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第21章 金瓢箪の進撃
ウオォォォォォォォ――ッ!!!
一万五千の織田・羽柴軍の咆哮が、椎葉の空気を震わせた。
夕日に輝く無数の槍の穂先。そして、馬印の「千成瓢箪(せんなりびょうたん)」が、波のように押し寄せる。
「撃て! 撃ち払え!」
ギャレット軍の士官が叫ぶが、遅い。
彼らは博史との死闘で弾薬を消耗し、疲弊しきっていた。そこへ側面から突撃を受けたのだ。
黒い軍団の隊列が、積み木崩しのように崩壊していく。
「チェストォォォ!!」
「一番首は俺のものだぁ!」
戦国最強の機動力を持つ羽柴軍の足軽たちが、近代装備の黒い兵士たちに肉薄する。
銃剣対、槍。
距離さえ詰めれば、数の暴力と士気の高さで勝る羽柴軍が有利だ。あちこちで白兵戦が始まり、黒い鎧が泥に沈んでいく。
***
呆然と立ち尽くす博史の前に、派手な陣羽織を着た男が馬を乗り入れた。
猿顔の英雄、羽柴秀吉だ。
「よう、生きてるか兄弟!」
秀吉は馬上から手を差し伸べ、博史の泥だらけの手をガッチリと握った。
「羽柴様……どうして、こんなに早く……」
「へっ。上様の命令より、ダチの命の方が大事だってね。中国大返し……ならぬ『安土大返し』ってやつよ。三日三晩、不眠不休で走らせてきた」
秀吉はニカっと笑ったが、博史の背後――破壊された工場と孫六の遺体――を見て、表情を曇らせた。
「……高い代償を払ったな」
「はい。……かけがえのないものを失いました」
博史が唇を噛んだその時、戦場の中央から赤い信号弾が上がった。
ギャレット軍が秩序を保ったまま後退を始めた合図だ。
「逃がすかよ! 追え! 根絶やしにしろ!」
秀吉が采配を振るう。
だが、博史の中に、強烈な胸騒ぎが走った。
ギャレットは合理的な男だ。負け戦と分かれば即座に引くはず。なのに、なぜ一部の精鋭部隊だけが、あえて城の裏手――**「非戦闘員(女性や子供)の避難所」**の方へ動いている?
「……まさか!?」
博史の顔色が変わる。
「小雪!!」
博史は秀吉の手を振りほどき、狂ったように走り出した。
嫌な予感が脳裏を埋め尽くす。
ギャレットの言葉が蘇る。『俺の軍団は止まらない。女も子供も……』
***
城の裏手にある岩窟。
そこは野戦病院兼、避難所になっていた。
小雪は、動けない負傷兵たちを守るように、薙刀を構えて立っていた。
「どきなさい! ここは怪我人しかいません!」
彼女の凛とした声が響く。
だが、彼女を取り囲んでいるのは、ギャレット直属の親衛隊(黒人の巨漢兵士たち)だった。
「Target acquired.(目標確認)」
「The Commander wants her alive.(指揮官は彼女を生け捕りにしろと言っている)」
兵士たちが無機質な声で呟き、ジリジリと距離を詰める。
小雪が薙刀を一閃させるが、兵士はそれを素手で受け止め、簡単にへし折った。
「きゃっ!?」
「Come with us.(来てもらおうか)」
兵士の太い腕が小雪を捕らえる。
その時。
「その人から離れろォォォッ!!」
博史が飛び込んできた。
ライフルを構え、走りながら発砲する。
ズドンッ!
