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【過去編】第2章:仮面の下の素顔
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それ以来、放課後の踊り場は二人の秘密基地になった。
蓮は毎日そこに現れた。
優音がギターを弾き、蓮はそれを聴きがら、コンビニで買ったパンをかじったり、漫画を読んだりする。会話は多くない。けれど、教室の喧騒よりも遥かに心地よい沈黙があった。
「……蓮くんはさ、なんでここにいるの?」
ある雨の日、優音は思い切って尋ねた。
「教室、居心地いいでしょ? みんなチヤホヤしてくれるし」
蓮は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「チヤホヤ? ああ、俺の『ガワ』がな」
彼は自分の整った顔立ちを、忌々しげに指差した。
「みんなが見てんのは、この顔だけだ。俺が何を考えてるか、何が好きかなんて、誰も興味ねえよ。笑って相槌打ってれば『クールで素敵』だとさ。……反吐が出る」
蓮は膝を抱えた。
「俺は、演じてるだけだ。『理想の王子様』って役をな。そうしてりゃ波風立たねえから」
優音はギターを抱え直した。
蓮もまた、仮面をつけて戦っているのだと知った。
優音の仮面は「透明人間」。蓮の仮面は「王子様」。
種類は違っても、息苦しさは同じだ。
「……私ね」
優音はポツリと言った。
「東京に行きたいの」
「東京?」
「うん。ここじゃない何処かへ。私の歌を、誰も私を知らない場所で試してみたい。……バカみたいだけど」
蓮は顔を上げ、優音をじっと見つめた。
その瞳の強さに、優音は射抜かれたような気分になった。
「バカじゃねえよ」
蓮は真剣な声で言った。
「お前の歌なら、行ける。俺が保証する」
何の根拠もない。けれど、その言葉は優音にとって、どんなプロの審査員の言葉よりも重く、温かく響いた。
「俺も行く」
「え?」
「俺も東京に行く。……役者になりたいんだ」
蓮は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「演じるのが嫌いって言ったけど、逆なんだ。日常で嘘をつくのは嫌いだ。でも、台本の上でなら……俺は誰にでもなれる。感情を全部さらけ出しても、誰にも文句言われない」
「役者……」
優音は想像した。スクリーンの中で、ありのままの感情を爆発させる蓮の姿を。
それはきっと、誰よりも美しく、誰よりも激しいだろう。
「うん。蓮くんなら、なれるよ」
「お互い、無責任な『保証』だな」
二人は顔を見合わせて笑った。
雨音が窓を叩く中、二人の「共犯関係」が結ばれた。
ここから抜け出すための同盟。
それは恋と呼ぶにはあまりに切実で、友情と呼ぶにはあまりに独占的な感情だった。
(第2章 完)
蓮は毎日そこに現れた。
優音がギターを弾き、蓮はそれを聴きがら、コンビニで買ったパンをかじったり、漫画を読んだりする。会話は多くない。けれど、教室の喧騒よりも遥かに心地よい沈黙があった。
「……蓮くんはさ、なんでここにいるの?」
ある雨の日、優音は思い切って尋ねた。
「教室、居心地いいでしょ? みんなチヤホヤしてくれるし」
蓮は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「チヤホヤ? ああ、俺の『ガワ』がな」
彼は自分の整った顔立ちを、忌々しげに指差した。
「みんなが見てんのは、この顔だけだ。俺が何を考えてるか、何が好きかなんて、誰も興味ねえよ。笑って相槌打ってれば『クールで素敵』だとさ。……反吐が出る」
蓮は膝を抱えた。
「俺は、演じてるだけだ。『理想の王子様』って役をな。そうしてりゃ波風立たねえから」
優音はギターを抱え直した。
蓮もまた、仮面をつけて戦っているのだと知った。
優音の仮面は「透明人間」。蓮の仮面は「王子様」。
種類は違っても、息苦しさは同じだ。
「……私ね」
優音はポツリと言った。
「東京に行きたいの」
「東京?」
「うん。ここじゃない何処かへ。私の歌を、誰も私を知らない場所で試してみたい。……バカみたいだけど」
蓮は顔を上げ、優音をじっと見つめた。
その瞳の強さに、優音は射抜かれたような気分になった。
「バカじゃねえよ」
蓮は真剣な声で言った。
「お前の歌なら、行ける。俺が保証する」
何の根拠もない。けれど、その言葉は優音にとって、どんなプロの審査員の言葉よりも重く、温かく響いた。
「俺も行く」
「え?」
「俺も東京に行く。……役者になりたいんだ」
蓮は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「演じるのが嫌いって言ったけど、逆なんだ。日常で嘘をつくのは嫌いだ。でも、台本の上でなら……俺は誰にでもなれる。感情を全部さらけ出しても、誰にも文句言われない」
「役者……」
優音は想像した。スクリーンの中で、ありのままの感情を爆発させる蓮の姿を。
それはきっと、誰よりも美しく、誰よりも激しいだろう。
「うん。蓮くんなら、なれるよ」
「お互い、無責任な『保証』だな」
二人は顔を見合わせて笑った。
雨音が窓を叩く中、二人の「共犯関係」が結ばれた。
ここから抜け出すための同盟。
それは恋と呼ぶにはあまりに切実で、友情と呼ぶにはあまりに独占的な感情だった。
(第2章 完)
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