星を仰ぐふたりのシナリオ

TAKAHARA HIROKI

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〜episode2〜第10章:星降る夜明けとチェリーの味

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騒動から一ヶ月後。
アダムは詐欺罪や著作権侵害などで訴えられ、日本から逃げるように去っていった。
優音と蓮への疑いは完全に晴れ、二人は「権力に屈しなかったアーティスト」として、その存在感を不動のものにしていた。
二人は久しぶりに、あの公園に来ていた。
物語の始まりの場所。
「怖かった?」
蓮が缶コーヒーを開けて渡す。
優音はそれを受け取ると、一口飲んでから短く答えた。
「まさか。蓮が隣にいたのに?」
優音は不敵に笑ってみせた。その表情は、かつての守られるだけの少女ではない。蓮と背中を預け合って戦い抜いた、相棒の顔だった。
「言うねえ」
蓮が苦笑してベンチに背を預ける。
「ま、俺たちのシナリオにしては、ちっとばかりハードな展開だったが」
「そう? 退屈しなくて良かったんじゃない」
優音はポケットから無造作に何かを取り出した。
カサッ、と乾いた音がする。
赤い包み紙。棒付きキャンディ。
器用に片手で包装を剥くと、甘い香りがふわりと漂った。
「ねえ、蓮」
「あん?」
蓮が横を向いた瞬間、優音は何の躊躇いもなく、そのキャンディを蓮の口に放り込んだ。
「……むぐっ!?」
不意を突かれた蓮が目を丸くする。
優音は悪びれもせず、口の外に出た白い棒を指先で弾いた。
「借りは返す主義なの」
口の中に広がる、強烈な甘酸っぱさ。
チュッパチャプス、チェリー味。
蓮の脳裏に、灰色の高校時代がフラッシュバックする。
屋上の踊り場。
自分が強引にねじ込んだあのキャンディ。
「あの日、あんたが強引にこれ食わせなきゃ、私のスイッチは入らなかった」
優音はポケットに手を突っ込んだまま、ニヤリと笑った。
「だから、そのお返し。……文句ある?」
蓮は口の中のキャンディを転がした。
その時、電流が走ったように、あるフレーズが脳裏に蘇った。
優音がブレイクしたきっかけであり、ドラマの主題歌だったあの曲——『片想い』のサビの歌詞だ。
♪ 星の夜 願い込めて CHE.R.RY
♪ 指先で送るキミへのメッセージ
(……そうか)
蓮はハッとして、隣にいる優音を見た。
ずっと比喩だと思っていた。可愛い語呂合わせだと思っていた。
だが、違った。
あの歌詞は、あの日、屋上で俺が指先で弾いて渡した、このキャンディのことだったのだ。
彼女はずっと前から、一番最初の出会いの瞬間から、歌の中に俺へのメッセージを隠していた。
「……気づくのが遅えよ、俺も」
蓮は棒を咥えたまま、自嘲気味に、けれど最高に嬉しそうに呟いた。
「何が?」
「なんでもねえよ」
蓮は立ち上がり、夜空を見上げた。
ベタつくような接触はない。愛の言葉もいらない。
その答え合わせは、二人の胸の内だけで十分だ。
「さて、行くか」
「うん」
「次の現場が待ってる」
二人は歩き出した。
振り返ることはない。
冬の東京の夜空には、雲ひとつなく、満天の星が輝いていた。
その星々は、かつて屋上から見上げた時のような遠い憧れではなく、手を伸ばせば届く照明(スポットライト)のように、二人の背中を鋭く照らしていた。

『星を仰ぐふたりのシナリオ エピソード2』
—— 完 ——
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