一人の兵士の肩を撃ち抜くが、彼らは防弾プレート入りの重装備だ。怯みはしたが倒れない。
「博史様! 来てはいけません!」
小雪が叫ぶ。
直後、博史の視界の端で、黒い影が動いた。
ジョン・ギャレットだ。
彼は混乱に乗じて、自ら別動隊を率いてここへ来ていたのだ。
「Too slow, Doctor.(遅いな、博士)」
ギャレットが、捕らえられた小雪の首筋に、冷たいナイフを当てた。
博史の足が止まる。
「……卑怯だぞ、ギャレット! 彼女は関係ない!」
「関係あるさ。お前の弱点(ウィークポイント)だ」
ギャレットは冷酷に笑った。
「お前の勝ちだ、今回はな。猿の軍勢まで呼ぶとは計算外だった。だが、戦争(ゲーム)はまだ終わらない」
ギャレットは小雪を引きずるようにして、待機させていた装甲馬車へと後退していく。
「返して欲しければ、一人で来い。……北の『黒鉄の城』へな」
「博史様! 私はいいから! 撃って! 奴を撃ってください!」
小雪が泣き叫ぶ。
博史はライフルを構えたまま、引き金を引けない。
今撃てば、ギャレット諸共、小雪を撃ち抜いてしまうかもしれない。その一瞬の迷い。
「Good boy.(いい子だ)」
ギャレットは小雪を馬車に押し込み、自らも飛び乗った。
護衛の兵たちが発煙筒(スモーク)を焚く。
白い煙が視界を奪う。
「待て! 待ってくれ! 小雪ぃぃぃ!!」
博史は煙の中へ突っ込んだ。
だが、馬車の車輪の音は、遠ざかっていく。
追いすがる博史の手が掴んだのは、小雪が落とした一本の簪(かんざし)――博史がプレゼントした、青いガラス玉のついたもの――だけだった。
***
煙が晴れた後。
そこには、簪を握りしめて膝をつく博史の姿があった。
秀吉が遅れて駆けつけ、状況を悟り、痛ましげに顔を歪めた。
「……さらわれたか」
「……あぁ」
博史の声は、死人のように低かった。
国は守った。仲間も守った。
だが、その代償として、自分の魂の半分を持っていかれた。
博史はゆっくりと立ち上がった。
その瞳から、光が消えていた。
あるのは、暗く、冷たく、決して消えることのない復讐の炎だけ。
「……羽柴様。兵をお借りしたい」
「ああ、構わねぇが……どうするつもりだ?」
博史は北の方角、ギャレットが消えた闇を見据えて言った。
「『神の雷』はいらない。……悪魔を殺すための、最期の兵器を作る」
第2部・完。
そして物語は、悲劇と愛が交錯する最終章――第3部へと突入する。
(第21章 完)
一万五千の織田・羽柴軍の咆哮が、椎葉の空気を震わせた。
夕日に輝く無数の槍の穂先。そして、馬印の「千成瓢箪(せんなりびょうたん)」が、波のように押し寄せる。
「撃て! 撃ち払え!」
ギャレット軍の士官が叫ぶが、遅い。
彼らは博史との死闘で弾薬を消耗し、疲弊しきっていた。そこへ側面から突撃を受けたのだ。
黒い軍団の隊列が、積み木崩しのように崩壊していく。
「チェストォォォ!!」
「一番首は俺のものだぁ!」
戦国最強の機動力を持つ羽柴軍の足軽たちが、近代装備の黒い兵士たちに肉薄する。
銃剣対、槍。
距離さえ詰めれば、数の暴力と士気の高さで勝る羽柴軍が有利だ。あちこちで白兵戦が始まり、黒い鎧が泥に沈んでいく。
***
呆然と立ち尽くす博史の前に、派手な陣羽織を着た男が馬を乗り入れた。
猿顔の英雄、羽柴秀吉だ。
「よう、生きてるか兄弟!」
秀吉は馬上から手を差し伸べ、博史の泥だらけの手をガッチリと握った。
「羽柴様……どうして、こんなに早く……」
「へっ。上様の命令より、ダチの命の方が大事だってね。中国大返し……ならぬ『安土大返し』ってやつよ。三日三晩、不眠不休で走らせてきた」
秀吉はニカっと笑ったが、博史の背後――破壊された工場と孫六の遺体――を見て、表情を曇らせた。
「……高い代償を払ったな」
「はい。……かけがえのないものを失いました」
博史が唇を噛んだその時、戦場の中央から赤い信号弾が上がった。
ギャレット軍が秩序を保ったまま後退を始めた合図だ。
「逃がすかよ! 追え! 根絶やしにしろ!」
秀吉が采配を振るう。
だが、博史の中に、強烈な胸騒ぎが走った。
ギャレットは合理的な男だ。負け戦と分かれば即座に引くはず。なのに、なぜ一部の精鋭部隊だけが、あえて城の裏手――**「非戦闘員(女性や子供)の避難所」**の方へ動いている?
