神隠しな戦国おたく

TAKAHARA HIROKI

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第9章 時の歯車

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鷹野博史の死から、日本の歴史は「史実」というレールを完全に外れ、未踏の領域へと突入した。
 父の遺した膨大な手記――後に**『鷹野全書(たかのぜんしょ)』**と呼ばれることになる数千ページのノートを、娘・**時(とき)**はわずか数年で全て読み解いた。
 彼女は天才だった。父の知識をただ模倣するのではなく、この時代の資源と職人技に合わせて最適化し、具現化する才能を持っていたのだ。
 ――産業革命の到来、およそ二世紀の前倒し。
 十五歳で椎葉の当主となった時(とき)は、瞬く間に周辺諸国にその影響力を広げた。
 彼女は決して表舞台で「王」を名乗らなかった。
 あくまで京の帝(みかど)に忠誠を誓う一豪族としての立場を貫きながら、裏では圧倒的な経済力と技術力で幕府や大名を膝屈させ、実質的な国の舵取り役――**「鉄の女宰相」**としての地位を確立していった。
 そして、運命の時が訪れる。
 史実では日本が恐怖に震えた「黒船来航」。
 だが、この世界線では違った。
 浦賀沖に現れたペリー艦隊を待っていたのは、博史の設計図を元に建造され、時(とき)が指揮する**「超弩級・蒸気装甲艦隊」**だった。
 黒船よりも巨大で、速く、強力な大砲を備えた日本の艦隊に、列強の提督たちは度肝を抜かれた。
「日本は未開の国ではなかったのか!?」
 時(とき)は甲板に立ち、流暢な英語でこう告げたという。
『通商は歓迎する。だが、侵略は許さない。……対等な友人として握手をするか、海の藻屑となるか。選びなさい』
 この瞬間、日本は植民地化の危機を回避したどころか、アジアにおける絶対的なリーダーとして覚醒した。
 その後、彼女は『鷹野全書』にある医学知識で感染症を駆逐し、農法改革で飢饉を無くし、教育を普及させた。
 彼女の執務室の壁には、生涯、父の形見である一丁のリボルバーと、ボロボロのノートが飾られていた。
 「誰も死なせない」という父の願いは、鋼鉄の意志を持つ娘の手によって、国家レベルの国防ドクトリンへと昇華されたのだ。
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