
「真花のこと? 最近あの子、なんだか元気がないみたいだけど。私は理由がわからない。っていうか、学校自体がふわふわしている。あの事件以来」
「そ、そうなのか。佳花はどうだ? なにかこう……しんどいところがあるのか?」
「ないけど」
「いやでも……その。ときどき、独り言みたいな声が部屋から聞こえてくるから」
「お母さんがそう言ってた?」
「いや、お父さんが聞いたんだ」
「嘘」
「嘘じゃないよ」
「だってそんな時間にお父さん、いないじゃない」
「……」
「ふうぅん。お母さん、そんなこと気にしているんだ」
「お母さんだけじゃない。お父さんだって、真花だって気にしているよ」
「ねえ、お父さん」
「なんだ?」
「お母さんのピアノ教室のことだけど」
「なんだ? 習いたいのか?」
「生徒の数や月謝からだいたいの収入は計算できるんだけど。もしこの収入がなくなったら、私や真花は大学まで進学できない?」
「え? いや、そんなことないよ! お父さんひとりの収入で全然大丈夫だよ!」
「本当?」
「当たり前じゃないか!」
「そう。よかった」
「え……、その。佳花」
「お母さんに伝えて。なんにも心配いらないからって」
「佳花」
「勉強したいんだけど。いい?」
「ああ……うん」
「なに、お父さん」
「あ、勉強してたのか? 悪かったな」
「勉強というか……公文のワークとか……」
「そうか。いま、どんなことをしてるんだ?」
「どうして?」
「え、どうしてって……?」
「どうしてそんなことに興味を持つの?」
「興味って……。だって、佳花はお父さんの娘じゃないか。毎日どんな勉強しているのかな、とか。そういえば佳花は本が好きだったな。いまどんな本を読んでるんだ?」
「お母さんになにか言われたの?」
「……え、と。そんなことないよ。ここのところ、佳花とあんまり話せてないから。だからお父さん、ちょっと……」
「話せてないって、どれぐらい話してないと思う?」
「え……」
「別に私は話すことないし。お父さんは私となにを話したいの?」
「え……っと」
「……」
「その……。学校はどうだ?」
「どうだって?」
「楽しい、とか。好きな友達がいる、とか」
「学校は勉強をしに行くところで、好きな友達を作りにいくところじゃないと思う。勉強は楽しいし、嫌な友達はいるけど、いい友達もいる」
「そう……か」
「……」
「あ、そうだ! 佳花は公文しか習い事してないんだよな? 真花みたいにバレエを習ったらどうだ? お母さんにピアノを教えてもらうのもいいな」
「私もバレエを習ってた。ピアノも」
「え……?」
「お母さんが『楽しくなさそうだし、一番がとれそうにないから辞めよう?』って言うし。辞めた。私は続けたかったけど、お金を出してくれるのはお母さんだから。仕方ないよね」
「あ……え?」
「ほかにも絵画教室とかスイミングとか行って、私は面白いなと思うけど、お母さんが『一番がとれそうにないから、向いてないわね』って。だからいまは公文だけ。たぶん、これからも公文か学習塾にしか行かないとおもう」
「お、お母さんに言ってやろうか? お父さんから。佳花はいろいろしたがっているって」
「お父さんが言ったら、私の好きなことができるの?」
「当たり前じゃないか!」
「私はそうは思わないけど」
「な、なんでそう思うんだ」
「いままでずっとそうだったから。きっとお父さんは来週ぐらいに『お父さんがんばったけど、ダメだって。送迎もできないしな』って私に言うと思う」
「そんなこと!」
「お父さん、きっと忘れてる」
「なにを」
「前にもこういうこと、何回かあったよ。私が行きたいけどお母さんに断られて……。お父さんに頼んだら、『ごめんな、ダメだって』って」
「え……」
「それで?」
「……え?」
「今度はお母さんになにを言われたの? 私のなにが聞きたいの?」
「………いや、あの……」
「真花のこと? 最近あの子、なんだか元気がないみたいだけど。私は理由がわからない。っていうか、学校自体がふわふわしている。あの事件以来」
「そ、そうなのか。佳花はどうだ? なにかこう……しんどいところがあるのか?」
「ないけど」
「いやでも……その。ときどき、独り言みたいな声が部屋から聞こえてくるから」
「お母さんがそう言ってた?」
「いや、お父さんが聞いたんだ」
「嘘」
「嘘じゃないよ」
「だってそんな時間にお父さん、いないじゃない」
「……」
「ふうぅん。お母さん、そんなこと気にしているんだ」
「お母さんだけじゃない。お父さんだって、真花だって気にしているよ」
「ねえ、お父さん」
「なんだ?」
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「佳花」
「勉強したいんだけど。いい?」
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