「……まさか!?」
博史の顔色が変わる。
「小雪!!」
博史は秀吉の手を振りほどき、狂ったように走り出した。
嫌な予感が脳裏を埋め尽くす。
ギャレットの言葉が蘇る。『俺の軍団は止まらない。女も子供も……』
***
城の裏手にある岩窟。
そこは野戦病院兼、避難所になっていた。
小雪は、動けない負傷兵たちを守るように、薙刀を構えて立っていた。
「どきなさい! ここは怪我人しかいません!」
彼女の凛とした声が響く。
だが、彼女を取り囲んでいるのは、ギャレット直属の親衛隊(黒人の巨漢兵士たち)だった。
「Target acquired.(目標確認)」
「The Commander wants her alive.(指揮官は彼女を生け捕りにしろと言っている)」
兵士たちが無機質な声で呟き、ジリジリと距離を詰める。
小雪が薙刀を一閃させるが、兵士はそれを素手で受け止め、簡単にへし折った。
「きゃっ!?」
「Come with us.(来てもらおうか)」
兵士の太い腕が小雪を捕らえる。
その時。
「その人から離れろォォォッ!!」
博史が飛び込んできた。
ライフルを構え、走りながら発砲する。
ズドンッ!
一人の兵士の肩を撃ち抜くが、彼らは防弾プレート入りの重装備だ。怯みはしたが倒れない。
「博史様! 来てはいけません!」
小雪が叫ぶ。
直後、博史の視界の端で、黒い影が動いた。
ジョン・ギャレットだ。
彼は混乱に乗じて、自ら別動隊を率いてここへ来ていたのだ。
「Too slow, Doctor.(遅いな、博士)」
ギャレットが、捕らえられた小雪の首筋に、冷たいナイフを当てた。
博史の足が止まる。
「……卑怯だぞ、ギャレット! 彼女は関係ない!」
「関係あるさ。お前の弱点(ウィークポイント)だ」
ギャレットは冷酷に笑った。
「お前の勝ちだ、今回はな。猿の軍勢まで呼ぶとは計算外だった。だが、戦争(ゲーム)はまだ終わらない」
ギャレットは小雪を引きずるようにして、待機させていた装甲馬車へと後退していく。
「返して欲しければ、一人で来い。……北の『黒鉄の城』へな」
「博史様! 私はいいから! 撃って! 奴を撃ってください!」
小雪が泣き叫ぶ。
博史はライフルを構えたまま、引き金を引けない。
今撃てば、ギャレット諸共、小雪を撃ち抜いてしまうかもしれない。その一瞬の迷い。
「Good boy.(いい子だ)」
ギャレットは小雪を馬車に押し込み、自らも飛び乗った。
護衛の兵たちが発煙筒(スモーク)を焚く。
白い煙が視界を奪う。
「待て! 待ってくれ! 小雪ぃぃぃ!!」
博史は煙の中へ突っ込んだ。
だが、馬車の車輪の音は、遠ざかっていく。
追いすがる博史の手が掴んだのは、小雪が落とした一本の簪(かんざし)――博史がプレゼントした、青いガラス玉のついたもの――だけだった。
***
煙が晴れた後。
そこには、簪を握りしめて膝をつく博史の姿があった。
秀吉が遅れて駆けつけ、状況を悟り、痛ましげに顔を歪めた。
「……さらわれたか」
「……あぁ」
博史の声は、死人のように低かった。
国は守った。仲間も守った。
だが、その代償として、自分の魂の半分を持っていかれた。
博史はゆっくりと立ち上がった。
その瞳から、光が消えていた。
あるのは、暗く、冷たく、決して消えることのない復讐の炎だけ。
「……羽柴様。兵をお借りしたい」
「ああ、構わねぇが……どうするつもりだ?」
博史は北の方角、ギャレットが消えた闇を見据えて言った。
「『神の雷』はいらない。……悪魔を殺すための、最期の兵器を作る」
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