星を仰ぐふたりのシナリオ

TAKAHARA HIROKI

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【外伝 美月編】第1章:真夜中のオスカー

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Side Story:ガラスの靴を脱ぐとき

東京、港区。
最上階にあるリビングの巨大なスクリーンには、ロサンゼルスの晴れやかな空と、赤い絨毯が映し出されていた。
「And the Oscar goes to...... Ren!」
発表の瞬間、画面の中の蓮が、隣にいる小柄な女性——優音を強く抱きしめる。
会場中がスタンディングオベーションに包まれる中、美月は手の中のクリスタルグラスを静かにテーブルに置いた。中身の高級な赤ワインは、一口も減っていない。
「……負けたわね」
独り言は、広い部屋に吸い込まれて消えた。
SNSのタイムラインは、その話題で持ちきりだった。
『蓮くんおめでとう!』『優音ちゃんとの絆が尊い』『最高のカップル』
そして、その影で囁かれる悪意あるコメントたち。
『元カノの美月、今どんな顔してんの?』『結局、美月は踏み台だったね』『作られたカップルじゃ本物には勝てないってこと』
美月はスマートフォンを伏せた。
悔しい? 悲しい?
いや、美月の胸に広がっていたのは、奇妙なほどの「納得」だった。
画面の中の蓮は、美月といた時のような「完璧な笑顔」を作っていなかった。
しわくちゃになるほど笑い、泣き、優音の手を命綱のように握りしめている。それは、どれだけ演技指導を受けても、どれだけ計算しても、美月には引き出せなかった表情だ。
「あなたは王子様じゃなかった。……ただの、傷つきやすい男の子だったのね」
美月は立ち上がり、窓際のガラスに映る自分を見つめた。
完璧にセットされた髪、流行のメイク、オーダーメイドのシルクのガウン。
どこから見ても「トップ女優・橘美月」だ。
けれど、その中身は空っぽだった。蓮が去ったからではない。彼というアクセサリーを失って、自分自身が何者なのか分からなくなっていることに気づいてしまったからだ。
テレビの中では、蓮がスピーチをしている。
『僕たちは一度、シナリオを見失いました』
その言葉が、美月の心に鋭く突き刺さる。
(私なんて、自分のシナリオを自分で書いたことすらないわ)
事務所が決めた役、世間が求めるイメージ、スポンサーが好む恋愛。
それらを完璧に演じることが「プロ」だと信じて疑わなかった。
けれど、その完璧な城は、泥だらけのスニーカーで歩いてきた二人の「本物」の前では、あまりにも脆い砂上の楼閣だった。
(第1章 完)
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